19 ゴブリン達を連れてきたタイガツは
「グガー」
ラウレスクは目を開いたまま眠っていた。
「父上、起きてください」
ローリはラウレスクを揺り動かすも、起きない。
「仕方ない」
ローリは髪を一本つまんで引き抜いた。
「グオー」
全く意に返さないラウレスク。
「この部屋はまずいから、僕らの寝室に行こう」
「女とイチャコラしてて気が付かなかっただろうが、毒ガス噴射の装置がドアに付いてるんだよ」
「まあね、外してもらえるとありがたいよ」
ローリは鼻にかけることもなく淡々と言った。
「あー時間がもったいなかったな」
「僕を殺したいのかい?」
「できたら、油断見せたらザクだからな」
「無理だね」
「あーくそ、せっかく支配人も皆、睡眠ガスで眠らせたのに」
「どこにいるんだい?」
「応接間」
「あとで助けないと」
太陽が口を挟む。
「無味無臭の睡眠ガスかい? 科学が進んでいるなあ」
じきにローリの寝室に着いた。
「ちぇ」
タイガツは不服そうにしながら、リュックサックからガスマスクのようなものを取り出す。手袋も黒くて頑丈そうだ。
「ハイスペックのガスマスクだよ」
タイガツはそう言うとガスマスクを装着する。それに比べて上はドアの上の方に栓がついていて紫色の液体が瓶の中に入りテープによって固定されている。
「少し離れな」
タイガツの声に従う二人。
タイガツはドライバーとペンチを使って毒ガスの瓶を回収する。蓋をキュッと閉めると、リュックサックの中へ。その後、ガスマスク、手袋を外した。
「ローリの寝室入って平気なんだな?」
「おう、毒は回収した」
タイガツは引き戸を開け、中にはいる。
そして、二人も中にはいった。
「さて、バッハの目覚めよと呼ぶ声ありを弾こうか」
「そうだな」
ローリはラウレスクから採取した髪の毛を恭しく置いた。
「「ウォレスト」」
太陽とローリはピアノとバイオリンを出した。
「いくよ、せーのっ」
♪
二人の演奏は響き渡りながら光を生んだ。その光はローリの置いた一本の白髪に向かっている。だんだんと人形になっていく。やがて、ラウレスクと同じ外見となった。
「目覚める前に一息で落としたまえ」
「ウォレスト……おりゃっ」
タイガツは赤いギターを斧にして出すと、分身のラウレスクに振り落とした。一度では切れないので二回、三回と振り下ろした。ようやく刎ね落とした時、タイガツと畳は血で真っ赤に染まっていた。
分身は心臓が動いているため何やらくねくね動いている。
「僕の服を貸そうかい?」
「いや、いい。常に二着持ち歩いている」
タイガツは着替え始めた。
「そうかい。分身のことだけれど。一日経つか、おでこをデコピンすると髪の毛一本に戻るからね」
「じゃあ、俺はフェルニカに帰らせてもらう」
「ローリ、お前、これからどうするんだ?」
「もちろん、ネニュファールのお骨持って日本巡りしようと思っている」
「今だよ。ゴブリンを使えさせるのか?」
「うん。そうだ、母上に会ってくる。太陽君とタイガツ君は一旦日本へ帰ってくれ。それからは好きにフェルニカまで行くなりテイアに行くなりしてくれたまえ。パース」
ローリは匂いの出ない効果の黒い大きめの袋を出してタイガツに渡す。
タイガツは袋に生首を入れた。袋は生首の様相を隠してはくれなかった。
「ああ、そうさせてもらう」
「わかった。ありがとう」
太陽はお礼を言った。
「お前の母親の部屋これで開けてやってくれ」
タイガツはドライバーを差し出した。
「おや? 塞いでるのかい? 怒ってないといいんだが」
ローリ達はしばしの無言の後、中庭に来た。
「マスターが帰ってきたゾ! ひイ、人殺しダ!」
ゴブリン達は大はしゃぎしている。その後、タイガツの持っている生首を見てびっくりした。
「それじゃあな」
「ローリ、気をつけろよ」
「ありがとう、君たちもね」
太陽とタイガツは膜に入って、太陽が音は聞こえないが何かを弾いている。
「ロー君、無事で良かった」
「ガーさん、心配かけてすまないね」
「あら。首謀者は帰ったの? 一足遅かったわ」
ルコは寝間着姿でローリの隣に来た。
「母上、ドアが閉まっていたはずでは?」
「そんなの、蹴り開けたわよ」
ルコは殺気のこもった声をだし、横目でゴブリン達を見た。
「あ、ゴブリン達いますよね。もしよろしければ、この城で雇ってもらうことは可能ですか?」
「は? 利用価値あるの?」
「ありますとも。今開発中の鉱山で働かせましょう。確かゴブリンのもともとは鉱山で働いていたとヨーロッパの文献に書いてあったのです」
「オレ達は働いて、飯が食えて、たまに休みがあるならどんな仕事でもやりまス」
「ふうん、仕方がないわね。ちゃんと働くのよ? 怠けたりしたら大型のボノボになって食べてしまうからね」
「良かった。交渉成立だよ、取って食うことはないと思っていたのだよ」
「ローレライ、兵士や召使いは眠っているようね、起こしてきなさい」
「はい」
ローリは城内に引き返す。厨房に向かった。
(母上は役に立つものなら何でも使うからなあ)
「君たち大丈夫かい?」
ローリは厨房に着くと板前や執事達、そしてサウカが並んで立っているのを確認した。
「皆の縄をほどいておきました」
「もう厨房から出ていいから、応接間にいる使いの者達の自由を奪っている縄などを解いておきたまえ」
「はい」
「僕は少し眠るよ」
「ロー君」
「もう疲れたからしばらく寝るよ、明日母上に武楽器の一部を見せるよ。近々、日本巡りのたびに出ようと思っている。その準備をしなくてはいけない」
「わしもついていくのじゃ」
「いきあたりばったりだから、やめたほうがいいんじゃないかい?」
「嫌じゃ、絶対についていく」
「ごめんよ、使用人も二人くらいついていくから、二人にはならないよ?」
「それでも、わしは……う、ひっく」
ガウカは泣いている。
ローリは罪悪感に苛まれた。
「わかったわかった、じゃあ、明日母上に伝えてみるね」
「本当じゃな!」
「もちろん」
ローリは洗面所まで来て顔を洗った。
鏡には眠たそうなローリと嬉しそうなガウカが映り込んでいる。
そして、足早に寝室に向かうローリ。追うガウカ。
ちょうど目の前にネムサヤが通りかかった。
「ネムサヤ、片付けてほしいものがあるんだ」
ローリは部屋を開け放つ。死体(?)と赤く染まっている畳。
「何をしたのです?」
「分身の首がほしいというものがいてな。父上にも母上にも内緒だからね」
ローリは分身のことを知っているネムサヤに話してみせた。
「落とせるだけ落としてみせます。今武楽器で落としますか? 頭も元通りにしますか?」
「そこのガラスケースに入れておく」
大きなガラスケースの中に首と頭が再生したラウレスクの分身をネムサヤとローリは苦労しながら入れた。
「花のワルツでいいかい?」
「はい、ウォレ」
「わしもいいぞよ、ウォレ」
♪
(くるみ割り人形より、花のワルツ)
寝室は音響もよく眠気も増してきた。夢にいるかの感覚で曲は終わった。
「それでは皆おやすみ」
ローリはきれいになった布団に飛び込み眠った。




