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12 リコヨーテにいた人

 ルフランの服装は『元気!』と書かれたTシャツにハーフパンツという身軽な服装だ。


「なんで、なんで、お前らは半月にひどいことするのに、平然とリコヨーテの人たちに媚びを売るようなことをしているんだ」

「それは僕に言われても、媚びを売るって、よくわからないよ。不要な戦闘を避けるために、毎年一人の犠牲の上にリコヨーテが成り立っているんだ。媚なんて売ってないよ」

「でも、リコヨーテのギルドの兵隊になってるなんて」

「あ、僕から一つ忠告、今月の二四日、このリコヨーテは崩壊するだろう。だから、もうここにきちゃいけないよ」


ルフランの声に太陽は頭にハテナマークがいくつも浮かんだ。


「どういう意味だ」

「戦争を起こすってことだよ」

「なんで、俺に打ち明けるんだ」

「ローリとは腐れ縁だからね。フェルニカの人達探すように見ればよく見かけるよ。ほら、あそこに座ってブラックジャックしてる人とか皆フェルニカからきた人たちだ」

「カジノか」


太陽は漫画などでよく見かけるような扇形のテーブルを見た。

 黒服たちが三人ほどオーナーだったり見張りだったりと監視している。そのテーブルに五、六人ほどの人が座ってじっとしている。

 ちょうど、カードをオープンする場面だったようだ。

 ディーラーのカードが開かれ、口々に罵詈雑言や、称賛の声が上がる。

 そのうち、ガタンと一人の男が椅子を蹴るように立ち上がった。険悪なムードが流れる。

 太陽は取っ組み合いになるかと思ったら、メルケンバウアーがその男に何かを言っていた。


「ルフラン、今あいつなんて言ったんだ、っておい」


 太陽が質問した本人はどこかに消えていた。

 メルケンバウアーと話していた人は連れて行かれたのか、いなくなり、五人はまたトランプカジノを興じていた。


「待たせましたね」とササ。

「おい、ササ。メルケンバウアーさんカジノで暴れそうになってる人をなだめたぞ」

「へえ、すごいですね」

「いやすごいですね、じゃねえよ」

「時間もないし行きましょう」

「なんだかなあ」

 太陽一行は再び階段を降りることになった。

「報酬は先払いですよ」

一番乗りで、颯爽と最後の一段を降りた時、ササが言った。

「美亜、美優、悪いがここは割り勘で払えないか?」

「まったくもうしょうがないね」

「いいけど」


 金貨を一人三百枚位、麻袋に入れてササに渡す。

 太陽の持ち金は底をつきそうだった。


 ササは美優が前に上げたブレスレットが気に入っているようで腕にしっかりとはめていた。

 太陽はササの後を追いつつ、二人にルフランの言っていたことを小声かつ、手短に話す。


「二四日って桜歌ちゃんの誕生日じゃない」

「どうするか」

「戦争となると、どうなるのか」

「重症者と死人が出るわね。でも入ってくるところ固めちまえばどうにでもなるんじゃないかしら?」

「爆弾や火炎放射器で攻め込まれたらどうするよ」

「まずは相談だ」


 話をしているうちに例の湖まできた。今日はお城はライトアップされて光を放っている。


「じゃあ行ってきますね」


 ササは力を入れて、背中にドラゴンのような羽を生やす。もともと赤かった左目が更に赤く光る。そして、体を浮かせると、一目散に飛んでいった。


 小舟が岸までつくと、案内人の操縦で太陽一行は城へ入ることができた。


「思ったんだけど、どうしてこんなにセキュリティガバガバなのかしら」


 美亜は確かめるように言った。


「陛下や帝王様は鼻が効くので、誰かきたのかわかり、その時々に応じて城から見て一目瞭然なんですよ」

 優しく囁いた一人の男性の案内人は菅笠を深く被って着物を着ている。三人の案内人がこの場にいる。二人が女性でもう一人が男性だ。

しばらく談笑していると使いのものが口を開いた。


「王と女王の間でございます」


 案内人は二人で両開きの引き戸を開けた。


「おうおう。よく来たな、俺様になんか用か?」


 ローリが玉座に座っている。

 太陽はいつもと全く様子が違うローリにたじろいだ。


「今日どうしたんだよ? 陛下様の様子おかしすぎだろ?」

 

横にいるネニュファールに気がつくと、小声で問う。


「陛下がどうかなさったんですか? 何を言っているかよく存じ上げませんが」


「今日は良い晴天だったな。盃をかわそう」


 ローリは案内人の方へ手を広げた。


「ご用意いたします」


 案内人がいなくなると、ローリは窓際に寄った。


 コツンコツンとなにかが窓を叩いている。

 ネニュファールはゆっくりと窓を開く。


バサバサバサ


 何かが部屋に侵入してきた。


 体は五〇センチ位のピンクの毛が生えた白いミミズクだった。どうやらアルビノのようだ。足に何かを掴んで離さない。

「獲物持っているのか?」

「フェレットです」

ネニュファールの言葉で、太陽は瞬時に状況を理解した。それは、ミミズクと小さな白いフェレットの片目が赤いからであった。ミミズクの目は鴇色と赤色。フェレットの体長は約四〇センチで藍色と赤色の目の色をしていて、見た目はシルバー色が混じった白い毛色だ。


「アンタ達、本物のローリとネニュファールね!」


 美亜も気づいたようだった。


 ミミズクは床につくと、足に挟んだフェレットを自由にさせた。全体的に白いが藍色の毛が顔から背中にかけて生えているフェレットだ。

 羽が飛び散る、そして一人の少女に変わった。

 それに合わせたようにフェレットの毛が飛び散った。彼はマントを羽織っていた。目は赤くなっていたのが治って、両目同じ藍色だ。吹き飛んだ毛や羽毛は散り散りになって消えた。


「やあ、ちょうどよかった。桜歌さんを再び分身にする時間だったよ」

「あ、あの、ジャストタイミングですね、陛下」


 偽ネニュファールがそういった。

 ローリは偽ネニュファールにデコピンする。すると、キンッという音ととも偽ネニュファールは体がしぼんで消える。同じ様に偽ローリもデコピンで、キンッという音を立ててしぼんでいった。


 髪の毛が一本と、もう一本その場に残ったので、ネニュファールが髪を拾い、箱の中に入れた。


「髪の毛残るのか。分身ってどうなっているんだ?」

「多少性格が変わるのです」

「変わりすぎだろ」

「さあ、帰るかい? 桜歌さんの分身を作りに来るかい?」


 太陽のツッコミを受け流し、ローリが喋る。

「残念だが、帰らなくちゃならない。そうだ、フェルニカのルフランという女の子と仲いいらしいな」

「昔、ネニュファールと同じ孤児院で遊んでいた仲だね、まあ、僕は孤児院に勝手に入って遊んでただけだけど」

「そのルフランが! 二四日にフェルニカがリコヨーテに対して戦争を勃発させると言っていた」

「なんですって!」


 ネニュファールは頬に手をあてた。頬を紅潮させた。

 ローリは黙ったままだった。


「今すぐ、皇太后様に知らせましょうか」


 ネニュファールは大きな声でまくし立てる。


「備えはしてある。緊急の際の手はずはとれている。母上にはまだ言わないでくれたまえ」


ローリはまっすぐした目線をネニュファールに向ける。そして、他には何も言わずに部屋から出ていった。


「皆さん、城の中を勝手にうろつかれると困るので、世界樹の切り株までご案内します」


 ネニュファールは虚ろな目をしてそういった。


「いままでどこに行っていたんだ?」

「パトロールです」


 ネニュファールは部屋から出ると、小声で話した。


「どこを?」

「岩石地帯です。月影カラスの尾も取れました」

「仲間がいるのか? カラスの尾?」

「もう別れました。ええ、今ギルドで報告をしているはずです」

「なんで王様がパトロールしてるんだよ」

「陛下は冒険家なんですよ」

「うーんと、兵士たちに任せておけばいいんじゃないの?」

「この世界では、簡単に命を落とす人が大勢おります。正しい行動をしているのです」


 ネニュファールと太陽一行は中庭の切り株についた。


「じゃあ、またな」

「ネニュファール、ここまでありがとう」

「また明日よろしくね」


 太陽、美優、美亜の順で別れを告げた。ネニュファールは寂しそうに手をふった。

 三人は世界樹の切り株を覆う赤い膜を通り抜けた。


「ここで違う曲を弾くとどうなるんだ?」

「愚問ね。日本のどこかに飛ばされると思うわ」

 美亜が即答した。


「グリーンスリーブス、違う曲弾いたらどうなるかわかってるよね?」


 美優は強い口調で言うと、手をうちわのようにして顔をあおいだ。


「わかったよ。ウォレット・ストリングス」

「ウォレスト」

「ウォレ」

 美優の指揮者のように上から下に手をやる指揮で曲が始まった。

 不思議と三人のアンサンブルのトリオはピッタリと息のあった演奏ができた。


 赤色の回転の波は収まる、そして三人は大樹のそばに躍り出た。

 美亜の家の裏は暗かった。


「明日もまた、テイアに行ってもいいか? 美亜の家の裏から」

 太陽は一歩ずつ慎重に歩を進めた。


「明日、土曜日だけど、部活が三時まであるのよ。それ以降でいいなら」

「俺も明日、バイトだよ、五時まで」

「じゃあ、五時半に美亜の家に集合でいい?」

 美優はしっかりした足取りで丘を下る。

「オッケー! まずリコヨーテに向かうからな」

「ご飯は?」

「リコヨーテは海藻とか魚とかしか食べないじゃない? 米と小麦だと、小麦の方が流通してるみたいだし」

「美亜の家で食べるか」

「あたしんち何もないし、いきなりきても困る。……そうだあんた確か土日、p市のお弁当屋で働いてるのよね、ほら、美優、前、翔斗達と行ったじゃない。太陽が働いてるから行くぞって言って」

「買ってこいってか?」

「それぐらい、いいでしょ、ピアノ貸してあげたじゃない」

「その代わり、明日、桜歌も連れて行っていいか? もう父親のことが信じられないから」

「いいけど、お弁当追加ね」

「よかった、ところでなんのお弁当がいい?」


 太陽はショルダーバックからお弁当屋のチラシを出した。


「私はイタメ」

「…………まあいいや、野菜炒めと後は、何がいい美亜?」

「唐揚げがいいな」

「了解」

「もう帰るか」

「待ちなさいよ、桜歌ちゃんに明日よろしくって伝えなさいよ?」

「おやすみ」

「おやすみ」


 美亜は外灯のついている玄関に入っていった。


「太陽」

「ん? どうした?」

「何でもない、早く帰ろう」

 美優はここに来るまでに乗ってきた自転車を転がしてきた。

「送ってくよ」

「太陽の帰り道だし、当たり前でしょ?」

「はい」

「桜歌ちゃんの誕生日どうする? リコヨーテはフェルニカの魔の手が降りかかるじゃない?」

「俺が止める。三時には間に合わせる」

「一人の力じゃ無理でしょ」

「空を飛べる半月か、ガウカにフェルニカまで連れて行ってもらう。戦争ともなれば、フェルニカの警備が手薄になる。ガウカを助けて、桜歌の体を元通りにしてもらう」

「そうだね」


 美優と太陽は夜の道を外灯を頼りに進む。鈴虫がアブラセミと背くらべしているかのように鳴いている。しばらくの沈黙のなか、美優が口を開く。


「まだお父さんのこと信用できないの?」

「あんな奴が父親だなんて、死にたいくらいだ」

「そうやって死にたいって言うと、来世も死にたい人生を送ることになるよ? これは持論だけどね、人間は自殺なんかしたら、神様のバツでもう一度同じような環境に置かれて、同じような人達に囲まれて、それでまた、自死すると思うの。それが悪いって言うわけじゃないけど、なんにも変わらずにおんなじ所で死ぬことを選んだらもったいないじゃない? その先にあるだろう幸福を自ら手放すわけでしょ?」

「それでも俺は幸せになっちゃいけない気がする」

「他人は他人よ。一人一人人生は違うからね、たとえ家族であっても」

「桜歌が心配だから俺もう行くね」


二人は美優の家の前まで来た。


「桜歌ちゃんも大事だけど、自分の行く末もしっかりと選択して、幸せになって。じゃあね」

「ありがとう」

「お互い様だよ」


 美優は暗がりのなか、鍵を探して、すぐに見つけると、太陽に手をふった。

 こうして一人になった太陽は前が見えなくなるくらい涙が溢れて止まらなかった。それでも、太陽は桜歌のためという名目で帰路につく。自分の嗚咽が我慢できなかった。

 太陽はショルダーバックからポケットティッシュを出して、目を拭くついでに鼻水もかんだ。


「この辺は暗い道だから、何か明るい商業施設があればいいのに」


 太陽は自分の事より違うことを考えた。桜歌もそうだが、美優のことが心配になった。家につく。

 太陽が玄関をくぐる。家に入ると、桜歌がちょうどお風呂から出たらしくジャージ姿の桜歌と目があった。


「お兄ちゃん、お帰りぃ」

「ただいま。桜歌」

「お兄ちゃん、どうして泣いてるの?」


 桜歌は太陽を見上げる。


「な、泣いてねえよ。歯、磨いて寝るんだぞ」

 太陽は目が涙目になっていたので、少し焦る。家の鍵を閉める。しばし時間がたってから毎日のルーティンをこなした。


「お兄ちゃん」


 十一時頃だった。

 太陽は勉強机で勉強してると、桜歌が話しかけてきた。


「トイレか?」

「うん、お兄ちゃんまだ寝ないの?」

「大学に行きたいからな」


 太陽は美優の言葉に触発された。


「テイアで暮らせば、確かに金持ちになれるかもしれないが、危険な思いを桜歌にはさせられない。奨学金で大学に行って、それでもお金が足りなかったらテイアで稼ぐよ」


 太陽は勉強に脳内をシフトした。寝るのは十二時過ぎになってしまった。




「おはよう、お兄ちゃん」


 桜歌の声がその場にいる太陽をすぐに目覚めさせる。

 太陽はパブロフの犬のように桜歌の大声を聞くと緊張感が増して、気になってしまう。まだ眠りたかったが、桜歌に怒られるだろうから起きた。すぐに朝がきてしまった。


「おはよう、桜歌」


 太陽はもぞもぞとタオルケットから出てくる。


「そうそう、今日夕方からガウカになってくれるか? テイアに行かなくちゃならないから」

「夕方の? ガウカに聞くね」

「来週ガウカの体に戻るから協力してくれ」

 桜歌は立ったまま目をパチっと開いた。

「お兄ちゃん、聞いたよ。来週ガウカの体へ戻るんだね、大丈夫みたいだよ」

「それまで耐えれるか」


 桜歌は何度も頷いた。


「ご飯早く食べよう」と太陽が言うと、桜歌も一階のキッチンへ向かった。二人はカップラーメンしか食べるものはないけれど、その事を言っても何も変わらないので何も言わなかった。

 太陽と桜歌は黙々とご飯を食べる。


「おはよう」


 響が部屋から出てくる。


「おはよう、パパ」


 桜歌は明るく返事した。

 太陽は努めて無視をした。

(何が、おはようだよ。何事もなかったふりして)


「あいつと話すの止めたほうがいいよ」

「パパのこと? なんで?」

「俺が嫌いだからだ。子供の気持ちわかってないよ」

「桜歌は好きだから。もうパパのことを悪く言うのは止めて」

「はあ、もういい」


 太陽は着替えて出かける準備をした。いつものショルダーバッグに教科書やノートを詰め込んだ。


「今日は土曜日だよ?」

「バイトまでワックで勉強してくる」


 太陽は外に出ると、自転車のカゴにクモのはっている大きな網を木の棒で振りほどいた。

「今は……七時四十分か」


 太陽はワックにつくと、時間をケータイで確認した。

店内の中はとても涼しい。過ごしやすかった。まるで砂漠の中を歩き続けて、やっとオアシスを見つけたようだった。

 店員にアイスコーヒーを「ごゆっくりどうぞ」と渡された。なるべく人気のない奥の席に座る。

 店内は明るい照明に動物達の可愛い絵柄で壁が色づけられている。

 太陽はケータイのアラームを止めた。集中していたので時間のすぎる速さに圧倒されつつ、勉強は捗っていた。


「八時半か、そろそろ出ないと」


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