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17 翔斗とゆいな

ローリもしびれを切らした。


「君達、早く歩きたまえ」

「翔斗には関係のない話だよ」

「何を!」


翔斗は心底怒り、太陽に食って掛かる。


「付き合ってるんは俺だからな」

「心配して言ってやってんだろ」

「いらん心配すんなって」


太陽は遠い目をする。

周りは緑が生い茂っていた。


「計画性はあるから大丈夫だよ」

「本当に? 後悔すんなよ」


(いいな、なんだかんだ言っても友達なんだな)

ゆいなは2人を横目に見ながら思うのであった。


「まず翔斗の演奏で柳川さんと翔斗は日本に帰るだろ。ビオの演奏でガウカとローリと俺、ビオが日本にある場所に行き、その世界樹から折り返してクライスタルまで飛んで。クライスタルからリコヨーテの世界樹にネニュファールが飛んでいき、そこから城まで歩いてく。そして美優達は中庭でクライスタル行って、美亜かアスの演奏で美優と俺を連れて日本に戻ればいいんだな」


太陽は悩みながら言う。


「そうだね」


会話しているうちにクライスタルの検問が見えてきた。


「パース」

「兵士手帳かい? 大丈夫さ。僕が名乗れば開くよ」


ローリはそう言うと厳格な佇まいになる。鹿撃ち帽を手で軽く上げる。


「お前たち、何者だ」


検問の前まで来ると長い槍を持った番人が聞いてくる。


「リコヨーテから来た。僕の名はローレライ=スターリングシルバー。実験のため世界樹を利用させてもらえるかい?」

「ろーれって、リコヨーテの国王様? 証拠となるものはありますでしょうか?」

「パース、これでいいかい?」


ローリは言いながらいかにも高そうなコヨーテのエンブレムのついた掛け軸をだして見せる。


「は、はい、確認しました。……おい、門を開け!」

「はいよ」


合図とともに門が開かれた。


「くれぐれもお気をつけて」

「ありがとう」


ローリは慈悲深げな笑顔で門をくぐる。

ビオや他の仲間も番人に注目されながら入ることになった。


「まずは俺からだったな?」

「柳川さんに変なこと言うなよ?」

「わかった、ところで」

「あーもう、翔斗喋るな」

「わかったよ」

「柳川さんも変なことしたらぶっ飛ばしていいですから」

「私は大丈夫だよ」

「じゃーな」


人通りの多い中、一同はクライスタルの世界樹の元にたどり着く。

翔斗はゆいなの手を掴んだ。そしてそのまま世界樹の膜へ入っていった。

バチッ、バチ!


「俺吹くのでよく見ていてください。ウォレスト」


翔斗はゆいなの手をやっと離すと、トロンボーンを出した。


先程とは楽器違いのジムノペディだ。

大きな音で吹く。

(ソリストは、なにか違うな)

ゆいなはある種の疑問を抱いたが思うだけにした。翔斗の音階はあっているようだが、たまにウインクしてくるので背筋がゾワゾワする。

長く感じた演奏が終了する。


「はあはあ、どうでした?」

「うまかったね、トロンボーン」

「ありがとうございます」


翔斗は笑うとくしゃっとなる顔をしていた。


「帰り送りますよ」

「いえ大丈夫ですよ」


ゆいなは目の前を見る。内側は紫色の膜になっている。


「ここって?」

「俺の通っている高校です」


翔斗は膜から出た。

ゆいなも続いた。


「偏差値が高くも低くもない高校です」

「へえ、私はね、女子校だったから新鮮かも」

「ビオちゃんがどうなったか知りたくないですか?」

「なにかあるの?」

「盗聴器仕掛けておきました。ローリの服に」


小さめなトランシーバーのようなものが翔斗の手に握られている。色は黒く、画面はノイズに合わせて波になっている。


「いつの間にそんな物を?」


ゆいなの問いには答えず、翔斗はポケットからワイヤレスイヤホンを取り出して、聞き始める。


「あ、私も聞く!」


ゆいなは迷っていた。天使と悪魔がいて悪魔に逆らえなかった。


「じゃあ共犯ってことで!」


翔斗は悪巧みしているかのような顔でイヤホンの片方をゆいなに手渡した。


『ビオさん、母親の病院に刺客を送ってもいいのかい?』

『母のことを……知っているんですか?』

『千香さんだね?』

『ず、ずるいです』

『弾かないなら、母親をリコヨーテまで連れていき、リコヨーテの病院に転院させるつもりだがいいのかい?』

『弾きます。その代わり母の脳梗塞を治してください』

『そうだね、治すまではいかなくとも寛解させよう。1ヶ月ごとに願い石を使おう。1ヶ月もたなかったらその時は諦めてくれ』

『今は寛解はしてますがいつまた、倒れるかが分かりません』

『月に1度、王国の医者に見てもらうかい?』

『いいのですか?』

『この場合は仕方ないよ、王国の医者と言っても対して医療は発達していないが。そうだ、日本の病院なら』

『日本の病院は嫌です。死にそうな人をおいて、助かる見込みのある人から助けると聞きました』

『トリアージだね』

「トリアージってなんだろう?」

「トリアージというのは災害時に多数の傷病者が発生したと際の救命順序を決めるため、標準が図られて分類されている。医療体制・設備を考慮しつつ、傷病者の重症度と緊急度によって分別し、治療や搬送先の順位を決定すること。ウィキペディアから」


翔斗はケータイを片手でいじりながらそういった。

『トリアージは仕方ないよ、今ネムサヤがかけてきた。千香さんからだそうだよ』

『ビオちゃん、もうお母さんを助けようと無理しないで。人の命、寿命は決まっているんだからと言伝を伝えてくれますか?』

『言わされてるのですね』

『そんなことはない。母親のこともこれからの君の行動で大きく変わるよ』

『弾くことにします。母親を心配させないでください。ウォレスト』

バチッバチッ!

世界が移り変わったような音が聞こえてきた。



ハープのジムノペディが流れる。

厳かな演奏は終わりを告げる。



「柳川さん、貸してあげますよ。気になるんでしょ? 俺もう帰らないとだし、録音してるから後で聞けますし」

「わかった。今度返すね」


2人は校舎の門から出ていく。

『ここは?』

『東京スモールサイトの近くです』

『それなら、ちょうど武楽器にお金が溜まっていたんだ。換金してもらおう』

『太陽君、君は現金な子だよ』

『いいだろ、ローリは気にすんな。ビオ、案内を頼む』


ガヤガヤ


音声マイクは外で混み合っている人の声をひろう。


『こんな人混みじゃ、迷ってはぐれちゃうよ。ローリ、手、繋ごう』

『ビオさんも手、貸してくれたまえ』

『待つのじゃ、わしが間に入ろう』

『ガーさん』

『それにしてもなんでこんなに人が多いんだ?』

『リコヨーテから避難してきた人、大勢いるからね』

『なるほど』


ザザザーガヤガヤ


再び雑音が流れる。


ゆいなは学校からの帰り道をケータイで調べながら歩いていく。

約20分はかかりそうだった。

しばらくすると音声は復活する。


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