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絶対に嫌っ!

通常の業務を終えてから監査に備える為に遅くまで残業だったわたし。


王宮敷地内の外れにある独身寮に歩いて帰るわたしの為に、先輩文官のヘレン女史がレオンに連絡して迎えに来て貰ったという。



「な、なぜヘレンさんが……?」


わたしは突然現れたレオンに狼狽えつつヘレン女史に訊いた。

そんなわざわざ?


「私と彼は文官と武官といえど、同期なのよ。初出仕日に、国王陛下の有り難い御言葉を共に頂いた者同士よ」


「そ、そうだったんですね……それはお心遣い、ありがとうございます……」


わたしの身を案じて下さった優しさを無下にしてはいけない。


わたしヘレン女史にお礼を言った。


そんなわたしにレオンが言う。


「じゃあ帰ろうリゼカ。ミス・フルニエ、知らせてくれてありがとう」


ヘレン女史は柔らかな笑みをわたし達に向けた。


「いえ。ミス・リューズ、お疲れ様」




そうしてわたしは独身寮まで15分の道のりをレオンと共に歩く事となった。


誰もいない(所々で夜番の騎士とすれ違うけど)王宮西翼棟を二人並んで歩く。


普段は気にならない靴底が床を鳴らす音がやけに耳についた。


レオンはあまり口数が多い方ではない。

でもわたしはそれは全く気にならないし、むしろレオンとは沈黙すら心地よい…そんな事すら感じていたのに、このところの自分の心境ではこのいつもの沈黙が居た堪れない。


わたしは努めて明るくレオンに質問するという形で話しかけた。


「連絡を受け、わざわざアパートから来てくれたの?」


「いや。今日はちょうど夜番だったんだ。詰め所に居たところにミス・フルニエから知らせがあった」


「えっ、それじゃあ勤務中っ?ごめんなさい、すぐに戻ってっ」


慌てるわたしの頭に、レオンは宥めるように優しく手を置いて答えた。


「今は丁度休憩中だ。その時間に合わせて残業を終わりにするからとミス・フルニエが言ったんだ。本当に有能な人だよ」


「そうだったのね……あー良かった」


ヘレンパイセン、さすが仕事の出来る女。

至れり尽くせりじゃないですか。


そんな事を考えるわたしの手をふいにレオンが繋いで来た。


大きな手がわたしを包む。


「レオン……」


レオンは何も言わず、歩き続けた。



大切にされてる。


それは本当によくわかっている。


レオンはわたしを大切にしようと、頑張ってくれている。


だからこれ以上を望むのは贅沢だ。


望んでも、望んでも、きっとそれは叶わない。



それを裏付けるようなレオンの気配。


レオンの、何かを思い詰める気配がわたしにも伝わってくる。



この頃よく感じる、何かを告げようとしている気配。


喉元まで出掛かっているのに、声に出せない、何かを躊躇うそんな気配がヒシヒシと伝わってくるのだ。



いやだな。


やっぱり別れ話なんだろうな。



優しくて真面目で誠実なレオンはきっと恋人関係になったわたしに、

ずっと想いを寄せていた人がフリーになったから別れたいとは今更言い出せないんだろう。


優しいというかヘタレというか……



まぁだからわたしから別れようと、今頑張ってる最中なんだけどね。



ごめんねレオン。


別れる練習になんかつき合わせて。


わたしもホントヘタレだわ……。






王宮の西翼棟を出た所で前を人影が横切る。



ーーゲ。再び。


なんと最悪な事か……ジョージ=ハリンソンとバッタリ出くわしたのだった。



ジョージも残業を終えて帰るところなのだろう。


レオンがその姿に気付き、彼自身の幼馴染であり弟のように可愛がっているというジョージに声を掛けた。


「ジョージじゃないか。お前も残業だったのか?監査とは本当に大変なんだな」


声を掛けられたジョージが振り返り、敬愛するレオンを見て破顔する……も、隣に居るわたしを見てその笑顔が引き攣った。


絶対に心の中で「ゲ」と思ったでしょ。


お互い様だわ!



「レオン兄さん。今日は夜番?」


ジョージはわたしの事は居ないものとして処理する事に決めたようだ。


レオンのみを視界に入れるようにして近付いて来た。


レオンがそれに答える。


「ああ今は休憩中だが。そういえば、リゼカはジョージと同期だったか?という事は二人、面識はあるのか?」


「……あるわ」「ないね」



このっ……!

ジョージの奴、わたしに散々絡んで来るくせに嘘を……!


今ここでレオンにチクってやろうか!



………でも、何と言って?



レオンとサーラさんの邪魔をする異物扱いされていると?


本当の事なのに、それに対して怒るの?


……わたしにそれが許される?




「リゼカだけが認識しているのか?」



レオンが訝しげにそう訊ねた時、


ふいに魔力の波動を肌で感じた。


授業で習った、これは……転移魔法の波動だ。



するとそう感じた通り、レオンとジョージの大切な人であるサーラさんが転移して来た。


そしてレオンの姿を認め、告げる。



「レオンったらこんな所にいた!緊急招集よ、王宮の北門で魔獣が出たって!」


「七班も出動か?」


「念のため臨戦体制で待機だって。早く戻って!」



大変だ。


わたしの護衛なんてやってる場合ではない。



「しかし……」


レオンが躊躇する。


わたしはレオンにハッキリと告げた。


「レオン、行って。わたしなら全然大丈夫。元々一人でも平気だったんだから」


「いやしかしこんな夜遅くに「レオンっ!急いで!」



レオンの言葉を遮ってサーラさんが移動を促す。


「ほら行って!仕事でしょう」


わたしが尚もそう言うと、


レオンは仕方ないといった感じでジョージに言った。



「ジョージ頼む、リゼカを寮まで送ってくれ」


「「え゛っ!?」」


珍しく気が合う声がわたし達の口から同時に出た。


「王宮内とはいえ夜道は危ない。俺の代わりにリゼカを送り届けて欲しいんだ」


レオンのその頼みにジョージは顔面を引き攣らせながらも、


「わ、わかった…」と承諾の返事をしそうになった時、わたしは思わず叫んでしまった。



「それだけは絶対に嫌っ!!」



わたしのその叫びにレオンもジョージもサーラさんも目を大きく見開く。


「リ、リゼカ……?」


それでもわたしは構わず告げた。



「そんな意地悪ショータイムみたいな帰り道になるなら痴漢と一緒に帰寮する方がよっぽどマシだわ!お願いだからそれだけは勘弁して!わたしならホントに一人で大丈夫だから心配しないでね!それじゃあっ!」



わたしは恥も外聞も投げ捨てて全力で寮に向けてダッシュした。


「リゼカっ!!」



後ろからレオンの声が追いかけて来るけどわたしは構わず走り続けた。


ジョージを押し付けられたらたまったもんじゃない!



そのわたしの背中を見つめながらレオンがサーラさんに言った。


「……サーラ、十分だけ時間をくれ。すぐに戻るから」



「へ?え?……レオン……?」



「……ジョージ」


「な、何?レオン兄さん」


「何故リゼカはあんなにお前の事を嫌がってるんだ?」


「そ、それは……」


「俺はとりあえずリゼカを追いかける。ジョージ、お前には後で話を聞かせてもらうからなっ……」


「レ、レオン兄さんっ!」



そう言ってレオンはわたしを追いかける為に走り出した……



というやりとりがあった事を、



寮に向けて全力ダッシュするわたしが知る由はなかった………。



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