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13 誕生日までもう少し

 太陽は急いで帰る用意をしたが、落ち着いて深呼吸をした。


(慌てることはない、家からアルバイト先まで一分もかからないし)

 バイト先まで自転車に乗っていった。


「おはようございます」


 太陽はシフトが同じ時間の人に挨拶をする。


「おはようございます」


 同じ返事が返ってくる。


 中を横切って更衣室に向かう。大月がぎこちない動きで、中華鍋を振る舞う。

(大月、俺と同じ時間帯なのに意識高いな)

 太陽はタイムカードを押すと、すぐに制服に着替えた。

 やることは覚えてしまえば至ってシンプルだ。そしてレジの担当の人はあまり中にはいらない。

 太陽は冷房がガンガンきいていて寒いほどだった。手を洗い、調理場に立った。


 新たに入った大月は、ベテランの男性が調理を行うのをメモしながら、覚えているのだ。

 太陽は揚げ物が注文に入ったらその都度教えることにした。

 お昼時になるとしばらく大盛況で忙しかった。

 昼休みになった。


 太陽は社員割引で買って、家で食べることにしている。昼ごはんはステーキ弁当。

 外は相変わらずの暑さだ。

 きなこもアスファルトが暑くて、ひっくり返って足をバタバタさせていた。


 太陽は再び自転車で帰る。およそ三十秒で家につき、リビングでお弁当を食べる。

「桜歌どこにいったんだろう。友達の家かな?」

(五時までには帰ってくるだろう。桜歌は人見知りしないからなあ)


 太陽はすぐにお弁当を食べ終えると、ケータイを開く。美優から労るようなメッセージが届いていたので、お礼を送る。

 美優はすぐに返事の代わりに昨日撮った写真を送ってきた。


 太陽はそのお礼も送った。そして写真を見ると皆笑顔で撮れてる。


 アラームが鳴って、アルバイトに行く時間になっていた。

(十七時まで頑張ろう)


 太陽はすっくと立ち上がり、簡単に準備をする。外へ出ると日光が真上から照りつけてくる。自転車で店まで乗っていった。


「おかえり」と仁に言われる。きなこに水を飲ませていた。

「ただいまですー」と太陽も答える。


 店に入ると、いきなり冷蔵庫にでも入ったような涼しさだった。

 太陽は制服に着替えて、中の作業を手伝った。

(桜歌はチャーハン弁当でいいか)

 太陽は夕方の五時になって、四人分のお弁当の代金を払ってあがらせてもらった。


 太陽は桜歌と喧嘩したことに対して反省した。店を出ると、ものすごい熱気が襲ってきた。

 (美優が言っていたことだがテイアで楽器演奏する時、いつも同じ服着てないと魔力が減ってお金を回収するのに時間がかかるんだっけ)

「家に帰るか。父親の顔見たくないけど」

 太陽はぼやくと自転車にまたがった。

(父親は前の仕事は土曜日は休みだったはずだ、先週も居たし)


 外では気持ちいい風が太陽を包み込んだ。

 太陽は家につき鍵を開ける。そそくさと部屋に入り、ショルダーバッグから本類を取り出し、制服に着替えた。どうやら裕美は知らないが、響は出払っているようだ。


 桜歌は白地に緑のリボンが付いたワンピースを着て、リビングで絵を書いていた。

 テイアで着ていた服と同じだ。太陽が洗濯してローリの城の人に返そうと思っていた服だった。


「桜歌、その服返そうと思っていたのに」

「おかえり。でもこの服くれるって言った! 帽子もあるよ!」

「そうなのか、今朝はごめんな」

「ううん、大丈夫」


「自転車で行くんでしょ? 桜歌なら乗れるよ?」

「いやな、お腹すいたと思ってお弁当買ってきたんだ。美亜の家で食おう?」


 太陽はいいながらお弁当を見せると、外へ出た。桜歌も玄関から出たので家の鍵を閉める。

 太陽は先導して美亜の家に向かう。


「俺は、桜歌が幸せなら何があっても、もう、大丈夫だから」

「桜歌も、そうだよ? お兄ちゃんといれるならどんなことでも大丈夫だよ」

「ありがとう」


 太陽は気持ちの整理が間に合わないまま美亜の家の前に来た。


「桜歌、ピンポン押すね。えい」


 桜歌がインターフォンを鳴らす。


「はーい」

「太陽のお兄ちゃんの妹の桜歌だよ。今日は呼んでくれてありがとう」


 桜歌がインターフォンのカメラに向かって語りだす。


「太陽の妹さんか。あたしは美亜だよ」

「美亜お姉ちゃん」

「可愛いわね、桜歌ちゃん。ちょっと待ってて」


 少し間があってから、玄関のドアが開いた。


「暑かったでしょ、入りな。ルセッシュつけて!」


 美亜は消臭スプレーを桜歌に渡した。


「「お邪魔します」」


 太陽と桜歌の声が被さった。

 桜歌は消臭スプレーをかけて、そのまま太陽に渡した。


「美優は?」

「お手洗いに行ってるわ」


 美亜の声と同時に美優はリビングへきた。


「太陽、お弁当重くなかった?」


 美優は心配げな表情で太陽を見た。


「俺、これでも男だから。筋肉見るか?」


 太陽は手に力を込める。軽く曲げてみた。


「ふうん、普通の男子高校生の腕だけどちょっと筋肉あるかも」

 美亜は遠慮なしに太陽の上腕二頭筋を触ってくる。背が低いので太陽の手にぶら下がろうとした。


「もう、離せよ」


 太陽は声を荒らげた。


「お兄ちゃん怖い〜」

「桜歌はぶら下がってもいいよ」

 太陽はしゃがむと桜歌の手を上腕二頭筋へ掴まらせた。そして力いっぱい立ち上がる。


「きゃー」


 桜歌は楽しそうに歓声を上げた。


「あたしと三十センチくらいしか変わらないじゃない」

「シスコンだからね、太陽」

「うっさいな」


 美優は太陽の持っていたお弁当類を確かめる。そして開ける。

「いただきます」

「この唐揚げ、太陽が揚げたの?」

「俺が全部作ったんだぞ」


 太陽は桜歌をおんぶするのをやめると肩で息しながら答える。


「そういえば、翔斗が言ってたんだけど、同級生の黒須賀くん? がバイト先に入ったらしいね?」

「そうだけど。情報早くない?」

「まあ、練習以外、翔斗はずっと喋ってるから」

「俺がいないときに俺の話で盛り上がるの止めてくんない?」


「ふふふ」と美優が笑うとおしゃべりモードから食事モードに切り替わったかのように静かになった。


「ごちそうさまでした」


 誰彼となく、食後の挨拶をした。


「じゃあ行きますか?」

「今ガウカ呼び出すから待って」


 桜歌がいうと美優は自然に桜歌の手を持った。


 桜歌の顔にシワが出て、消えた途端に桜歌の目が赤色と黒色に変わった。


「ここはどこじゃ?」

「美亜の家だよ、ガウカ」

「あのさ、その目の色どうにかできないか? ローリなんかは月影化してからその目に変わるけど」

「すまんすまん。わしの目の色でガウカになったのかわからせてやろうと思って」


 ガウカは軽く目を閉じると、数秒時計の針が動いたとたんに、目を開ける。すると、目の色はどちらも黒くなっていた。


「今度こそ出発しよう」


 美優達は美亜の家から裏山まで黙々と歩いて行った。雑木林が広がっているので慎重に進んだ。

 ひときわ大きい木が生えていた。


「ウォレスト」

「ウォレット・ストリングス」

「「ウォレ」」


 皆バラバラな魔法を唱える。

 太陽はガウカのあまり目に入らなかったコントラバスをまじまじと見る。四分の一サイズだ。


「美亜はじめの指揮お願い」

「はーい」

(グリーンスリーブスか)

 太陽は皆をまとめるように弾く。

 最後の音と共に出てきた赤い濁流に美亜とガウカが飛び込む。

「あのね」と、美優は飛び込もうとした、太陽の手を掴んだ。


「私、翔斗に告白されたの」

「え、それで?」

「断ったよ、……太陽のことが好きだから、付き合って」


 美優は恥ずかしそうに手を離し、濁流の中に飛び込んだ。


「なんだよ、それ」


 濁流が小さくなるので太陽は美優のことを気にしながら、飛び込んだ。


 暑い。汗が流れる。それもそのはずだった。太陽は砂漠の境界線に立っていた。美優と目があって、お互いすぐにそらす。

「美優、あのな」

「なんか人の声しない?」


 美亜が太陽の発言を遮った。


 太陽は耳を済ませる。


「助けてくれ」


 何人もの人の声だった。


「リコヨーテに入ろう」


 目の前のドラゴンの顔の骨に美亜は近づく。


「なんかおかしい。ウォレット・ストリングス」


 太陽は武楽器を出しながら言う。


 皆それぞれ彗星証やギンガムチェックやアーガイルチェックの物をまとう。そして、太陽のように呪文を唱える。


「星条旗よ永遠なれ……か」


 ガウカはポツリと呟いた。目で合図して美亜が吹き始めるのと同時にいくつもの音がなった。

「だめだ。開かない」


 太陽はドラゴンの口が開かないのを認める。そして暑さに身もだえる。太陽は人力で開けようとした。すると、意外に簡単に口が開く。


「あ、あぶな」


 肝心の中身がなかった。


 太陽は空中に投げ出される。下を見ると数人が箱を土台にしていて空中にとどまっていた。落ちそうになったが、ズボンが下顎の歯に挟まって滑り落ちずにすんだ。金色に輝く石が内側の歯にあったのでとる。ドラゴンの骨の上顎に挟まれないように、美優が支えてくれていた。

「危なかったわね、太陽大丈夫?」と美亜が焦りながら聞く。


「なんとか」


 太陽は首をかく。持っている石に皆が注目していることに気づく。


「歯に挟まってた」

「誰かが願い石を使ってリコヨーテを移動させたんだね」

「それにしたって大きな願いだわね」

「あ、そういえば、さっき落ちそうになった時、何人か、空中で身動きできなさそうな人見たんだけど」


 太陽が言っているときに美優が砂漠地帯を進んだ。何かを見つけた様だ。


「願い石だよ。うわわ」


 ちょっと足を踏み入れた美優はどんどん身長が縮むように砂漠の砂浜に落ちていく。手には小さな片手に収まるほどの金色の石。


「ウォレスト」


 ガウカの倒したコントラバスが平たいまま、どんどん大きくなって、美優に届いた。


 美優は倒れ込み、よつん這いになり、それに乗って難を逃れた。


「ガウカありがとう」


 そういう美優に対してガウカはほっと吐息をつくだけだった。


「どうやら強硬策に出たらしいね」

「それにしても大きな願い石を作って願いを叶えたわね。普通の願い石はその大きさ分の願い石が叶った瞬間、散り散りになって、消えるはずだものね」


 美優は太陽の腕を掴む、そして持っている願い石に自分の願い石をくっつける。すると、少し吸収し大きくなった。美優ははっとしたように手を離した。


「太陽、これはねパースを最大限集めてできる石なんだけど、普通の石は親指ほどで願いも小さな願いしか叶えてくれないんだけど、まあそれはいいや。とにかく願いを言ってキスをすると願いが叶うの、何でも叶うわけじゃなくてね。その願いが石の大きさと等価交換で叶えてくれるの。普通願い石は叶うと爆発して砂に変わるんだけど。多分願いが石の大きさよりも簡単な願いだったために形が残ったと考えられるかな。推測だけど」


「きっとローリ含めリコヨーテ軍は願い石を集めすぎたんだわね」

「この願い石でリコヨーテまで行けるかな?」

「いいね、そうしよう」

「わしはまかせる」


 ガウカが口を開く。


「わかった。あとさ、この空中にいる多分、フェルニカ兵、どうにか救わないと」

「甘いわよ。フェルニカの人がリコヨーテの様子を知ったら、攻めて来なくなるわよ」

「そのほうが都合いい。この願い石の力で助けよう」

「というか、おそらく、リコヨーテは日本の近くに落ちたと思うわ。それなら全員リコヨーテに飛ばしたほうがいいんじゃないかしら」

「そうするか」

「貸して。まず誰が一番にリコヨーテにつくかが大事なんだから。太陽、あなたが一番に行きなさいな。後は、願い石を使えるだけ使っていくから。日本で会いましょう。もし途中で願い石が使えなくなったとしても桜歌ちゃんは私達が必ず守ってみせるから心配ないよ」

「そうだな、他の人送って願い石が砕けたら本末転倒だな」


 太陽は美優に願い石を渡した。


「願い石よ、目の前の石井太陽をリコヨーテまで一瞬で移動させて」


 美優は願い石に軽く接吻をした。


 石は金色の光を一層強めて輝き出した。太陽の足元の地面に丸い円が光となって浮かび上がった。

 太陽が最後に見たのは美優の持つ、少し小さくなった願い石だった。

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