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12 月影のマンモスとの戦い

「……ほう、その事は母上と検討させてもらおう」

「なかなかない発想だけどいいかもしれませんね」

「問題はどこに植えるかじゃのう」

「城とは反対側がいいだろうね。もちろん日本直通で」

「曲を考えないといけませんね」

「国歌がいいのでは?」

「そのことも母上と検討するよ、パース」


 ローリは上を見上げた。そして、箱の中からケータイを取り出した。


・容姿は分からないが月影が潜んでいる事。

・夜にその月影が動き出す事

・命令できるビオに注意する事。

・世界樹の挿し木で世界樹を増やせるかもしれない事。


 そんなことをローリが話していることをゆいなは聞いていた。

 電話は途切れる。

きゅるるる

 ゆいなの腹の虫がなった。


「あ、ごめんなさい」

「そういえば朝食食べてなかったんですよね」

「肉が食べれないとなると」


 ゆいなはケータイで付近の食べ物屋を探す。


「回転しない回転寿司はどうですか?」とゆいなが言いながら黒いバックの中の黒い財布を取り出す。中身は無事一人10皿食べても問題ないほどだ。


「回転しない回転寿司とは?」


 レンシは動揺した。


「行けばどんなものかわかると思います!」

「パース」


 ローリは小さな箱から緑のエメラルドのネックレスを取り出して、ゆいなに後ろを向くように指し示した。


「つけてあげるから後ろ向きたまえ」

「え? ええ!」

「ご飯代のかわりといってはなんだけれどね」


 ローリはゆいなの首にネックレスを付けた。

 ゆいなは気分が最高潮だった。


「ありがとうございます」

「私も後でお代返すのでご一緒してもよろしいですか?」


 レンシはおずおずと口に出す。


「もちろんです。お代はいりませんよ」

「わしもいるぞい」

「はいはい」

「なんじゃ、わしはな、スターリング城の」

「ガーさん、身分を明かさずに、静かにしてくれたまえ」

「ロー君……そういうのならば仕方がないのじゃ」






数分後。

 大きな看板に大きなチェーン店があった。


「えらい狭いのじゃな」

「ガーさん、口は災いのもとだよ」


 ローリは口元に人差し指をつけてガウカに忠告する。


「むむむ」


 ガウカは人に案内された席でレーンを睥睨(へいげい)する。


「そんな睨みつけなくて大丈夫ですよ。このタッチパネルから食べたい寿司を選んでください」

「僕はサーモンがいいかな」

「わしも! 同じものじゃ!」


 ゆいながタッチパネルを操作してサーモンを注文する。


「柳川さん、私は鉄火巻といくらとコーンマヨでお願いします」

「軍艦縛りですか、っふ」


 ゆいなは吹き出す。そして注文した。

 少しの時間がたつ。


「まだかのう」


 ガウカはウズウズしているようで落ち着きがない。

 ストレートレーンを伝って、寿司が小さな新幹線のような機械に乗って提供された。


「おお! ロー君、寿司が運ばれてきたのじゃ。すごいのう」

「ほう、面白い発想だね」

「ガー様、ローリ様。失礼ながら申し上げますと、お城では不可能でしたが、事実リコヨーテの町でこのような仕組みの寿司屋はすでにございます」


 レンシはきまり悪そうに言葉を続ける。

「その寿司屋は少し安価ですがね」

「それはいいから、食べてみてください」


 ゆいなは醤油皿に醤油を、湯呑に日本茶をいれた。そしてローリとガウカに箸を手渡した。


「「いただきます」」

「いただきますのじゃ」

「召し上がれ」


 ゆいなは内心ローリとガウカにとって吐いてしまうほどの味ではないか心配だった。

 2人はゆっくり口に寿司を運んだ。


「うむ、申し分ない味じゃな」

「ローリ様は?」


 ゆいなはローリが言葉を発しないのが気が気じゃなかった。

 そんなことを知ってか知らずか、ローリはただ湯呑の熱いお茶にフーフー息をかけて、飲んでいる。


「……うん、美味しいよ」


 ローリの一言でゆいなの中に占拠していた暗い気持ちが吹き飛んだ。まるで雲に覆われた空に天光がさしてくるようであった。


「柳川さんもお食べください。こちらばかりで悪いので」

「ありがとうございます」


 ゆいなはエビとマグロとタコを頼む。

 すぐさま、注文した寿司がやってきた。


「いただきます」


 ゆいなはエビから食べ始めた。

 空腹だったのでいつもの何倍も美味しく感じた。


「ほう、これはこう、かい?」

「そうです、物分りが良くて感心します」


 レンシはローリにタッチパネルでの注文の仕方を教えているようだ。

 そして、ゆいな達は寿司をたらふく堪能した。


「ところで、どうしてレンシって全身にボディースーツやマスクをしていたんですか?」

「モテるからです。私、恋愛感情がわからないので。恋愛は自分とは関わり合いのない世界だと思っています」

「そういうことか、でも、ビオってあなたの子供じゃないですか? 相手を好きではなくともそういうことはするんですね」

「そうですね。性欲はあるので」

「じゃ、誰も好きな人いないの?」

「いえ。ですが大切な人はいます。ビオとチカです」

「チカ?」

「細村千香、チカ・クワイエット」

「いつ、レンシ君の大切になったんですか?」

「高校生の頃、テイアで助けてもらって、よく話すようになりました。そして、チカに告白されて流されるように付き合いました。そして身籠らせました」

「あー奥さんですか」

「はい、脳梗塞で倒れたとは知りませんでしたが」


 淡々と語るレンシにある種の幻想を抱いていたゆいなは現実に打ちのめされる。


「ビオのことは私がどうにかさせます。あの子は迷っています、このまま人を殺していいのかを」

「君の箱で願い石を作って、ビオさんのもとまで行かないかい?」


 ローリの提案にレンシは戸惑った。


「ローリ様の箱から箱へですか? 一旦リコヨーテの大樹の元へ戻る必要がありますね、ですが、せっかくためているペドルなのにいいのですか?」

「うん、僕が作るよりも遥かに速いよ。それにあのドラゴンから出したペドルだから、願い石も精度のいいものになるだろうね」

「……わかりました。できた願い石は献上させてもらいます」

「君の願い石はビオさんの元に行く以外は好きに使ってもらって構わないよ」


 ローリが頭を振るので、レンシは頭を垂れる。


「ではこうするのはどうでしょう。ローリ様の箱から僕の箱に入れて願い石ができるとすると4つ分は作れないことはないので、1人1つずつ行き渡らせます。誰かが傷ついた時にでも保険として持っておきましょう?」

「その事は皆で決めないかい?」

「賛成です」

「異論はないのじゃ」

「僕も構わない。満場一致だね」


 ローリは唇についた醤油をぺろりと舐める。


「それではそろそろ行きますか?」

「そうですね」

「満腹じゃ」

「うん、行こう」

 ゆいなはタッチパネルをお会計へ操作した。

 少しの間待つとカラカラと音を立ててAIがやってきた。録画しているようでカメラのレンズが見える。


「皿を入れてください。……ありがとうございました」


 AIが皿の枚数を数えて、伝票をゆいなに渡すと帰っていった。


「おお! 日本はすごいのう」

「僕達もAIを使うか検討するよ」


 ゆいなは先にまたAIのレジに進み、勘定をした。するとドアは開いた。


「近未来的ですね」


 レンシは独り言なのか会話したいのか微妙な声を出す。


「いつの間にかですな」


 ゆいなも同じくらいの声量で返す。


「皆のもの、何しとるのじゃ! 遅いのじゃ! 置いてくぞい!」


 ガウカはせっかちのようだ。ここまで来た道を戻ってゴルフ場へ行こうとあくせくしている。


「ガーさん速いよ、マイペースはやめてくれたまえ」

「ロー君、ごめんなのじゃ」


 ガウカは変わり身が早く、上目遣いでローリを見ている。

 ゆいなはその様子を珍獣が出たかのように2人の顔を覗いた。


「ん? どうかしたかい?」


 ローリは周りの空気を察したかのようだ。ゆいなのことも気にかけているようだが、ガウカの頭をぽんとなでると花開いたように笑う。


「ローリ様って普段ニコニコしてるけど、何かいいことでもおありなんですか?」

「怒ってる顔より笑ってる顔の方がいいですよ。柳川さん。ローリ様を下手に刺激しないでくださいね」

「確かに普段怒らない人が怒ると怖いですよね」


 ゆいなはガウカの様子を見やる。

 ガウカはローリにベッタリとくっついて離れることを知らない。何か2人で話している。

 ゴルフ場まで先の長い道であった。

 先程会ったゴルフ場の受付の中年の男性とゆいなは目があった。


「こんにちは」

「おやおや、さっきの沙羅の知り合いの!」

「テイアまで戻りに来ました」

「気をつけてな」

「ありがとうございます」

 ゆいなは疑問に思うことがあった。


「どうしてテイアのこと知ってるってわかったんですか?」

「受付通らずに出入り口に新しく4人も来たからだよ。驚いてなかったからね」

「ああ、そういうことですか」


 ゆいなは納得する。


「多分、日本からリコヨーテへは行けないと思います」

「今、ネムサヤに頼んでみるよ」


 ローリはネムサヤに連絡を入れる。


「レンシ君、これからどうするんですか?」

「願い石でビオのところに行って、チカにお見舞いに行きます」

「私もついて行きましょうか?」

「いえ、私だけなら心を開いてくれるはずです」

『〜〜〜〜というわけなのでクライスタル前まで来てくれたまえ』


 ローリは簡単に訳を話すと連絡を切った。

 それから4人は、1本の大きな木に向かっていた。


「「「ウォレスト」」」


 バイオリン、トロンボーン、コントラバスが皆の眼前に現れた。


「ジムノペディだよ」

「「はい」」


 心が温まるような演奏であり、一つ一つの音が重なり合い最高のハーモニーを産んでいた。

 その木には波打つ青い濁流ができていた。

 ゆいなは恐る恐る入っていった。


グワン!


 下に落ちていくゆいなは猫のように四肢で着地すると、さっとその場を離れる。。

 すぐにレンシ、ローリ、ガウカが降ってくる。

 レンシは見事に着地する。

 ローリはガウカと手を取り合って降りてきた。

 この場はジャングルのようだ。

 木と木が絡まっていたりや蟻やカナブンなどの虫もいたりする。野生の生き物もいそうだ。


「パース」


 ローリはウィッグをとって箱の中に入れると、その代わりに虫よけのスプレーを取り出した。

 ガウカ、レンシ、ゆいなに行き渡る。

 そして、スイセイ証はつけたままだった事に気づいてゆいなは赤面する。

(絶対に変な人だと思われた)

「レンシ君、1人で本当に大丈夫ですか?」

「うーん、平気だと思うよ」

「後で時の手帳で見てみるよ」


 ローリはふと上を見上げる。


「月影の匂いだ」

「なんの月影ですか?」

「マンモスだよ。本来マンモスは草食だけど、月影は肉食だから気をつけたまえ、ウォレスト」


 ローリは武楽器を出して落ち着きはらっている。バイオリンの剣と盾に変化している。肩当てが盾の持つところになっていた。


「どうしようどうしよう、マンモスの月影、絶対大きい」


 ゆいなは1人大慌てだった。

 ジャングルの奥地から出てきたかのように草の根かき分けてその月影は登場した。

 大きさは5メートルはありそうだ。


「どうやって倒すんですか?」


 ゆいなは今にも失神寸前だった。

 ローリが武楽器を構えている。

 そんなときだった。1羽の鳥がマンモスの背中めがけて翔んできた。


「ネムサヤだ」


 ゆいなはすぐに気がついた。

 ジャンボインコの半月のネムサヤはマンモスに乗ると人間の姿に戻った。


ギャオオオオ


「ウォレスト」


 ネムサヤのフルートがマンモスの月影の首に当たると首輪に変化した。

 マンモスは借りてきた猫のように静かになった。


「陛下、いかが致しましょう? とどめを刺しますか?」

「そうだね、マンモスの月影を伏せてくれたまえ」

「伏せろ」


 マンモスの月影は赤い目をしながら、ネムサヤの言うことに従う。


「フルートで使役できるとは」


 レンシもゆいなと同様に驚いていた。

 ローリはマンモスの月影の首元を斬る。骨がいかつくてなかなか時間のかかる作業だった。血が抜けてマンモスの月影は動かなくなった。


「なんの曲にしようか?」

「フリッツ・クライスラーの愛の喜び、にしましょう、ウォレスト、パース」


ネムサヤもフルートと箱を出した。

「「ウォレスト」」

「「「パース」」」


 ゆいな以外の人も楽器と箱を出した。



 テレビで昔よく聞いていた曲だった。

 ゆいなは実際に目の前で聴くと目頭が熱くなるのがわかった。

 丁寧な音が美しいカルテットになっていた。

 マンモスの月影は骨を残して金貨、銀貨、銅貨、装飾品、貴金属、宝石に変わり、それぞれの箱へと流れていく。


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