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7 言笑自若

「あたしの家まで行くわよ」


 美亜が言うと、皆黙ってついていった。

 美亜の家に15分かけてたどり着いた。


「この家の裏よ」


 裏の丘を少し登ると雑木林になった。そして1本ぬきんでている大きな木があった。


「私が吹くから、美亜は戻ってくる用で吹かないでね?」

「わかったわ」

「「ウォレスト」」

 美優の手にはトランペット、太陽の前にはピアノが登場した。


「せーの!」


 太陽の声からジムノペディが始まった。

 木に大きな青い渦巻きが現れた。

 そして、美優が1番に入る。次に太陽と美亜も中に入る。最後に実真が入った。

 実真はドスンと尻もちをついて落ちた。

「痛た」

「暑いな、10月だというのに」

「テイアは常に春から夏の温度なのよ」


 周りを見ると水が流れている川がある。広く刈られている芝生のようだ。

 Limeの通知を知らせる音が鳴った。


「沙羅がクライスタルで待つって」


 美優が発言する。


「一体何があったんだ?」

「よく分からないわ、多分、大事な事があったんじゃないかしら」


 美亜はそれだけ言うと、黒いリュックをしょう。


「そうだ、彗星証とリボンをつけよう、パース」

「そうね、パース」

「パース」

「パース・ストリングス」


 全員が彗星証を耳につける。太陽がチェックのリボンをつけたり美亜がチェック柄ネクタイをしている。

 実真はチェック柄の腕輪を美優が貸してくれたのでつけることにした。


「私についてきて」


 美優がコンパスを手に先陣を切った。

 そして、クライスタルまで到達した。

 沙羅が検問の前で待ってた。


「大変なことが起きた。……ローリとネニュファールが半月狩りに捕まった」

「半月狩りって?」

「月影の血を半分継いでいる人のこと、リコヨーテのほとんどの人が半月なのよ。その人達を捕まえ、血肉を金貨や銀貨銅貨などに変えてお金を儲けている人達よ。半月を生ず殺さずしている人達よ」

「その人達は今どこに?」

「追いかけてたら、リコヨーテに逃げられた」

「どうするんだ、俺らリコヨーテから来てないから行けないぞ」

「私はリコヨーテからこっちに来てるから、私の演奏で行ける」

「本当? それなら行けるわね」

「よし、皆行こう!」

「オー!」


 門番に睨まれた。

 美優と太陽と美亜と沙羅は兵士手帳をみせる。実真は困る。


「まだ訓練兵になってなくて、楽器の練習中なんです」と美優がしどろもどろに音を上げる。

「箱は?」

「パース・ストリングス」


 実真は箱を出す。


「私の出番ですね」


 1人の門番が犬の姿に変わった。

わん!


 一声吠えた。


「身分証明になるものは?」

「学生手帳なら」


 実真はリュックから財布を取り出して、その中から小さな写真付きな手帳を出して見せた。


「三角実真? 三角か、同姓同名か?」

「何を言ってるんですか?」

「昔、半月の親子が通ってな、いや、そんなことはどうでもいい、通ってよし!」

「門を開けろ!」

「はいよ!」


 5人はクライスタルの世界樹の切り株まですぐについた。というのも、全員、走って息をきらしていた。


「私、吹く、ウォレスト」


沙羅の前に出てきたのはフルートだった。

(ジムノペディだ)


「あれ? ここは? いつもの場所じゃないわね」

「本当だ、ローリの城じゃない!」

 薄暗い灰色の膜を出て振り向くと目の前には大樹が生えていた。

 廃墟に光が差し込んでいる。

 沙羅が見上げれば見えるほどの階段の上に移動した。


「役者は揃った。ジェイノ=ヒルビルズさん」

「機は熟したな」


 沙羅と喋っているのは、ジェイノ=ヒルビルズというハウンドトゥース柄のマントを羽織った、低身長の浅黒く、おでこから鼻にかけて傷跡がある男性だった。


「ホッホッホ!」


 近くでミミズクが鳥かごに入れられて鳴いていた。


「ネニュファール!」

「ネニュファール? おい、ローリはどこだ?」と実真。

「てか、沙羅さん何仲良く会話してるんだ! 距離感近いし、お前の仲間は俺らだろう!?」


 太陽はまくし立てるように言った。


「皆、ごめん、私、実は、フェルニカ兵だ」

「フェルニカ兵ー!?」


 沙羅が手にしている小さな四角い格子の箱にはフェレットが入れられている。


「ローリ!」

「ええ? ローリなのか?」

「全員ついてこい! こいつらがどうなっても良ければついてこなくてもよし!」


 全員が地下室に向かった。

 牢屋のような鉄格子がある場所の中にローリが箱に入ったまま投げられた。

「ローリ!」

「全員この中に入れ」


 ジェイノはナイフを鳥かごに向けて突き立てる真似をしている。

 ローリを加えて5人が牢屋に入った。

 鍵を投げ入れた。そして、牢屋を閉めた。この鍵は小さくて牢屋の鍵ではないことは確かだった。


「ローリの箱の鍵だわね」


 美亜が拾った鍵をローリの入った箱の真ん中にある鍵穴に差し込んで、ローリを救出した。


「この子、殺そう」


 沙羅の物騒な言葉が実真の耳に通過する。


「ただ殺すんじゃつまらないから犯し殺してやる。ネニュファール=ラインコット、人の姿に戻れ」


 ネニュファールは人へと姿を変える。それと同時に血だらけのローリも人になる。


「僕のネニュファールに手を出すな!」


 ローリの咆哮も虚しくケープをつけたメイド服のネニュファールは1枚ずつ服を引き裂かれていく。


「嫌ですわ! おやめ下さい、あぅ、おやめ下さい! ローリ様! ローリ様っ!」


「ローレライ、下半身に塔が建設してるみたいだぞ。そうだいいこと考えた。風神美優」


「何?」


「ネニュファールが不快な事されないかわりにお前とローレライが交尾しろ。もちろん裸になってな。そしたらネニュファール=ラインコットは自由にしてやる」


「わかった」


 ローリは服を脱ぎだした。ゆっくりと下着姿になっていく。


「え?」

「美優さんも服を脱いでくれたまえ」

「きゃー! 犯されるー!」

「やめろよ! ローリ!」

「美優1発くらいヤラせてあげたら?」

「嫌に決まってるでしょう、彼氏の前で変なこと言わないでよ」

「ネニュファールのためだよ、早く服を脱ぎたまえ」

「だから、ローリとはヤラないってば、ウォレスト!」

「ウォレスト!」

「今度は武楽器で戦うのか、はははは」


 ジェイノは左の端だけ口角をあげている。


パーーー!


 美優のトランペットから形成された炎はジェイノの方に向いていた。


「残念だったな、この鉄格子は武楽器の攻撃を無効化させる。なぁ沙羅」


 ジェイノが言った瞬間、ジェイノの心臓に何かが刺さった。


「うっ、さ、沙羅?」


 それはモグラの爪だった。すぐ後ろにモグラが掘ったような穴が空いていた。


「生憎だけど四角沙羅じゃないから。……俺思い出したんだ。モグラの半月だった父さんと自分を!」

「三角実真……沙羅は、どこ、だ?」

「こちらですわ。沙羅さんがつけていたローリ様のニーベルングの指環返してもらいますわよ」


 沙羅は思い切り殴られたようで、気を失っているように見える。そして、はめていた指輪をネニュファールが外す。

 ジェイノは前のめりに倒れた。血を流していた。

 実真の開けた穴から服を着たローリを筆頭に皆出てくる。

 ほぼ下着姿のネニュファールにローリが自分のインバネスコートを着せた。


「やれやれ、やっぱり君のお父さんはリコヨーテの兵士だったか」

「どういうこと? 知っていたの?」

「よく働いてくれる執事だったけど、駆け落ちするようにある日突然いなくなったんだ。おそらく日本から来た女性に連れられて」

「俺の母さんは特に楽器を弾いたところは見たことないけど?」

「テイアに来させたくなかったんだろうね」

「いやでも、父さんトランペット吹いてたけど?」

「教育方針が違うんでしょ!」

「まぁ、なんでもいいよ、帰ろう帰ろう」

「沙羅はどうするの?」

「僕が捕まえて、城で黒幕が誰か吐かせるよ。ネニュファール、指輪を」

「はい、ローリ様」


 ネニュファールは手を出したローリの人差し指に指輪をそっとはめた。


「殺さない方が良かったかな?」


 実真はモグラの手を人間の手に変形を解いた。


「全然そんな事ないよ! また同じことが起こるくらいなら殺しといて正解だよ」


 美優がフォローする。

 その後、美優のトランペットでテイアへ戻り、ローリとネニュファールと別れた後、美亜のクラリネットで実真は日本へ戻った。帰ってまず漓音に会い開口した。


「テイアって知ってる?」


 実真は真っ直ぐした目で見据えた。漓音は震えながら言った。


「テイアですって?」

「知ってるか聞いてんだけど?」

「テイアね、知ってるよ。でも私は行ったことないわ」

「駆け落ちしたんじゃなかったのか?」


 漓音は全てを悟ったと、いう感じで実真を見返した。そして衝撃の事実が明らかになる。


「実はお母さんとお父さんは再婚なの。お母さんと貴方は血が繋がってないの」



 月曜日朝のショートホームルームで教師が話した。


「本日で留学生の星乃輪君がリコヨーテに帰るから、最後の挨拶をしておきなさい」

「連絡先教えてください」

「友達からでいいので仲良くしてくれませんか」


 女子高生の飛び交う声の横で実真は美亜に声をかける。


「竹中さん、俺さお母さんと血が繋がってないんだってな」

「何よ、血が繋がってないですって? 再婚してたの?」

「そうみたい」

「そうなんだ、がっかりだね」


 美優が会話に割り込んだ。


「別にそれはいいよ、テイアに行くの、俺もうやめようと思う。いじめも良くなってきたからね」

「それはそうね、丸村君と話したら?」

「そうかな? 言った方がいいかな? でもなぁあいつら分かってくれるかな」


 実真は手もみした。

 美亜は苦笑いをしている。


「実真、今日一緒に帰るか?」

「今日は丸村君も一緒でいい?」


 実真の返事に秀明は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「じゃあ、俺先に帰るよ」

「いじめられてるから? そろそろ向き合えよ。こんな機会滅多にないんだから」


 実真の言葉に秀明はハッとさせられた。


「わかったよ」


 秀明に答えられて実真もニッコリうなづいた。


「丸村君! 今日一緒に帰ろう?」

「どういう風の吹き回しだ?」

「こないだは悪かったよ」

「こっちこそ、ごめん。一緒に帰るか、元気と経も一緒でいいか?」

「おう」


(自分も人の命を奪ってしまった)

 実真は自責の念から昨日はよく眠れなかった。ローリと目が合った。ローリはキョトンとした後笑いかけた。




帰り道。

「お父さん殺して悪かった。自首するよ、俺」


 正はそういうとあとの2人が黙っていなかった。


「正! お前ふざけるなよ」

「そうだぞ、少年院に行くことになるぞ」

「お前らはいいよ、そのまま無様に生きていけば」

「もう誰もいじめをしないと約束するなら、線香をあげてもいいぜ」

「ああっもう分かった、俺も自首する」

「俺もだ! なんでこんな良い奴をいじめたのか、分からなくなってきた」


 2人が騒ぎ立てる。


「秀明には何も感じないのか?」

「悪かったよ、長い間いじめて。許してくれとは言わないが謝るよごめん松井」

「そう?」

「もう俺は逆にいじめを許さない側になるよ、きっと世の中のいじめを減らしてみせる」

「頑張ってくださいー」

「いや、皆でなろうな」

「そうだな」


 もうこの人たちのいじめをしないという言葉が心に灯っているだろう。

 やっと言笑自若になれた気がした。

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