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24 練習する者たち


「う?」

ローリは元の明るい世界に戻ってきた。目がなれるのに少し時間がかかった。

 ネムサヤはプレートアーマーに着替えて中庭から出ていくようだった。


「ネムサヤ、ゾンビには気をつけてくれたまえよ。月影の弱点と同じだから」

「ご警告ありがとうございます」

「未来視では太陽君の様子を見せてもらった、三人になるかもしれないけれども、すぐに援軍が来る、そしてゾンビの前に来たら太陽への賛歌を奏でてくれたまえ。きっと魔法曲になる。ネムサヤは観てもいいかい?」

「はい、かしこまりました。私のは観ないでください、なるべく知られたくない情報ですので」

 

 ネムサヤは答えると、目がオッドアイに変わった。


「どうしたんだい?」

「テイアまで行ったら、クライスタルまで、飛んでいこうと思いまして」

「いってらっしゃい」

「ありがとうございます、行ってきます」

 

 答えたネムサヤをローリは見送る。

 ローリは寝室から地下へ降りていった。

音は部屋中をかき乱していた。


「今日は皆集まって、ロングトーンをやろうか」


 ローリは隣でバスクラリネット弾いているイセリに声をかける。


「わかりましたー」

カンカンカン

 イセリは金ダライとハンマーをセットに持ち思い切り叩いた。

「えー、皆さん、これからロングトーンを皆で行います」

「全員でやるのか」

「チューナーを各自つけてくださいー」


 イセリは小さな四角いチューナーを持った。楽器のある横にチューナーのたくさんあったケースがあって、そして一人一つずつ持っているようだ。


「僕が指揮者で全員の頭だ。僕の言うことは必ず聞くこと」

「はい、陛下」

「ここでは、敬語を使わなくていい」

「はい、陛下」

「まあいいよ。それでは、皆オケの位置に並んでくれたまえ」


 オーケストラではバイオリン軍が一番前、ビオラ、チェロ、右手にコントラバス。バイオリン軍の次に木管が前、金管が後ろだ。パーカッションも後ろ。


「君、場所がちがウ、こっちダ」


 ハンが積極的に皆を誘導している。

 今いるひとだけで並んでみたが、なんとまあ空きがあることだ。


「楽器を暖めよう。好きな音を出してみてくれたまえ」

「では、チューニングから、メトロノーム四分音符テンポは六十でやってみよう。パース」

 ローリは箱から茶色い指揮棒を出す。ツーカウントで入る形になる。

カチ、カチ

「スタッカートで」

「ロングトーン、一小節のばそう、六回だよ」

「二小節を三回」

「三小節を二回」

「のばせるだけ」


 昨日の練習の甲斐あってゴブリンたちも他の人達も基本はできているようだ。


「オーケー、皆、昨日よく練習したね。次は各パートごとに分かれて練習したまえ」

 パート練習に移った。


 ローリの寝室で金管楽器がかたまり、地下室で木管楽器がパーカッションから一番遠くでかたまる。バイオリン軍は中庭の方で練習することになった。

 譜面台と楽譜を持って移動する人とゴブリン。


「パース」


 ローリは箱に入れて移動した。

 魔法曲にならないように真新しいバイオリンを降ろして弾き始める。

(バイオリンを弾くのはとても楽しい)

 ローリはファーストバイオリンの三人の内一人で、セカンドバイオリンの人やゴブリンはまだまだ練習不足だったが、ローリは一応通しで弾いてみせた。

「もう少し、個人練習しよう」

「はい」

「はイ」

 ローリにはゴブリンがバイオリンを弾いている姿はあまり見たことがなく、新鮮だった。


「ネムサヤは大丈夫かな」

「ネムサヤ、どこに行ったのですー?」


 イセリの声が聞こえてきた。


「ネムサヤなら僕の依頼でクライスタルに行ってるよ」


 ローリは口の周りに手でメガホンを作って声を出す。


「陛下の頼みなら仕方がないですが、ネムサヤはサボりぐせがひどいんですよー。今日だって買い出し当番なのですよー」


 イセリは近くまでとんできた。


「午後までには帰ってくるよ」

「それならいいんですけどー」


 イセリは頭を下げてどこかに行ってしまった。


「そういや君達の名前は?」


ローリはバイオリンパートの人やゴブリンの名前だけは覚えておこうと思った。


「キマリと申します」


 キマリは外ハネの髪とメイクの濃い顔が特徴の女性だ。

 一年くらい使えている。


「ボンです」


 名前の通り博士が失敗して爆発したかのような頭のアフロのゴブリンだ。目は綺麗で輝いている。オスのようだ。

 この1人と1体はファーストバイオリンだ。


「私はアリアです」


 最近新しく入った使用人の女性だ。晴れた空のように水色の長い髪と目が特徴的だ。


「俺はエアといいまス」


 エアは肩くらいの緑色の髪で痩せこけているゴブリン。目には強い忠誠心を感じる。彼もオスのようだ。

 残る1人と1体はセカンドバイオリンだ。


「僕はローレライ=スターリングシルバーだよ。皆よろしく。ローリと呼びたまえ」

「よろしくお願いします」

「わからない所があれば気軽に訊いてくれたまえ」

軽快な音楽が聞こえてきた。

ローリはポケットを探る。

(そういえば、太陽君に未来視言うの忘れてた)


「もしもし?」

『おう、俺だ、太陽だ』

「未来視してみたんだけど、途中で途切れてしまった、すまない。だけど生きて帰って来れる可能性は高いから安心してくれたまえ」

『そっか、ネムサヤの方も観たのか?』

「いや、観られたくないそうだよ。これから残りの君達の様子を観させてもらうよ」

『うん、わかった、死にそうだったら連絡してくれ、それ以外は大丈夫だから』

「了解したよ」

『じゃあな』

「それでは、また」


ローリのケータイは通話が止まって音を発しなくなった。

ローリは寝室に戻った。ルコに見つかったらちょっとした騒ぎになると思ったからだ。


「ニーベルング」

「どうしたのですか?」


カナといった名前の使用人がトランペットを練習していて、その手が止まった。


「気にしないでくれたまえ」


ローリは時の手帳に太陽の名前と時間を書き込んだ。

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