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スイセイ桜歌   作者: 五月 萌
太陽が歩く世界
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4 テイアに向かう二人

 これがことの成り行きであった。

 太陽は愚痴っていた。


「俺に洗濯物を洗えって押し付けてくるし、お金も入れてるのにもっと入れろって言うし」


「言われる前に先読みしてやっておくしかないね」


 美優は目玉焼きのせハンバーグを口に放り込む。


「そうだな」


 太陽の死にたい気持ちは少し和らいでいた。


 桜歌はお子様ランチのハンバーグが切れないらしく箸と箸をもって、切ろうとしている。


 向かいの太陽は桜歌のハンバーグをナイフで切る。切らなくてもいい大きさなのだが、桜歌は味わって食べたいように、少しずつ咀嚼する。頬に手を当てる。

「ありがとう」と桜歌がつぶやいた。


「まあとにかく金がなきゃ人間何もできないよな」


「お金がほしいんだ? 私のつてでいい仕事を紹介しようか?」

「なにそれ、すごく怪しい」


 太陽は自分の一番安価だったハンバーグにナイフを当てる。

(うまい、久しぶりに、こんな美味しいものを食べた気がする)

 噛むたびにじゅあじゅあと肉汁が口の中で広がる。その後かきこむ、ご飯も熱くて美味しい銀シャリだ。


「まだピアノ弾けるんだよね?」

「今、ピアノだの、パソコンだの売られて、金目の物はないんだよ。ピアノは桜歌のアンコパンコマンピアノを弾いてるくらいだな」

「ふうん、あのね、その場所はテイアって言って、敵の前でピアノ演奏するだけでいいの」


「テイア? なんじゃそりゃ」


「空に浮かぶ大陸のことよ」

「一気にRPG要素ましてきたな? 大丈夫か?」

「稼げる人なら一日で百万くらい持って帰れるってレベルだね。私の家の裏にある木から行けるよ」

「考え中」


 太陽は美優がどうにかなってしまったのか頭の心配をした。


「敵に攻撃されることは無いと思う。初心者なら皆が守ってくれる。なるべく早く答えだしてね」


 美優はお手洗いに立った。

 太陽はその間にお会計を支払っておいた。


「桜歌、俺がお金稼いで二人で暮らすって言ったら嫌か?」

「ううん、すっごく嬉しい」

「じゃあ暫く桜歌にかまってやれないが、いいか?」

「いなくなっちゃうの?」

「いなくなるわけじゃない。仕事して稼いでくるだけだ」


 太陽が言い終わるうちに美優が戻ってきた。


「ねえ、桜歌ちゃん今欲しいものある?」

「桜歌はお兄ちゃんが健康で笑ってくれればそれでいいよ」

「小二にあるまじきピュアさだな」

「今日はもう帰ろっか」


 美優はレジで「そちらのお方がご勘定を支払いました」といわれて、鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。

 太陽は美優に「お金返すよ」と何度も言われたが断った。


 美優と別れた後の帰り道。満月の空を見上げて歩いていると、星空で、流れ星に遭遇した。


「お兄ちゃんとずっと一緒にいられますように、お兄ちゃんとまっ」


 桜歌は舌足らずで噛んだ。


「あはは」と太陽が笑うと、桜歌は怒ったように口を膨らまえた。


 洗濯から始め一連の動作が流れ作業のように行われた。半袖、半ズボンに着替えた。


「桜歌」


 太陽が呼んでも返事はこず、代わりに寝息が聞こえてきた。

 桜歌は帰ってから歯を磨いて、宿題をやって、眠ってしまったようだ。

 太陽はこの子供部屋は手狭に感じていた。桜歌も太陽も体がどんどん大きくなっているからである。

(物置用だった部屋が多分色々売られているから、一人分の部屋が確保できるかもしれない)

 太陽は勉強を切りの良いところまでで切り上げる。ライトを消して、桜歌の隣の敷きっぱなしの布団へタオルケットを掛けて潜り込むように寝た。

 太陽は二時半ごろ尿意で目覚めた。隣りにいるはずの桜歌の姿が見えない。

(トイレかな?)


 思いとは裏腹に玄関のロックが解除され、ドアの開いた音がした。

 太陽はベランダから下の様子を覗き込んだ。


 桜歌の姿が確認できた。それと同時に、太陽は「桜歌」と呼んだ。


 桜歌は聞こえたのか聞こえていないのか、ちらりと上を見上げまた、歩きだす。


 太陽は桜歌を連れ戻しにサンダルを引っ掛けて外に躍り出た。鈴虫が鳴いていた。

 桜歌は曲がり角を曲がったので、追いかけた。


「桜歌、お前、どうしたんだ? 寝ぼけてるのか?」


 太陽は桜歌の左腕をとる。桜歌の右目は赤く光っていた。暗くてよく見えないが角のようなものが生えており、尋常ではない、暗い表情をしている。


「貴様は太陽か、わしに触れるな」


 桜歌は太陽の腕を掴むと、強い力で投げ飛ばした。子供の力ではない。そして、走り出した。


「いてて」


(なんで桜歌が俺のことを太陽と呼ぶんだ?)

 太陽は死にものぐるいで追いかける。足は遅くもないが速くもない。


 桜歌もそのスピードと同じくらいだった。


 一直線の道に差し掛かって、桜歌はある家の前で止まった。中に侵入していた。

 太陽が表札を見ると風神と書いてあった。ポケットからケータイを取り出した。


(どうしよう)

 美優に電話を掛けようとすると美優の家の裏の方から低音楽器の音が聞こえてきた。

(グリーンスリーブス)

 太陽ははじめの一小節でなんの曲かわかった。


 太陽はもう一度、ケータイを握り、美優に着信した。

 呼び出し音が聞こえる。


 しばらくして美優が電話に出た。


『今、何時だと思ってるの?』


 美優は眠たそうで妖艶な声を発した。


「よかった、実は」

 太陽は美優にかいつまんで説明した。


『私の家に片方赤目の桜歌ちゃんが不法侵入してる、自分も入っていいかって? 少し待ってて、今行くから』


「桜歌ちゃん、誰かに操られてるのかしら」と美優はパジャマ姿で玄関から外に出た。


「そんなゲームみたいなこと信じられない」

「これでも?」


 美優はポケットからトランペットのマウスピースをだし、口元にあてがう。すると、トランペットが具現化した。


「手品だよな?」


「ちがう、これの名はウォレット・ストリングス。通称ウォレスト。武楽器の世界樹の楽器のパーツがあって、これさえあれば、魔法が使えるのよ。私達、誰でも」


 美優がそれだけ言うと、トランペットは消失した。マウスピースに吸い込まれたようだった。


「こんなところでトランペット吹いたら苦情くるんじゃないのか?」

「その点は大丈夫、テイアに対して地に足をつけてない人には聞こえない仕様になっているから」


 美優は一旦区切り、首を傾けた。


「それでどうしたいの?」


 美優が聞く。


「桜歌を助けたい」


 太陽は即答した。


「私の勧めた仕事の返事はイエスってことでいい?」

「わかった。桜歌を助けて、金ももらえるだけもらう!」

「そう。じゃあ着替えてきて。制服に。夏用の」

「なんの意味があるんだよ」

「パース・ストリングスは、同じ衣装で演奏したほうが金貨を稼ぐことが容易いの」


 美優に言われた太陽は渋々家に引き返した。鼓動と呼吸が苦しかった。家族が起きないようにそっと入る。制服に着替える。キャラメル色のベストを着た。そして、美優の家まで舞い戻った。


 美優は半袖のブラウスに赤いリボンを首のところに垂らしている。スカートは黒く、短い。


「行くよ」


 美優が小さな声で号令をかけるようにいった。


「お邪魔します」


 太陽は大きな声をあげた。


「ばか。お母さんに聞こえるでしょ。お母さん、この魔法のこと何も知らないんだから」


 家の裏までまわってきた。

一本の木が生えていた。その木は百二十センチメートルくらいの青々とした木であった。


「桜歌はグリーンスリーブスを弾いていたんだ」

「それ、リコヨーテに行ったんだよ、私達はクライスタルへ向かおう」

「リコヨーテって?」

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