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5 愛しき君へ

「止めようよ、何も害はないんだし」


 美優は慌てて首を振る。


「僕に意見しないでもらいたい」


 ローリはバイオリンの剣を片手に隅で集まるゴブリン達にふるおうとした。


「知らない。月影狩るだけだろう」

「う、うおお」


 ゴブリンのパンチをローリが避ける。


「死んでもらおう」

「ひい」


 ゴブリンは目をつぶった。


「冗談だよ、僕が弱いものに剣を振るう理由(わけ)がないよ……実はね月影のゴブリンの村があるんだ、君たちはそこで暮せばいい」


 ローリの声が響く。

 しばらく硬直していたゴブリンは過呼吸になりながら応える。


「えっと、どこにあるんですか?」

「確か……ここから南にあったかな?」

「行きたいです」

「この町の外の出口まで送ってくよ。そこからは自分で探してくれたまえ」


クライスタルの兵士がこの場に集まってきた。

ローリ達はゴブリンにローブを着せて見つからないように外に出た。正しくはローリの渡した宝石で何も見ていない事にした。

 ゴブリン達を検問の外に連れて行くのは大変だ。しかし、ローリの賄賂ですぐに月影のゴブリンに寝返ったのだった。


「そうそう、この国の壁には外へ出る瞬間移動できる魔法が相殺される仕組みになっているから」

美優は説明するように言うと、指をポキポキと鳴らした。


「あの、ゴブリンの村まで連れて行ってはくれないのですか?」


 幼い女性のゴブリンが媚びた声でローリ達に話しかける。


「地図だけでもいいかい? 僕らは時間で帰らなければならないから」


 ローリは「パース」といい、箱を出した。箱の中から紙とインクと、先の白い、ピンクがかった羽ペンを取り出す。箱を台にしてさらさらルートを書き込むと方位磁石と一緒に渡した。


「ローリに言われて来たと言えば良くしてもらえるよ。ここは僕が昔、迷い込んだ村なんだ。捕まりかけた時はヒヤヒヤしたよ」

「どうやって逃げたんだよ」


 太陽は珍しく口を挟んだ。


「長くなるから、その話はまた今度電話でするよ」

「帰ろうか」


 誰彼ともなく言った。


「ちょっと待て、ネニュファールはどうするんだ」

「焼いて弔う。僕は死体と遊ぶ趣味はないよ」

「ケータイ貸して」


 太陽が言うと、ローリは箱から薄型のケータイを渡した。


「何かあったら、必ず連絡入れること、な?」


 太陽は自分のケータイの番号を登録した。


「僕は大丈夫だよ」

「ありがとうございましタ、この恩は忘れませン」

ゴブリンの女の子がローリに向き直って言うと仲間を連れてテイアの外の世界に足をのばした。


 町にある球状の切り株までたどり着いた。


「ロー君、二週間は夜が来ないから、またそのときにここへ来るのじゃ。メイホは生きている」

「そうだね」

「夜っていつ来るとか決まっているのか?」

「覚えてなかったの? 一回目の夜は一週間後、二回目の夜は二週間後、三回目は三週間後、四回目は四週間後にくる、後はその繰り返しで一回目の夜に戻るの。わかった? 次は二週間後!」

 

 美優は太陽に吐くように言った後、ローリをみて悲しそうにしていた。

 ジムノペディを皆で弾く。

 ローリとガウカは無事にリコヨーテの切り株に着いた。

 真ん前に皇太后のローリの母、ルコが待ち構えていた。短い癖のかかった藍色の頭髪に藍色の目。 顔には年季の入ったシワがあり、特に深いのは眉間のシワだ。


「母上」

「ローレライ、またあのピンク頭にそそのかされて外の世界に行っていたわね」

「そのことなのですが、ネニュファールは殉職しました」

「あら、そうなのね。遺体は?」

「箱の中に留めております、つきましては町の外の葬儀場や火葬場までメイドと執事を連れて行きます」

「わかったわ、これからは私の許可なしに勝手に外出しないことね。どれだけ外が危険なのかわかったでしょう」

「はい、父上にご報告は?」

「私の方から話しておくわ」

「ありがとうございます」

「ガウカにも後でお灸をすえないとね」

「僕のいい出した事であります。後始末は僕が負います」


 ローリは小さなガウカの前に立って、守る。


「ローレライ。あなた、なんて……なんて可愛いの? 今日新しく仕立てたドレス、着てみない?」

「僕は男です。腹心の部下の事があって憔悴しきっている人の向ける言葉じゃないと思います」

「明日、焼却場まで行った後、時間取れるでしょう?」

「嫌ですと何度も言っておりますでしょう」

「それならガウカはむち打ちの刑に処するわ」

「はあ、わかりましたが、少しの時間だけですよ」


(この人はいつも自分のことしか考えてない。僕が物心ついた頃から女装させられていた)

 ローリはいつものルコの性癖にたどたどしく答えた。


「そういえば、この木の切り株付近でしか箱は出せなかったんだ。母上、地下の鍵を開ける執事を呼んでくれ」


 ローリは振り返り、切り株の元へ。


「パース」


 ネニュファールの出るほどの棺桶上の箱を出す。遺体を持ち上げる。

 たいして重くはない。

 ローリはそのままお姫様抱っこして、切り株から出る。


「陛下、お手伝いしましょう」

「僕達に触らないでくれたまえ。僕が死体公示場モルグへ運ぶ。手配をよろしく頼むよ」

 

 そのまま地下にある死体公示場に行く地下への鍵を執事に開けてもらった。


「明日は盛大に弔う。花屋と葬儀会社に連絡をしておいてくれたまえ」

「はい」

「それと喪服、女王と皆の分、用意しておいてくれたまえ」

「はい」

「ネニュファールには家族がいないんだ。僕が喪主を執り行う」

「承知いたしました」

「死化粧、エンゼルケアはネニュファールと一番中の良かったメイド達にさせる。訃報の旨を皆に話しておいてくれたまえ」


 ローリは寝台にネニュファールの遺体を寝かせる。胡蝶蘭が枕花として置かれている。ネニュファールは眠っているかのような顔だった。


「ああ、タバコが吸いたい」


 ローリはポツリと呟いた。

「君が良くないですって言っていたことをこれからするから、叱っておくれ」

「お気の毒ですがそろそろ行きましょう。それとも、まだそばに居られるのでしたら鍵をお渡しします」

「ああ、わかったよ。……もう行くね、ネニュファール」


 それからローリは王と女王の間に来た。葬式の手はずはすんでいる。


「分身たちはわしが消しといたのじゃ」と椅子に腰掛けたガウカが言った。

「そうかい? どうもありがとう」


 ローリは生返事した。


「少し、タバコを吸ってくるよ。匂いが気になるだろうから廻縁で吸ってくる」

「わしもついてく」

「一人で思想に耽りたいんだ。君とはまた今度一緒にいようか」

「タバコ吸うなんてそんな予兆、今までなかったのじゃ」

「思考が変わったんだよ」

「それでも一緒に今行くのじゃ!」

「男はね、涙を煙に変えて出す生き物なんだよ」

「ふん、好きにすればいいのじゃ」

「ありがとう」


 ローリはお礼を言って、部屋を出る。


「クレーパイプを。廻縁まで持ってきてくれたまえ」

 ローリは髪の毛を逆立てていて毛先が白いが、髪の全体的に黒い執事にいいつけ、ゆっくりと歩いた。


「はい!」


 普段、登らない急な階段を登る。

 廻縁とはベランダのようなものだ。

 外の空気は美味い。少し暑いが、リコヨーテは海に囲まれているせいか海風が熱を吸収したように涼しかった。


「お持ちいたしました」と先程の奇抜な執事が葉の入ったパイプタバコとタンパーとマッチを手渡した。


「ありがとう」


 ローリは聞こえるか聞こえないかの声量で言うと、早速ボウルを確認して火を付ける。プカプカ吸い、パイプタバコに熱を伝えて、タンパーで葉をなじませる。ゆっくりと再び火を付ける。優しく吸い込む。

(ローリ様、禁煙してください。体に毒です)

 ネニュファールの声が聞こえた気がした。周りには誰もいない。

 ローリはパイプタバコを弄ぶように吸ったり吐いたりと、のんびりした。輪を描くように煙を出した。

(ネニュファール、君と初めて会ったのは暖かな日で、郊外のひまわり畑に小さな一輪のように立っていたね)


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