11 メイホのぬいぐるみ
現在
「ああ、思い出した……メイホだ。あの時の!」
ローリは奥歯を噛み締めた。
いつの間にか、パイプタバコの火が消えていた。
(すぐ太陽に知らせよう)
ローリはケータイを取り出した。
『もしもし、ローリ?』
「太陽君、僕だけど、大変なことがわかったんだ」
『大変なこと?』
「今もまだ変わっていないとしたら、メイホの心臓はうさぎのぬいぐるみの中にあるということだ」
『ぬいぐるみ? あー、確かにいたな、ぬいぐるみ持っているゴブリン。いやーな、俺たちも俺達なりに調べたんだ。クライスタルに美優は特に流通しているから。あそこから半径五十メートル以内に廃病院があるんだよ。そこにいる可能性が高いってさ』
「なるほど、次の夜が来る前になんとかしなくては」
『そうだな。話変わるけど、ネニュファールの葬式に俺も美優も出たいんだ。だめかな?』
「構わないよ。僕がまた迎えにいけばいいかい?」
『クライスタルの検問の前で待っているよ。何時くらいがいい?』
「八時に来てくれたまえ。学校は平気かい?」
『夏休み入ったから大丈夫だよ』
「それなら明日だね。よろしく頼むよ」
『喪服で行くから』
「うん」
『こっちはあんまり心配しないで大丈夫だ。自分を一番大切にして、褒めたげてな』
「ありがとう」
『それじゃあまた八時に集合な?』
「了解した」
ローリは頷いて電話を切った。そして風呂に入ろうと廊下に戻った。
「ドーリー。風呂に入る、準備よろしく頼むよ」
ローリは叫ぶように言った。寝室以外はよく見張られているので直ぐに返事がきた。
「はっかしこまりました。私がいるとよくおわかりになられましたね」
「匂いでわかるよ」
「そうでしたね。では」
ドーリーは笑いかけると速歩きでその場を去った。
ローリはゆっくりと風呂場に向かった。
「ロー君」
廊下の突き当りにガウカが佇んでいた。
「なんだい?」
「今日は一緒に寝るんじゃな?」
「入浴後、またタバコ吸いに行くから、先に寝てくれて構わないよ」
「ロー君と一緒じゃなくちゃ嫌じゃ」
「すまないが、そんな気分ではないんだ。過去を清算するためにも」
「何を言ってるのじゃ?」
「腹心の部下が亡くなって気を病んでいるんだ。すまないが、一人の時間をもらいたいのだよ」
ローリは無表情で質問をいなす。
「わ、わかったのじゃ。湯冷めしない程度に風に当たるといいのじゃ」
ガウカはローリのどんな質問でも無に帰す態度に怖気づく。
「ありがとう」
ローリは口だけ動かした。そして少し歩き、風呂場に入る。全裸になってシャワーを浴びた。
照明は上にはないが所々、花に魔法がかかっていて、光を放ちつつ浮いている。
「死人の分身は作ることができないと父上が言っていたなあ」
ローリは温めの露天風呂へ入った。
(もうネニュファールはラ・フォリア以外では生き返らせない。しかし、たった三日生き返るためだけに僕が寿命を半分とられるのも、故人は望んでいないだろう)
「あの時、僕がさっさと月影に気づいていれば!」
「陛下? どうかなされました?」
ドーリーが様子を見に風呂場のドアを開ける。
ローリはお湯を叩きながら、風呂から上がった。
ドライヤーで髪を乾かす。
「またパイプタバコを廻縁へ持ってきてくれるかい?」
「わかりました」
若い執事は走って持ってきた。
移動したローリは先程と同じ要領でパイプタバコに火をつけた。




