彼の大切な人
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ーーあ、レオンだ。
王宮の西翼棟の窓から、同じ哨戒班の仲間といる彼の姿を見つけた。
騎士団からは三名の騎士と、
魔術師団から二名の魔術師とで構成される哨戒班。
王宮敷地外北側に広がる王家直轄の広大な森を見廻る為のチームだ。
聞いたところによると現在八つの哨戒班が編成されているという。
レオンは第七班。
レオンとその同期が一人と班長であるベテラン先輩騎士が一人。
そして魔術師が二人だ。
その魔術師の一人、
サーラ=ハリンソン(22)、その人こそがレオンが長年想い続ける人なのだ。
レオンとサーラさんは家が近所で母親同士が仲が良く、生まれて直ぐからの付き合いの所謂幼馴染。
小さな頃から共に育ち、共に魔術学園に通い(レオンは騎士科でサーラさんは魔術科)、共に王宮勤めになった。
当たり前に一緒に居て、当たり前に互いを大切にし合う、二人はそんな関係だったという。
ただ一つ、二人に違うところがあったのが、
レオンは幼い頃からずっとサーラさん一筋で、サーラさんはそうではなかったという事。
いや、サーラさんにとってもレオンが初恋の相手であったそうなのだが、成長してレオン以外の他の男性の事を好きになってしまったのだ。
何の因果か、学生時代に他ならぬレオン自身がサーラさんに紹介した彼の先輩。
その先輩にサーラさんは恋をし、二人は恋人同士になった。
レオンは……まぁ要するに振られてしまったわけだ。
でもだからといって長年大切に想い続けてきた恋心が消えて無くなる訳もなく……。
行き場をなくした恋心はずっとレオンの心の中で埋み火となって残っていた。
と、なぜ部外者のわたしがこんなに詳しいのかというと…それらを全てご親切に教えてくれた人がいるのだ。
サーラさんの実弟。
レオンも弟のように可愛がってきたというジョージ=ハリンソン(20)。
彼は偶然にもわたしと同期の文官で、経理局に籍を置いている。
このジョージ=ハリンソン。
子どもの頃からレオンの事を慕っていて、いずれ姉のサーラさんとレオンが結婚して義兄弟になれると信じて育ってきたらしい。
それが成長して蓋を開けてみれば、姉もレオンも違う相手と付き合っている……。
彼にとってはそれが本当に許せないらしく、それはそれは熱心にサーラさんとレオンの切っても切れない強い絆を、わたしに教えてくれたのだ。
「姉さんはアレなんだ、ちょっと今は血迷っているだけで、いずれ絶対レオン兄さんの元へと帰ってくる!その時にレオン兄さんに捨てられるのが嫌なら、とっとと今のうちに別れておいた方がお前のためだぞ!」
という親切な助言も添えて。
正直その話を聞かされた時はショックで貧血を起こしそうになった。
でもこのジョージ=ハリンソンの居丈高な態度ともの言いに無性に腹が立ち、意地でも傷付いた素振りなんか見せるものかと踏ん張った。
そして踏ん張ったついでに奴の足もローヒールパンプスの踵で思いっきり踏んづけてやった。
それ以来、ジョージ=ハリンソンはわたしの事を自分の足の甲の仇としても認識し、事ある毎に嫌味を言ってくるようになってしまったのだ……。(ウザっ)
そして先日、
ジョージ=ハリンソンは嬉々として姉のサーラさんが恋人と別れた事を告げてきた。
「これでもう邪魔者はお前だけ。お前はもはやレオン兄さんの恋人ではなく、足枷であり障害物でしかないんだぞ!」
という辛辣な言葉を添えて。
前にわたしに足を踏まれた事を警戒してか、
ジョージ=ハリンソンは今度は一段高い段差の上から言ってきた。
メンタルがプリンなわたしはやっぱりその場で気絶しそうになったが、今回もなんとか耐えた。
その拍子に手にしていたテイクアウト用のアイスコーヒーを溢して、彼のズボンにかかってしまったのは仕方ない事だと思う。
そしてわたしは更に、ジョージ=ハリンソンのズボンの仇にもなってしまったわけだけど……。(ほんとウザい)
そんな事を思い出しながら、ぼんやりと窓からレオンの姿を見つめていた。
レオンの哨戒班はみんな仲がいいらしい。
よく食事に行くとも聞いている。
レオンは……サーラさんと同じ哨戒班になれて、やっぱり嬉しいんだろうなぁ。
今も二人、他のメンバーも交えながらだけど楽しそうに会話をしている。
こうして俯瞰すると嫌になるほど分かり易い。
なるほど、二人の間には何やら他者には入り込めない絆のようなものを感じる。
長い時間を共に過ごした者同士の気安さ、空気感。
わたしとレオンにはないものだ。
悔しいけどジョージ=ハリンソンの言う通り。
わたしは今や、あの二人の間にある障害物……いや、異物でしかないのかもしれない。
しかもなんとも絵になる二人……
レオンとサーラさん、美男美女で二人並ぶとお芝居のワンシーンのようだ。
平々凡々のわたしが並んだ時とは大違い……
くすん。
それ以上見ていられなくて、わたしはそっと窓辺から離れて仕事へと戻った。
その瞬間、レオンが建物を見上げた気がしたけれど、
あくまでも気の所為だろう。