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11 ネックレスを作る三人


 美亜達の向かったのは、ぐるりとまわって後ろにそびえ立つ、丘の上にある一本の大樹だった。

 美優と美亜と太陽は彗星証をつけたり、赤いギンガムチェックのものをつけたりしている。


「ウォレット・ストリングス」

「ウォレ」

「ウォレスト」


 皆バラバラに呪文を唱える。

 ピアノ。トランペット、クラリネットが現れ出る。


「グリーンスリーブス、だよ」

「はーい」


 ピアノを弾き終わった太陽は尻込みしつつも、濁流の空間に飛び込んだ。

 周りが目まぐるしく回り始める。


「おっとっと」


 太陽は転ばずに着地した。

 ここは砂漠のような場所だ。


「きゃあ」


 上から美亜が降ってくる。

 太陽は受け止めようとした、しかし、尻餅をついた。上に美亜が乗っかってくる。


「いてて。重い」

「誰が重いのかしら?」


美亜は太陽にうつ伏せで乗っていて、太陽は仰向けで横たわっていた。

太陽は思ったことが口に出てしまう。


「まな板だな」

「死なすわよ」

「喧嘩しないで、ほら」


美優は美亜に手を貸して立たせる。次に太陽にも手を貸した。

 ドラゴンの骨に向かって三人は立っていた。

(スーザの星条旗よ永遠なれ……か)

 太陽はもう一度ピアノを出す。


「ウォレット・ストリングス」


 二人も続いた。


「「「ウォレスト」」」


 音がいきなり増えた。

 太陽は振り向く。

 昨日見たササがフレンチホルンを吹いていた。

 それだけではない。ドラマーの人。フルート、サックスの吹く人までいる。

 ドラマーの人は金髪のリーゼントヘアをしていて、タッパもある。サングラスをつけていて、赤のギンガムチェックの模様が入ったスタジャンを着ている。

(見るからに怖そうだ、間違えたらバチが飛んできそうだ)

 太陽はそう思って、他の人も見てみる。

 サックス奏者の人は見るからにおじいちゃんだ。それも元気な。白髪と白いヒゲを生やしてる。アーガイルチェックの丸頭巾を被っている。フルート奏者はネムサヤだ。

 太陽は話したいのを我慢して鍵盤を叩く。

 やっと終わった。


「あの、あなた達は?」

「俺はクライスタル兵のメルケンバウアー、こいつらはササとアルケーとネムサヤ。リコヨーテのギルドに所属している。よろしく」


 ヤンキー風の男はそう言うと太陽にがんを飛ばした。

(俺なんかしたかな?)

 太陽は声が出せなかった。


「やあ、また会ったね。よく来たね」

 ネムサヤは手のひらをひらひらと見せた。


「おら、アルケー。生涯現役だぞ」

 白ひげを生やした高齢の男性、アルケーが言う。


「こんにちは美優さん、昨日ぶりですね」

 ササは美優以外眼中にない様だ。


「早くリコヨーテに入ろうよ、閉まっちゃうよ」

 美優は自分に言い聞かせるように言った。


「俺は太陽、こっちが美優、こっちの小さいのが美亜」

 紹介しながら、太陽が先陣を切って階段を降りる。

「小さいは余計よ」

「ところで、なんでリコヨーテって日本風なのに、星条旗よ永遠なれとか、王様の名前とか、アメリカ風なんだよ?」

「陛下の前の当主がアメリカを好み、現陛下は日本を好んでいるというわけさ」


 ネムサヤが答えた。


 階段を降りると疑似太陽が上のほうにあった。そのおかげで周りは明るかった。熱くもなく寒くもないポカポカした、小春日和のような体感だった。

 遠くにローリの住んでいるお城がうっすら見える。そしてその前はビルが立ち並んでいる。車も走っていた。


「じゃあ、俺らはこれから、ギルドに向かうから。またな」


 メルケンバウアーはぶっきらぼうにいうと、仲間を連れて行ってしまった。


「何だったんだ。えーっとこれからどこに行けばいいんだ」

「ムーン宝石は、半月デパートの中の一角だよ」

「半月デパートっていうのか」


 美優を先頭に歩き出した。


 小さな精霊があとを付いて歩く。かっぱのような精霊たちだった。車道を避けて歩道を歩く。


「ここよ」


 美優の声に従ってデパートの中に入る。手芸屋は二階にあるポップな色のお店だった。


「可愛いいいい」


 美亜が歓声を上げる。


「ここにあるもの一つ、二百ペドルだよ」

「レジンと――」

「あ、レジンはいっぱいあるから」

 美優は太陽のカゴに入れたレジンを棚に戻す。

「あったよ」

 美優は太陽のモチーフにした金色の飾りと、月をモチーフにした銀色の飾りを見せる。

「このパーツならなんとかなるな!」

「キラキラのラメも使えるね」

「じゃあ俺が払ってくる」

「待ちなさいよ。これも買ってほしいんだけど」

 美亜は小さな石にチェーンの付いたストラップを三つ入れてきた。

「記念にね」


 美亜は少し照れた顔をした。


「チビ、素直に笑うとこはじめてみた、笑えるんだ」

「これは太陽持ちで買ってね。喧嘩売ったバツよ」

「しょうがねえやつだな。……パース・ストリングス」


 太陽は箱から十二枚金貨を取り出した。火竜と争っていた為、お金はまだたんまりある。

 レジに並んで支払う。レジ袋に入れてもらう。


「ありがとうございました」


 店員もアーガイルチェックの青と赤のエプロンをしている。

(本当に日本にいるみたいだ)

 太陽は首をひねった。

 暫く歩くと、休憩所と日本語で書かれた喫茶店のような風貌の店があった。


「入るよ」


 美優がそういった。


 太陽と美優は丸太を削ってできたような椅子に座る。美亜は二人に相向かうようにクッション性のある一人用のソファに座った。


「ほれ」


 太陽は石のストラップを美亜と美優の渡す。


「皆でケータイにつけよう」

「いいね」


 美優と美亜は二人で盛り上がっていた。


「太陽はどうするの?」


美優に言われ、太陽はしぶしぶケータイをポケットから取り出し、ケータイに青い石のストラップをつけた。

 太陽はレジンセットを袋から出す。美優もトートバッグを開いた。


「始めよっか」

「イエッサー」


 こうして太陽は世界に二つしかないネックレスが誕生させた。

 二個作るのに一時間以上はかかった。

 太陽含めて三人黙々と作業していった。


「できたの?」


 美優は興味津々に聞いてくる。

 太陽は出来栄えをみせる。


「可愛いね」

「ありがとう。美優のは?」

(独創的だな)

 太陽は真ん中で月ではなかった。次に美亜の作るネックレスを覗き見た。

 オレンジ色の太陽と金箔のようなラメの月で合わさっていてキレイだった。


「無視!? 何その反応!」


 美優は怒ったように頬を膨らませた。


「へっへーん。残念ねえ。あたしの見て笑おうとしていたでしょ。こういうの大得意なのよ」

「別にそんなつもりじゃないよ。パース・ストリングス」


 太陽はできたネックレスを箱にしまった。


「ちょっと、あたしにも見せなさい」

「七月二四日、桜歌の誕生日なんだ、そのときにお揃いとして見せるよ」

「美亜も来る? 私の家でパーティーするんだけど、もちろん、部活の終わる三時以降になるけど」

「いってあげてもいいよ」

「決まりね!」


 美優はさっそく作ったネックレスを首にかけた。


「プレゼント、何がいいかな、おい、太陽、リサーチしてこい」

「なんでだよ。何でも喜ぶと思うけど」


 美亜も首からネックレスをかける。

 休憩所から出ると先程の明るさが嘘のように暗くなっていた、遠くの空はオレンジ色だ。足元に  光るキノコが生えているので転ぶことはないと太陽はたかをくくっていた。


「この辺日本とファンタジーの兼ね合いがとれてるみたいだなって、ううぉ!」


 太陽はのけぞりながら倒れる。

 それは大きなキノコだった。人面のキノコが喋った。


「失礼でね? 君。エーアイ」


 キノコ頭の男は数本、頭に毛が生えている。

 太陽は信じられないものを見るかのように驚いた。


「エーアイ、エーアイ!」


 キノコは喋りだすと止まらなかった。


「俺は太陽というんだけど貴方は誰ですか?」

「俺は水見ユウキだ」

「なんでエーアイなんだ?」

「昔、エーアイに仕事とられて、仕方なくお城の武楽器で金儲けしようと武楽器を盗ろうとして捕まったんだ。その後皇太后に呪いをかけられた」

「そんな事があったんだ」

「フェルニカに行きたいんだが、何かいい方法ないか?」

「二十四日、夜が来る。フェルニカの警備が薄くなる」

「小さな、小さな半月を送り込んで様子を見させるか。情報もないのにいきなり行っても混乱するだけだ」

「とりあえず、今日は地球に帰ろう、まだ日はあるよ。ガウカは簡単に殺されたりしないから」


 美優の言葉に太陽は頷いた。


「ありがとう、えっと、ユウキ」


「おう、俺は疲れたんで寝る。八時間は寝るぞ。エーアイ」


ユウキはその後、微動だにしなかった。

「あ、そういえば、城に行くまでの湖どうやって渡るの?」と美優。


「ギルドに行ってみよう、運が良ければ、ササがいるかも」

 太陽は即決した。

「道分かるの?」

「わからない」

「私もリコヨーテの地理詳しくないから迷子になりそう」

「そのへんの精霊に聞いてみよう」


 黄緑色のバンダナを巻いて、黄緑の葉っぱのような服を着た、真顔の顔文字のような顔をした精霊がそっと近寄ってくる。精霊は優雅に木の生えているところに座った。


「精霊は喋らない。精霊の踊りを誰かが吹いている、または弾いている。もしくは吹いていた、弾いていたとも言えるね。この精霊相当数いるでしょ。奏者は広いところ、ギルドに居ると思うの。精霊は作り出した者の言うことをきく」

「そうか、だったらこっちも同じ精霊を作って、奏者の元まで行こう」


 太陽は小さな声で「ウォレット・ストリングス」と唱えた。ピアノが出てくる。


「美優はトランペットだから見学ね。ウォレスト」


 美亜は美優を指しながらクラリネットの武楽器を出した。


「むう、わかったよ」

 美優は精霊のいる木の根本に腰掛けた。

 数秒後、旋律がその場に轟いた。

(この作者グルックはマリー・アントワネットの音楽の先生でもあった)

 曲に魂を吹き込むように弾く太陽。

 比べて美亜はクラリネットのピッチを合わせるのに必死だった。

 音が集まってきて、一体の黄色い魂の様な精霊の姿に変わる。


「タイミングずれてる」


 美優は意見した。

「俺は美亜に合わせるからな!」


 美亜は少し眉間にシワを寄せて、太陽を睨んだ。

(わかってるわよと言いたげだな)

 そして、曲の終盤に差し掛かる。

 太陽はピアノで弾いた。

 一体の青い小さな精霊が生まれた。1つ目で口をパクパクさせている。外見は太っていて青い風呂敷を背負っている。体全体が丸っこい。


「言っとくけど、ピアノとクラリネットの弾いたり吹いたりした時間しか効果無いからね」

「二分しか持たないってこと?」

「早く命令しなくちゃ」

「君たちあの精霊にテレパシーを送れるかな? もし送れたらご主人まで案内願いたいんだけど」


 青い精霊は手を上げた。その手は黄緑色の精霊の前に、声はないもののテレパシーを送っているのか、二体は手を繋いだ。一瞬の間が流れた。


 黄緑色の妖精は立ち上がると、ついて来いと言わんばかりに大手を振って歩き始めた。


「よかった。通じたようね」


 美優は立ち上がる。


 太陽も一息ついてピアノを消して、後を追った。

 美亜も武楽器を消す。

 辺りは暗いので小道を慎重に歩く。広い通りに出ると、日本でよく見かけるマンションやアパートが立ち並んでいた。民家もチラホラと見えてきた。沖縄のシーサーによく似た、口を開けた珍獣と対になって口を開けてない珍獣が門のところに飾られている。

(雄と雌だろうか?) 

 地面がレンガ造りに変わった。

 すぐに大きな光が見えた。

 伽藍のようだ。


 美優はケータイを出して自撮りし始めた。


「美亜と太陽も!」


 美優の声とともに、太陽は背中を引っ張られた。


 太陽はレンズに視線を合わせると、パシャリと脱力感溢れる音を聞いた。

 美亜、美優、太陽の写った写真を見て嬉しがっている美優。

 美亜もあとに続く。ケータイをぎりぎりまで斜め上へ持ち上げる。そして、再び、ケータイに皆映り込むのに美優と太陽はしゃがむと、カシャシャシャシャと何枚も撮った。

 妖精はスタスタ進んでいく。

 太陽はあまりにも情景にうっとりしている美亜の手を掴んで「もう行くぞ」と言った。置いていかれるのは非常にまずいと思った。


「あ。ずるいよ」


 美優は太陽の空いている左手を掴んだ。


 太陽は途端に胸が熱くなっている間に、大きな階段が目の前に見えた。

 妖精は増えていた。黄緑色の精霊に赤い帽子を被っている全身赤い精霊がついて回り、そしていきなり物陰から現れた背のある青い精霊は空気のように半透明だ。


「ここの上、どうやらギルドね」


 美優は木に埋もれた看板を顎で示す。


 大きな看板にはご丁寧にギルド、この上、と日本語で書かれている。

 結構急な階段だった。階段の横に等間隔で並んでいる小ぶりのランタン。建物の光が見えてきた。

 アーガイルチェックの旗のある、大きな建物……とはいってもローリの城のお手洗いとどっこいどっこいだ。足元のカーペットもアーガイルチェックだ。人がごった返してる。酒屋が近くに併設されているようだ。ジョッキを片手に大声を上げている人がいる。


「太陽、ちょっと見てきてくんない? 私達そこのベンチで休憩してるから」

「……いいよ」


 太陽は美優の言葉に逆らえなかった。

「君が精霊の踊りを吹いているのか?」


 ギルドの前にいたユーフォニアムを吹いている少女に声をかける。短い黒髪に眼鏡をかけている。

 少女はユーフォニアムから口を外す。


「うちのお仕事に水ささないでもらえますか?」

「いや、君の曲のおかげでここまでこれたんだ、お礼くらい言わせてよ。ありがとう」


 太陽はそういうとギルド内に目を向けた。


 少女はユーフォニアムに口を当てようとして止めた。


「うちはアイ。呼び名はアイで構わない。……お父ちゃんがね、ここで楽器を吹いていたら必ず会えるって、だから、毎日食事と入浴と睡眠その他諸々以外はここで精霊の踊りを吹いているの」

「お父さんはギルドのメンバーなのか?」


「そう。うちにはお父ちゃんしかもういないの。三年前にお城に侵入したんだけど、うちを逃してくれたの」

「お母さんは? ちなみにお父さんの名前は?」

「月影に襲われて死んだ。お父ちゃんの名は水見ユウキ」

「いままでどうやって暮らしてきたの?」

「今は孤児院で面倒見てもらっている、お父ちゃんに会いたいよ」


 アイの言葉に桜歌が重なって見えた。

(さっきの場所まで戻るか? いや、今行っても寝ているはずだ)


「明日お父さんの元へ連れて行くよ、もうユーフォニアムはいいのか?」

「今日のノルマは達成したから」

「ノルマ?」

「ここで吹いてるのは父親を探すことと、初心者にギルドを見つけやすくするためなんだ、これで、ご飯を食べているから。ノルマは十八時まで」

「明日もうちょっと早い時間にもいるんだろ? 明日お父さんの元まで案内するから。俺の名前は太陽。またな」


 太陽はケータイを開く。


(今は金曜日の二十時になるところか。桜歌は大丈夫だろうか?)

 ササの声を思い出しながら、人垣をかき分けて進む太陽。


「激ケチの太陽じゃないか」


 ギルドの討伐表の横にササがいた。


「なんだよ激ケチって。ササ、お前を探してたんだ。会いたかったぞ」

「気色悪いなあ、なんか用かよ?」


 ササは腕を組む。


「城の中まで入れる小舟を用意させて、また案内してくれないか?」

「報酬は?」

「無論渡すよ」

「今すぐ行くんですか〜?」


 ササは変わり身が早く、すぐに敬語に変わり揉み手をした。


「ああ」

「ちょっと待っててください」


 ササは一緒に飲んでいたアルケーとメルケンバウアーに声をかけに奥のテーブルに向かっていく。

 太陽は通りすがりに信じられない人を見た。


「む、君は確か太陽じゃないか?」


 声の主はルフランであった。


「お前、何してるんだよ?」

「そうだね、僕は新しいクエストがないか探してる途中だよ」


 ルフランの髪飾りは赤いハートと青いAだった。棒付きキャンディーを舐めている。


「フェルニカ兵じゃないのか?」

「僕は生まれは確かにフェルニカだが、十才までの育ちはリコヨーテだよ」

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