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27 ビオによるオーケストラ

 皆、棚にある楽器で練習を始めた。

 音はあちらこちら響く。


「一回皆で通してみますか?」

「そうだね、そうしようか」

「それでは全員位置に並べ!」

「ハイ」

「はーい」

 

 美優は返事をしながら太陽を見た。

 太陽は白いピアノの椅子に座る。


「大地、水、太陽、風の指揮をさせていただくビオです。テンポが違ったりピッチが悪かったりした人やゴブリンは個人練習です。皆さんの名前をまだわからないので、楽器名で指摘しますが後に名前も教えていただきます。その都度止めていきますのでよろしくお願いします」

ビオは皆を率いていくための、オーケストラの中央から直線上にある簡素な指揮台の上に上がった。

二カウントで曲が始まった。

(皆、上手になっている)

 ローリは周りの様子を見ながらバイオリンを弾いた。この曲は大地、水、太陽、風のうちの大地だ。


「はい。ストップです。オーボエさん今音外しましたね。王様の寝室は防音ですよね?」

「そうだよ」

「寝室に上がってこの小節の部分を三十回弾いてきてください。念の為お名前を聞いてもよろしいですか?」


 ビオは静かにそう言うと、もう一度譜読みをしている。


「わたしゃ、マクだよ」


 マクはおばあちゃんのようなゴブリンだ。白髪の長い髪を下の方で括っている。


「えーえ、わかりましたよ」


 マクはオーボエと譜面台を持って寝室に戻った。


「それと、トロンボーンの青い髪でメガネかけている方の人ですね。音がぜんぜん小さいです。もう少し自信を持ちましょう。お名前は?」

「僕はファンボです」

 答えたのは青い髪で癖のある髪、フレームのない眼鏡に、分厚い唇。

 ローリも少し軽いくせのある髪だが前髪を分けているので印象が全く違う。


「ファンボさん、ロングトーン十回してきてください」

「はい」


 ファンボは譜面台を持つともう片方の手でトロンボーンを持って、この場からいなくなった。


「ではa tempoから」

「譜面読みができていない人、ゴブリンがたくさんいます。音符の上に番号は書いていますか?」

「書いてるけど速度が早くて間に合わないです」

「本当のテンポは百六十です。今のは百二十でしたが八十にかえてみます」


ビオは途中で曲を止めた。

メトロノームのカチッカチッという音がこの場に轟く。


「それでは、始めから通してみます」

「はい、荒削りですが、大地は曲になってますね。次、水いきますよ」

(水だ)

「ピッチが悪いです。ピッコロ奏者、お名前伺ってよろしいですか?」

「俺の名前はナー」


ナーは偉そうに言う。短い金髪のゴブリンだ。大柄で顔も二重あごだ。


「ロングトーン十回してきてください」

「なんで、九歳児の言うことなんて聞かなきゃならねえんだよ」

「ナー! 暴力も言葉の暴力も、僕が許さないよ。僕がまとめ役に適していると思ったから推薦したんだ。そしてそれは間違いではなかった」


「マスター、……わかったよ、やってやらあ」


ナーはピッコロと譜面台を持って寝室へ向かった。


「それでは始めから」

「はい」


 皆の返事に頷くと、ビオは手を動かした。

 ピアノの心地よい調べが聴こえてくる。

 ローリはゆったりとバイオリンを弾いた。


「もう少しテンポを上げられるように、後でパート練習をしてみましょう」


 ビオは曲の終わりと同時に言った。

 次は太陽だ。


「次のテンポは四十八」


 太陽はシンセサイザーを用意されていたので切り替えた。

 すごい音の集まりだ。誰も油断していない。

 しかし、音自体はバラバラで誰についていけばいいのかわからなくなるほどだ。

 ローリは譜面通り弾く。真似されているみたいにコンマ一秒遅れてやってくる音達。


「はい」


 ビオの手が止まった。音も途切れた。


「皆さん、ここもパート練習で演奏力をあげてください。最後の、風に移ります、百三十二なのですが先も言ったとおり遅く、テンポ六十九で始めます」

 風やそよ風が連想される曲だった。この曲は皆楽しそうに弾いていた。

 木管が要のようだ。

「はい、止めてください」

 ビオの声で皆に緊張が走る。

(誰がミスをしたのかと思っているのだろうな)

 ローリは安全圏から見ているようだった。


「王様、気の抜けた演奏しないでください」

「え? 僕?」


 ローリは気の抜けた返事をしてしまった。


「この三小節三十回練習してきてください」

「僕は完璧に弾けるよ?」

「それはわかっていますが、気を抜いて私の指揮の練習に臨む姿勢がいただけません」

「わかったよ。パース」


 ローリは箱の中にバイオリンと譜面と譜面台を入れて移動した。



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