20 桜歌とガウカ
太陽はルートを頭の中で考えた。
まっすぐ行き、王の間を通り過ぎる。そこを通り過ぎて左に曲がって、階段を降りていくと、錠前のついた鉄格子があった。
太陽は錠前の赤錆と同じ赤錆の鍵で錠を開けた。
ギイイ
黒板を爪で引っ掻いたような音が鳴り響いた。
「大丈夫」
美優は自分に語りかけるように言うと、そのまま足を運んだ。
足音が鳴り響く。階段があり、さらに下へと降りていく。重たそうな扉を三人で開ける。
「何だあれ」
太陽は驚いた。
人がミノムシみたいに棘のついた布で巻かれていて吊るされている。滴り落ちる血。その血が流れる床は傾斜になっている。あちらこちらその様に吊るされている人がいた。
「助けよう、美優。マッチは出せる?」
太陽は美優に指南をあおいだ。
「パース」
美優は興味なさげにマッチを取り出すと太陽に渡す。そして、そのまま進んでいく。
「ウォレット・ストリングス」
太陽はピアノを出して針を作ると、マッチで火をつけ、ミノムシ状になっている人の上へ放った。
バタン
落とすことに成功した。
「大丈夫ですか?」
棘で手を切らないように気をつけながら布をとっていく。
アイアン・メイデンに入っていたかのごとく心臓以外は棘の後が残って血がダラダラ流れていく。
「大丈夫。半月だから傷はすぐに治るよ」
美優は戻ってきてそう言った。
「ガウカはいたけど錠がかかってる、鍵貸して」
太陽は血を服で拭って鍵の束を渡した。そして、他の人も八分ほどで六人全員助けた。全員女性だった。
「太陽」
美優に名前を呼ばれて奥へ向かった。
床に桜歌とそっくりな少女が倒れていた。
「ガウカだ」
太陽は瞬時に状況を理解した。
本物のガウカの手と足に錠がかかっていて、顔以外、体には先程見た棘の布が巻き付いている。
「これじゃない」
美優は鍵を片っ端から試している。
「手足を切り取って助ければどうじゃ?」
桜歌の姿のガウカがそう言った。
「そんなことしたら血がいっぱいでて死んじゃうよ?」
「大丈夫じゃ、ガウカは半月人なのだから死にはせんが、痛いのはあるな」
「早くしないと、薬の効果切れるよ」
「ああ。まったくもうわかったよ」
「パース」
美優は箱を出してのこぎりを太陽に渡した。
「待った! いい方法を思い浮かんだ」
閃いた太陽はのこぎりを床においた。そして、桜歌の姿したガウカに目線を合わせて会話する。
「桜歌の姿をしているガウカ、武楽器で色んな形のコントラバスが出せるんだろ? この錠に合う鍵の形をしたコントラバスを出せるんじゃないか?」
「そ、そうじゃな、あてがって出せばその形になるな」
「いいね、その作戦」
「ウォレ」
桜歌の姿をしたガウカはすべての錠を外した。
「もう、戻れるんだろ。桜歌とガウカ、呼び分けるのがめんどくさいし戻ってくれ」
「それでは、スタンガンでわしを眠らせてくれ」
「わかった……えい」
美優は桜歌の姿をしたガウカに電撃を食らわせた。
桜歌の姿をしたガウカは倒れかかり、太陽は床に付く前キャッチした。
桜歌の口から水色の液体がスライムのように溢れ出ていき、ガウカの口から体に入っていく。
「桜歌!」
水色の液体は出なくなると、桜歌はうっすら目を開けた。
「桜歌?」
「お兄ちゃん。ありがとう」
「意識は戻ったみたいね。長居は無用だよ、帰ろう」
「わしを置いてくな」
ガウカも目覚めた様子だった。桜歌の耳から彗星証を片方取って自分の耳につけている。桜歌のワンピースのポケットの中から武楽器の一部を取り出した。
振り返ると太陽が先程助けた半月人たちも目を覚ましている。
「今度は正々堂々と正面突破だよ」
「君たち、リコヨーテは地球の日本というところに落ちた、しかし帰る場所はある! もうフェルニカの好きにさせない、皆でリコヨーテまで」
「帰るぞ!」
太陽の演説はガウカによって阻まれた。
「オー!」
生贄だったリコヨーテの民以外の皆が賛同した。
太陽は先陣を切り、もと来た道を戻っていく。兵士達三人に見つかった。向かってくる兵士をいなす。のこぎりで剣先の行末を外す。
その時だった。
太陽が助けた半月人はコヨーテに姿を変えていて、太陽よりも遥かに獰猛に、兵士に噛み付いた。
「ああああああ」
「そういえば、リコヨーテから差し向ける生贄の半月の種類はコヨーテだったんじゃった」
ガウカはのんびりした口調で話した。
「ちょっと、これからどうやって帰るの!」
「待て、このやろう」
この声の主は大月だった。
「お前どうしてここに。もう半月や俺らを傷つけないと約束してくれたら痛い目には合わせないぞ?」
「太陽こそ、仲良くなれたと思ったら……、約束なんてできるか」
「交渉決裂か? 俺はお前とは戦いたくない」
「ああ、仕方ない、俺はここで生まれて育った恩がある」
「この世界ではおいしい食べ物があったり、きれいな景色があったりもっと世界は広いんだぞ」
「それらはお前を殺してから見に行く、お前は貴重なコレクションを逃亡させた、重罪だ」
「半月の血を取らなくても、月影を倒しに行けばいいだろうが」
「幻想だな、半月の血のほうが効率がいい。さあ死んでもらおう。ウォレスト」
大月はギターのような赤い斧を出した。
太陽はのこぎりで攻撃を凌ぐ。
「待てよ。ルフラン含めフェルニカ兵五人の命がどうなってもいいのか?」
「俺を脅す気か」
「今リコヨーテに捕らわれている彼女らを解放したら生贄制度をやめてもらいたい。この戦いもな」
「そうだな」と大月は思考している。
「うーん、相わかった。お前らの無事を保証しよう。生贄制度もやめるか検討してやろう。戦争しようにも、地球の日本人が味方にされちゃ勝ち目がないからな」
大月は静かに言うと「全軍攻撃やめ!」と発した。
フェルニカの全員が敬礼した後立ち止まった。
「リコヨーテの皆も止めよう! よーし、死傷者なしで皆帰れるぞ。人間化か半月化してくれ」
太陽の声でリコヨーテの人たちはよくわからない様子だった。彗星証をつけていないのでわからない様子だ。
ガウカが翻訳すると、皆、人間化していった。
皆、裸だったため、太陽は目のやり場に困った。
「あ、服ならあるよ。パース」
美優は裸の人にワンピースを配っていった。
「ちょっと血だらけね、何か演奏する? 太陽とガウカ」
「じゃあバッハのメヌエット ト長調 皆で弾こう」
「いいね」
「「「パース」」」
「「「ウォレスト」」」
三人の声が重なった。
美優はトロンペット、ガウカはコントラバス、太陽はピアノが出現した。
「太陽、ウォレストで出せるようになるなんてすごい成長だね」
「いいから弾くぞ、せーのっ」
♪
三重奏はリコヨーテの民や太陽達の手についた血を金貨などに変え、太陽達の箱に収まっていく。
演奏が終わり太陽はピアノを消した。
「ルフラン達はいつ釈放される?」
「俺が帰ったらすぐにでも釈放と言うか、リコヨーテを出禁にするよ。任せておいてくれ」
「月影か」
「ああ、月影を倒すんだぞ。あと、学校やバイト先で変に態度変えるのもやめろよ」
「わかったよ」
太陽一行はその場から離れた。空は青く澄み切っていた。太陽の光が眩しかった。
(やっと本物のガウカの姿が見られる)
太陽は高鳴る胸を鎮めようと胸に手を当てた。
「ねえ、思ったんだけど……、この国にも移動で消える切り株があるんじゃない?」
「あ」
太陽はここまでの過程を考えてみる。
(大月はどうやって日本に来ているのだろうか?)
「切り株まで俺が連れて行く」
大月は手で合図する。
太陽はすたすたと速歩きをする大月に警戒しながらついていく。
そのうちに、桜歌は眠ってしまった。
十分位経っただろうか、山のようなところにあった、切り株は黄色い半透明な膜で覆われていた。
「ありがとうな、じゃあな」
「だからそれはこっちのセリフだ」
大月はお礼を言ったが、太陽は内心もやもやしていた。
「十人入れるかな」
「多分大丈夫だ」
全員入ることができた。しかし、大月はこう言った。
「リコヨーテに戻るんだろう、ルフラン達の行方を知りたいから、俺もその中に入れてくれ」
「日本から来てるんだったら、自分でリコヨーテまで来ればいいよ」
「時は一刻を争うんだ」
「入れてあげよう、そのかわりここに来る魔法曲を教えるっていうのはどうか?」
「残念ながら、普通の人がこちらに来るには海を渡って来るしかないぞ。ここから日本に帰っていたのは俺と親父だけだ。俺と親父なら日本からここに戻ることも可能だがな」
「そういえばリコヨーテの囚われの身だった半月の人たち、地球にきたことないのにリコヨーテまで行けるのかな?」
「この膜の中に入ることができたんだからきっと行けるよ」
「多分だけど、今のリコヨーテは地球のものとみなされて、リコヨーテの人たちがこの膜に入れるんじゃないかな?」
大月もこの場に入ってきた。
太陽は桜歌を寝かせる。
「さあ、ジムノペディを演奏しよう」
「「「ウォレスト」」」
♪
音がなった。その音に旋律が重なる。
チープな演奏ではなかった。
三人全員が音を命を燃やすように出していた。
内側の膜になっている世界が回る――。
周りの波が和らいだ。
(ここは、リコヨーテ?)
「太陽君、平気かい?」
(ローリ!)
そこはローリの城の中庭だった。周りに桜歌達が寝っ転がって、ここの世界も暗がりだった。
太陽をローリが覗き込んだ後、違う人と見比べている。
「彼はフェルニカの王子、タイガツ君じゃないか?」
ローリの声と同じくして、鹿威しがカコッとなった。
「これはその」
太陽がうろたえる。
「ルフラン達を開放する代わりに生贄制度をやめるということです」
美優が急に起き上がった。
「僕になんの相談もなしに決めてもらいたくはなかったな。王子にもう一度、説明を願おう」
「大月は俺の友達で、学校の同級生なのです。危ないことはさせないでください」
「そうかい、それは大事な情報だな。安心したまえ、悪い目には合わせない」
ローリは顔色が悪そうだった。兵隊のような服や鎧を着た人が列を連ねている。
「ネニュファールは?」
「ここにいます」
ネニュファールは大月の手を縄で縛り始めていた。
「縛るのはやめてくれ」
「落ち着いてくれ、ネニュファール。ここでは半月を襲ったりはできまい。信用問題に関わる」
「はい、わかりました」
ネニュファールはものすごい速さで縄をほどいていく。
太陽は顔を赤くしている桜歌のおでこを触る。
「すごい熱だ、冷やしたほうがいいんじゃないですか?」
「ネニュファール、氷嚢を応接の間に。僕が桜歌さんを運ぶ。誰かベッドメイキングを頼む」
「かしこまりました」
ネニュファールはローリに頷くと、嫌そうな顔をしてその場を離れた。
ローリは桜歌をお姫様のように抱き上げる。
「陛下、これからも月影を狩るよな? フェルニカの人も半月ではなく、月影を狩ることは約束させたよ。これからは仲良くできないかな?」
太陽は頭がいたいのを我慢してローリについて行く。
「約束は守るよ。ガウカさんひいてはリコヨーテの民を助けてくれてありがとう」
「こちらこそ、時間を戻してくれてありがとう」
「僕が時間を?」
「覚えてないのか」
「全く、君は僕を退屈させないな」
「頭が痛い」
「おや。皮肉かい?」
「いや、俺も眠りたい」
「それは大変だ。応接の間にベッドメイキングを追加で頼む」
ローリの言葉に太陽はまた頭痛がして立っていられなくなった。大柄の兵士に担がれた。
「はい、かしこまりました」
別のメイドの声が太陽の耳を通過した。
「僕の大事なお客さんだ。丁重に扱ってくれ」
ローリの声を最後に太陽は意識が遠のいていった。
「はっ、ここは……?」
太陽は目を覚ます。
周りの皆は高級布団に挟まれて眠っていた。
「やっと目覚めたかい?」
「ロー、陛下……」
太陽は周りで取り囲む兵士を見て、緊張した面持ちに変わる。
「ルフラン達はどこに?」
「もう中庭の切り株からフェルニカに帰ったよ」
「なんともなかったんですか?」
「ああ、次日本に訪れる時はここからだからと言ったがな。ここは日本の観光地になりそうだ」
「ということは日本人と仲良くなれたんですね?」
「もちろんだとも。僕らは日本に憧れていて必死に世界を改変していたからね」
「テイアには自由に行けるんですか?」
「行けるさ。さて、この場所に来れる新たな魔法曲を考えなくてはな」
「そんなことできるんですか?」
「願い石を使う、とは言うものの、リコヨーテの持つ大本の願い石は消失してしまったよ」
ローリはため息を吐きながら言うと太陽に向き直った。
「君たちにも協力してもらいたい。願い石を作るためのペドルを集めてもらいたい。もちろん一つの箱から取れる願い石は一個、そして曲のためには五十個は必要だ」
「そ、そんなに!?」
「報酬は渡すよ。皆にも頼む手はずとなってるよ」
「報酬って?」
「換金率高めで日本円でも、貴金属でも、珍しい装飾品でも、望むなら土地でも。その報酬は奉公の度合いによるが」
ローリの言葉に太陽は唖然として何も言い返せなかった。
「俺は……日本で暮らしますが、俺の方からも頼みます」
「あの世界樹の切り株の膜の中ではパースが出せることが判明したんだ。武楽器からでも平気さ」
「あの切り株か」
太陽が声を出して反応すると、横に置いてあるバッグから月の光が流れ、ケータイが鳴っていた。
「出てもいいですか?」
「お好きに」
太陽は表示も見ず通話を押した。
『太陽! あんたどこにいるの? 風神さんの家にもいないし心配してたんだから、帰ってきてよ。私が悪かったよ! 家事やらせて、ごめんなさい。私がやるから、戻ってきでようううう』
裕美の大きな謝罪が皆が寝ている部屋中をかき乱した。
『お母さん、心配かけてごめん、今日帰るからね』
太陽はケータイを閉じて、少し笑った。
(お母さんも本当は俺らのことが心配だったのだ)
ローリが青い球状のものを配下の者に持ってこさせた。
「太陽のケータイの番号、教えてくれるか?」
ローリの持つケータイに凹凸がありそこへ太陽は番号を入力していった。
そこへかけると太陽のケータイに着信した。ローリのは不思議な形のケータイであった。
「案外ケータイも悪いもんじゃないな!」
「お兄ちゃん、うるさい」
桜歌は目を覚ますと不思議そうに周りを見渡した。
「俺さ、じゃんじゃん月影倒して、じゃんじゃんお金貯めるから。そしたら、もう不安はないぞ?」
「お兄ちゃんはいつも一人で突っ走る! 桜歌は何もできないのに」
「そんな事言われたら何もできないよ、わかった、のめり込まないように程々にするよ」
太陽は桜歌とそのとなりで寝ているガウカをみやった。そっくりだった。
(目の上にホクロがあればまんま桜歌だな)
「お兄ちゃん、話しに集中してよ」
「あ、ああ、皆無事で良かったな」
「まったくもう、太陽はすぐ別のこと考える」
「あ、美優、起きてたのか?」
「あたしもいるわよ? そういえば今何時かしら?」
美亜が会話に割り込む。
「もうすぐ五時半だな」
太陽はケータイを見る。
「話変わるけど遥さんとルイさんは? あと仁さんとアイ達は?」
「リコヨーテに残ったものもいれば、自力で日本に帰っていった人もいるぞ、フェリーとかで」
翔斗が説明口調になる。
「トイレ行こう、太陽、連れションしよーぜ」
髪の長い執事は手を指し示しながら、案内した。
トイレは壁は木でできているようだったが綺麗だった。
「風神さんと仲良くな、俺は新しい恋を探すよ」
「前向きだな」
太陽は用を済ますと翔斗と執事の後をついていった。
二人は広い応接間に連れて行かれた。
お茶とお茶請けが用意されていた。広い縦長のテーブルにテーブルクロスがひいてあり、ひまわりやカーネーション、レザーファンなどの生花が飾られていた。
美優達はテーブルを囲んでいた。
「帰りどうしようか」
美優の唸る声に太陽は思いついた。
「誰か一人に日本の大樹から来て、一緒に帰れば日本に帰れるんじゃないか? 遥さんに言おう」
しばらくするとローリが王冠をつけてゆったりしたローブに身を包んで出てきた。
先刻起きたガウカもローリと同じく豪華なローブに身を包んで、頭にはティアラまでつけている。
「これからたくさんの月影と対峙するやもしれぬが、存分に気をつけて誰ひとりかけることなく、再び集まろう。願い石を集めることを念頭に置き、無理はなさらず月影を倒していくんじゃぞ」
「オー!」
横で人一倍豪華な椅子にローリが座った。
「明日、また来てくれたまえ、生贄を救ってくれた君たちに凱旋パレードをするから」
「ありがとうございました」と皆がいい、少し笑談した。
帰りはローリと兵士が見送ってくれた。
「テイアで会ったらまたよろしくお願いします」
「僕の方こそ」
ローリと一緒にガウカも残るらしい。
「ガウカ」
「ガウカ様か、女王様だね」
「女王様、また会えますよね?」
「そうじゃな」
「さようなら、また明日会いに来ます」
美優を筆頭にそういいながら切り株の膜に入っていった。
「ジムノペディね」
♪
太陽一行は一度テイアに行き、遥と合流した。
「結局ガウカって大月にくっついて日本にきて、太陽にくっついて空似の桜歌に目をつけたんだね」
「ガウカはローリのことどう思ってるんだろう」
「ネニュファールと三角関係じゃない?」
「これから帰るんだから盛り上がらないでよ」遥は周りを見渡した。
♪
太陽達は遥の奏でる黄色みが強いバイオリンで日本に帰ってこれた。
(遥のバイオリンも上手いがローリの前では二番煎じ感があるな)
太陽は少し失礼なことを思ったが、気取られないよう、すぐににこやかな表情に変わる。
「やっと帰ってこれたんだわね」
美亜が呟いた。
「私は先に家に帰るね、駅まで自転車取りに行ってね。じゃあまたアルバイトで!」
遥は一人違う方向へ帰っていった。
「美優、また明日からテイアに行って月影を倒すのか?」
「そのつもりだけど?」
「疑問形に疑問形で返すなよ」
「あら、太陽、言うようになったね?」
「俺、少しずつテイアで月影を倒す」
「あんた一人じゃ無理よ」
美亜はそう言うと桜歌の頭を撫でる。
「そうだな、美優か美亜についていくか」
「ローリとネニュファールと一緒に行動すれば死ぬことはないんじゃない?」
「んー電話してみるかな。でもあの二人できてるだろ、邪魔じゃないか?」
「まあ、今日は疲れてるだろうから明日にしなよ」
「駅まで自転車取りに行くのだるいな」
翔斗はぼやく。
「運動になるよ」
「はあ」
「太陽もため息つかない、桜歌ちゃんのほうが立派よ」
「桜歌も成長したな」
太陽はそう言うとハンカチで顔の汗を拭った。
駅につき、自転車に乗った。桜歌も一生懸命ペダルをこいだ。
翔斗と別れて、美亜と別れて、桜歌は二台自転車を持って帰るのが大変なので、太陽がもう一度美優の家に行くこととなった。
「テイアの歴史の話まだ聞く?」
「偶然、笛吹いた人がテイアを潤していったんだろう」
「よくわかったね。猿が台頭していったのは事実なのだけど、恐竜やマンモス、ターリーモンスターなどがテイアにはまだいるの。もちろん月影でね」
「なるほどな、リコヨーテにはもう月から落ちてくることはないんだろう?」
「そうね。月影はいないけど、半月はいるね。危惧されている、今の、半月は基本的に優しいからね」
「もうリコヨーテは日本と同じで箱は出せないんだ?」
「そうだね、まあ、テイアに行けば出せるよ。太陽がまだ見ていないテイアの場所も多くあるからね」
「わかった、色々話してくれてありがとう」
「またね」
家の前についた美優は太陽に口づける。
太陽は一瞬何が起きたのかわからなかった。唇を軽く触った。
(俺のファーストキスが!)
ドキドキしながら太陽は自転車を押して歩き、家についた。
「ただいま」
二人は家につくとそう言った。
「おかえり」
両親と桜歌が声をかけた。
太陽は裕美と顔を合わせるのは久しぶりだった。
「ただいま」
太陽はもう一度言う。心が温かい。
その時、大月からメールが来たのでケータイを取り出した。石のストラップが揺れた。




