リゼカは開き直る事にした
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あの後、ジョージと一緒に帰りたくなくて全力疾走をしたわたしは、結局後を追って来たレオンに難なく捕獲され、寮まで送り届けられた。
レオンはジョージとの間に何かあったのかと気にしていたが、班の招集が掛かっている為に直ぐに騎士団詰め所へと戻らねばならず、まさに後ろ髪引かれるような感じで去って行った。
寮の自室に戻り、わたしは力なくベッドに座る。
わたしの後を必死に追いかけて来てくれたレオンの様子を見て、驚いたと同時に嬉しいと思ってしまった。
わたしなんてほっとけばいいのに。
せっかくサーラさんが迎えに来てくれたのに。
それでもレオンは追いかけて来た。
それが例えヘレン女史に頼まれた責任感からだとしても、
その時だけはわたしの為に走って追いかけて来てくれたんだ。
わたしはそれを嬉しいと思ってしまった。
顔を見たらやっぱり嬉しいし、好きという気持ちでいっぱいになる。
だから、決めた。
どうせ別れるなら、距離を置くんじゃなくて良い思い出を作ろう。
離れる事に慣らすんじゃなくて、もうお腹いっぱいと思えるほど楽しい思い出を沢山作って、そしてサヨナラをしよう。
そんなに長い期間じゃない。
ほんのひと月かそのくらい。
どうかわたしに最後の時間をください。
そして互いに笑ってサヨナラ出来る、そんなお別れを目指したい。
わたしは図々しくも、開き直る事にした。
次の日からさっそく、またわたしからレオンに会いに行くようにした。
あ、そういえばジョージの奴、急に自ら志願して地方出張に行ったそうだ。
レオンはわたしがジョージを嫌っている訳をジョージの口からも説明させたかったらしいんだけど、ジョージの奴……逃げたな。
出張は長期でジョージが帰って来るのはふた月後らしい。
レオンはわたしにもジョージとの事を聞いて来たけど、わたしは単に性格の不一致とだけ告げておいた。
だってレオンとサーラさんの事を口に出したくなかったんだもの。
サヨナラするまでは現実逃避して楽しく過ごすと決めたから。
だからわたしは適当にお茶を濁しておいた。
次の週末、わたしは久しぶりにレオンのアパートに来ていた。
先週は理由をつけて会うのはやめたから。
今日はレオンの好きな食事を作ってあげよう。
一緒に買い物に行って、一緒に下拵えをして、一緒に食べて。
多分今日は久しぶりにお泊まりもするかもしれないな。
ほんの少し前まではこんな週末を当たり前に過ごしていたのに……
なんだかもう、遠い過去のような気がする。
レオンと過ごす楽しい時間。
ねぇ、少しは覚えておいてね?
わたしとこんな時間を過ごした事を、ほんの少しでいいから……。
夕食はレオンの好物の牛頰肉のシチューにした。
ストーブでコトコト煮て、頰肉が柔らかくて口の中でホロホロにほどける。
レオンは今日も「旨い」といって沢山食べてくれた。
食後にコーヒーを淹れて、二人で飲みながら色々な話をしていた時、
誰かの訪いを告げる玄関チャイムが鳴った。
「誰だ?こんな時間に」
レオンが不機嫌そうにぶつくさ言いながら玄関へと向かう。
わたしはなんだか嫌な予感がしていた。
……そして予感通り、玄関から賑やかなあの人の声が聞こえて来た。
「コラ~レオン~!今日こそは呑みに付き合え~っ!」
「うわっ?サーラっ?お前っ……酒臭っ!酔ってんのかっ?」
「酔ってる?酔ってないわよぉぉ~でへへ」
「酔ってんじゃねえかっ」
お酒に酔ったサーラさんがレオンのアパートに押しかけて来たのだ。
「……レオン……サーラさん大丈夫?」
わたしが声をかけるとサーラさんが嬉しそうにわたしを見た。
「あー!リゼカさんだ!やっほーリゼカさぁん♪リゼカさんも一緒に呑もうよ~」
そう言ってサーラさんはレオンの部屋に雪崩れ込んで来た。
「お前、勝手に入って来んなよっ、なんだってそんなに酔っ払ってんだ」
レオンがそう言うと、上機嫌だったサーラさんが今度は急に泣き出した。
「うっ…ううぅっ……これが呑まずにいられるかって言うの!別れた元カレから結婚式の招待状が届いたのよっ?ありえるっ?普通出すっ?元カノにっ?酷くないっ?私に結婚願望が無いと知った途端に私を振って他の女と結婚するのよっ?クズじゃないっ?」
「先輩は男爵家の長男だ。お前に結婚する意思がないのなら、他の相手を探すしかないのは当然だろ」
「酷いレオンまで!寂しい!悲しい!あんなのと付き合うんじゃなかった!なんだってあんなのを私に引き合わせたのよー!」
「お前、帰れよ」
「嫌よっレオンっ!責任をとって呑みに付き合いなさいっ!!」
サーラさんが酔っているとはいえ、
わたしが聞くのは憚られるかなりプライベートな内容……
サーラさんは酔っ払っていて、自分から帰る意思はなさそうだ。
何よりサーラさんはレオンに慰めて欲しいのだろう。
レオンだってきっと……
わたしは、帰れ帰らない、呑む呑まないの押し問答を繰り広げている二人を他所に奥の部屋へと行った。
そこに鞄を置いてあるのだ。
この場合、お邪魔虫はわたし。
退散するべきはわたしだ。
エプロンを外して鞄に入れる時、レオンの部屋に置いてあるわたしの私物も一緒に詰めた。
これで全部ではないけれど、今のうちから少しずつ撤退の用意をしておいた方がいい。
わたしは鞄を持って再び玄関へ行き、レオンに告げた。
「レオン、わたしが帰るね。サーラさんの介抱をしてあげて」
「は?ちょっ…なんで?リゼカが帰る必要はない、帰るのはサーラだよ」
「何おうっ?レオンの意地悪っ!はくじょーものっ!この!もーこうしてやる!」
そう言ってサーラさんは倒れ込むようにレオンに抱きついた。
「おまっ…こらっ、離れろサーラっ!」
レオンは全身脱力して飛び込んできたサーラさんを難なく受け止める。
……さすがは騎士だ。
わたしは端的に告げた。
「サーラさんはそんな状態で帰るのは無理よ。送ってあげる必要もあるでしょう?だからわたしはもう帰るね」
二人の横を通り過ぎ、玄関のドアノブに手をかけるわたしにレオンが言った。
「待てリゼカ。駄目だ。帰らないでくれ」
「駄目じゃないわ、サーラさんの為よ。それじゃあ」
わたしはそう言って勢いよく玄関を出てドアを閉めた。
ドアの向こうでは、離せ離さないという押し問答も始まっている。
わたしは振り切るようにアパートを飛び出した。
いい思い出を作る間もないのかな。
あの二人を待たせておいていい思い出なんて、身勝手過ぎるのかな。
それでも、どうしても。
だって、
だってまだこんなにも胸が痛くなるくらいレオンが好きなんだもん。
わたしはぐちゃぐちゃになった感情に身を任せるまま、大きな歩幅で夜の街を歩いた。