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エピローグ わたしの大切な居場所

別れ話だとばかり思っていた。


でも………


「リゼカ」


だって、


「リゼカ、俺の妻になって欲しい」


だって……


「リゼカ……?なぜ泣いてるんだ……?」


だって、


「だって、レオンが間違えてるから……」


ぐちゃぐちゃになった気持ちを堪えきれず、涙が溢れ出す。


涙でぼやけた視界の先の、レオンが手にする青い石のリングが滲んで揺れている。


レオンがゆっくりと立ち上がり、わたしの涙を優しく拭ってくれた。


「……どうして間違えていると思うんだ?」


「だって、わたしの瞳は緑だものっ……青い瞳じゃないものっ、だからそのリングは……わたしのじゃないっ……」


そう言ってわたしがぽろぽろと涙を流すと、そっとレオンに抱きしめられた。


「そうか……リゼカは知らなかったか。ごめん、王宮勤めだからてっきり知っているものとばかり思ってた。俺が浅慮だった、ごめんなリゼカ」


「っ…何を知らなかったというの……?」


「アデリオールの騎士は、自分の瞳の色の石を妻にしたい女性に贈るんだ。まぁなんだ、その…独占欲の丸出しだな」


わたしはレオンの腕の中でその言葉を聞き、

顔を上げて彼の瞳を見た。


サーラさんよりも更に深い、湖の底のようなブルー。


レオンが手にするリングの石も、深く濃いブルーだった。



わたしはそれを見ながら、止まらない嗚咽の合間に質問した。


「……っサーラさんは?本当はサーラさんと結婚したいんじゃないのっ……?」


「サーラ?なんで俺がアイツと?そんな発想、どこから……」


「だってジョージ=ハリンソンがっ……」


「ジョージっ!?………ッ、アイツっ!そういう事かっ……!」


レオンが舌打ちをして、忌々しげにそう言った。


「リゼカ、ジョージはお前に、俺とサーラが恋愛関係にあるような言い方をしたのか?」


「そういう言い方ではなかったけど、サーラさんが他の人と付き合っていたからレオンは泣く泣く諦めたと……でもサーラさんが恋人と別れたから、レオンはサーラさんとようやく結ばれる事が出来るって……わたしは二人の間の障害物だって……」


「アイツ!!」


わたしを抱きしめる腕に力がこもったのがわかった。

でもわたしを包む力は優しいままだ。


「でも……レオンもいつもサーラさんの事を目で追っているし、何か言いたそうに思い悩んでいるし、ジョージの言った事は本当なんだろうなって……」


「俺もかっ!!」


レオンが今にも自分を殴り飛ばしそうな勢いで頭だけ空を仰いだ。


そしてすぐにわたしに縋るように謝ってきた。


「ごめん…ごめんリゼカ、本当にごめん……でもそれには理由があるんだ。サーラの奇行を見張って欲しいとサーラの親父さんに頼まれたんだよ。あとは……ずっとリゼカにプロポーズするタイミングで悩んでたんだ……」


その言葉を聞き、わたしはがばりと顔を上げてレオンを再び仰ぎ見た。


「えぇ?」


「……サーラの事は、ガキの頃は確かに好きだった。でもそれもあくまでもガキの“好き”だったんだなと思う。リゼカへの想いとは比べものにならないという事がわかった。だから俺にとってサーラは幼馴染以外何者でもない」


「わたしへの想い?……レオン、わたしの事、好きなの……?」


わたしだけが想っているんじゃなく、

レオンもわたしの事を好きになってくれたの?


だから……だからプロポーズしてくれたのだと思ってもいい?



レオンはわたしと額と額をこつん、と合わせた。



「その気持ちになかなか気づけなくて、今までリゼカに想いを伝えられなくて悪かった……リゼカ、好きだよ。いつの間にか、俺の心はリゼカでいっぱいになっていた。愛してる。俺はリゼカを心から愛してるんだ」


「っレオンっ……!」


わたしの瞳から止め()なく涙が溢れ出す。


「リゼカ、頼む。俺と結婚すると言ってくれっ……ずっとずっと、俺のそばに居てくれると言ってくれ、俺のものになると、妻になると言ってくれっ……!」


こんな切羽詰まったような、余裕のないレオンの声を初めて聞いた。


「そんなにも……わたしを望んでくれるの?」


「望む。望むよリゼカ。俺にはもう、お前のいない人生なんて考えられない」


「……っ!」


今度はわたしからレオンを抱きしめた。

レオンの首に腕を回し、ぎゅっと彼を抱きしめる。


「リゼカっ……」


「レオン好き…大好きっ、わたしもレオンが大好きなのっ……だからなりたい。わたしでいいなら、レオンのお嫁さんになりたい!」


「リゼカじゃなきゃダメだ。優しくて可愛くて料理上手で、弱そうに見えてじつは逞しくて、しっかり者で心が綺麗なリゼカじゃないなら、誰も要らない。リゼカしか要らない」


「う~~~っ…レオンっ……!」



レオンが再び、わたしの前に跪く。


そして青い石のエンゲージリングを差し出し、熱の篭った眼差しをわたしに向ける。


「リゼカ。どうか俺と結婚してください。

俺と家族に、なってください」


わたしは少し震える指先でそのリングを受け取った。


「はい……はい。喜んで……お受けいたします」


夕日はいつの間にか完全に沈んでいて、

空には星が輝き始めていた。


わたしとレオンのシルエットが重なる。


わたしたちはそうして、しばらく丘の上で何度も想いを確かめ合った。




それからのレオンの行動は早かった。


自分の家族や親族へ結婚の報告、結婚に必要な諸々の手続きの手配、新居探しから必要な物品の購入など、文官となっても優秀なのではないかと思うほどの効率と手際の良さで、あれよあれよと入籍まで漕ぎ着けてしまった。



「リゼカさん、すっかり外堀を埋められちゃったね~。レオンってこういうタイプだったんだ~。それにしてもこの三種の玉子サンド美味し~!リゼカさんってばホント料理上手~♪」


サーラさんが王宮の中庭のベンチでそう言った。

手にはちゃっかり、わたしが作ったサンドイッチを持ちながら。



今、わたしとレオンはまたまた乱入してきたサーラさんとマイクさんも交えてのランチタイム中だ。


今日のランチボックスの中身は三種の玉子サンド。

茹で玉子をマッシュにしてマヨネーズで和えたサンドにオムレツサンド、そして炒り玉子サンドという三種類の玉子料理とハムをサンドしたイッチだ。



「ちょっ……ホントに旨いんだけど!リゼカちゃん、レオンとの結婚なんてやめて俺と結婚しない?…ってヤダっ、冗談だよ冗談!レオン、そんな目だけで人を射殺せそうな視線を向けるなよっ……」


「お前がくだらない事を言うからだ」


不機嫌さを隠しもしないレオンがマイクさんを睨み付けながら言った。

わたしはその二人の様子がおかしくて笑った。


「ふふ。結婚は丁重にお断りしますけど、わたしの作ったものでよければいつでも召し上がって下さい」


「あー…フラれたかぁ。フラれたと言えばサーラ、お前、とんでもねぇ人に一目惚れしたってホントかっ?」


マイクさんがそう言うと、サーラさんはパァッと表情を明るくして答えた。


「そうなの!もう運命の出会いをしちゃって!その人となら結婚してもいいって思っちゃった!」


サーラさんの言葉を受け、レオンが言う。


「ホントか?それを聞いたら親父さんが喜ぶな。親父さんにもハッキリ言ったが、俺はもうお前の面倒は見ないからな」


「べつに私は見て欲しいなんて思ってなかったわよぅ。それを父さんが勝手に……」


そうなのだ。

サーラさんのお父さんは恋人と別れたサーラさんを、レオンに貰って欲しいと思っていたようなのだ。


レオンにサーラさんの面倒を見てくれと頼み、そこからあわよくば二人が結婚に進展しないかと考えたらしい。


でもレオンがわたしと結婚すると知り、もの凄く残念そうな顔をしながら泣く泣く諦めたそうだ。


レオンのご両親は幼い頃からのサーラさんをよく知ってる分、レオンがサーラさんではなくわたしを選んだ事をとても喜んでくれたけど……。



「んで?生涯独身宣言をしたお前の志を簡単に覆させた相手は誰なんだ?その人はお前と結婚してくれそうな人なのか?」


「さあ?私、あんな人が近衛に居るなんて知らなかったのよね~」


「近衛?おまっ、それ貴族だろ?」


マイクさんが呆れ顔で言った。


「近衛って貴族しかなれないの?今まで興味なかったからなぁ。ふーん……じゃ~あの人も貴族なのかぁ……」


「だからその相手って誰だよ?」


「うふ♡近衛騎士のワイズ卿♡」


「「「……………」」」



サーラさんて……なんていうか……


「バカだ。ここに正真正銘のバカがいる」


「あの人は妻帯者だ。しかも愛妻家で有名で、下心を持って近付いてくる女には容赦しないという。諦めろ」


「えっ、結婚してるのっ?でもお貴族様なら愛人にしてくれるかも?」


「バカだ。とんでもねぇバカだ」


「魔術師資格を返上しろ。そしてヘレン=フルニエ女史に再教育して貰え」


「なによぅ!バカはジョージだけで充分でしょ!」


「アイツと同等のバカだよお前はっ!」


レオンが珍しく声を荒げて怒鳴った。


「あははーー……」


わたしはもう、空笑いをするしかなかった。



レオン曰く、

『わたしに自分の理想を押し付けて要らぬ事を吹き込んだ不届き者のジョージ』は、

長期出張先で散々な目に遭い、這々の体で帰って来た。


甘い顔で近寄って来た向こうで知り合った女性が実は美人局(つつもたせ)で、その女性と女性の旦那に殴る蹴るの暴行を受けた上、大金を奪われたそうだ。


向こうの騎士団が今、その美人局夫婦を捕縛するべく追っているが、もしかしたら既に他国へ渡っているかもしれないと言われたらしい。


肋骨数本と顎の骨を折る大怪我を負い、貯金を失い、泣きながら帰って来たジョージ。


長期出張なんて入れて逃げるからこんな目に遭うのよ。


レオンは流石に怪我人に制裁を加える事は出来ないと、帰ってすぐの報復は諦めたが、怪我が回復次第、ジョージにはわたしを苦しませた落とし前を()()()()付けて貰うと言っていた。


レオンから執行猶予付きの死刑宣告を受け、しかもわたしとの結婚も報告されたジョージはその場で膝から崩れ落ちて泣き喚いた……。


阿鼻叫喚とはこの事かと言うほどに。


ジョージ、ご愁傷様~。




そうして、満を持して行われたレオンの制裁からジョージの体が癒える頃、

わたしとレオンは親しい身内や友人を集めたささやかな結婚式を挙げ、無事に夫婦となれた。


わたしには親族は居ないけど、同期で友人のジェナとヘレン女史が古くからの友人達と共に式に参列してくれた。


みんな心から祝福してくれて、本当に嬉しくて幸せだった。



新居は王宮からほど近い場所にアパートを借りた。


結婚後も子どもが出来るまでは文官として仕事を続けたかったけど、結局はすぐに退職する事になってしまったけど。


だって、レオンとの赤ちゃんが出来たから。


レオンは騎士として相変わらず不規則で忙しい勤務体制で頑張っている。


結婚してそんな彼を支えられるのが本当に嬉しい。


美味しい食事を作り、家の中を清潔に整えて、夫の心身の健康を守る。


レオンがわたしの全てを守ってくれるように、わたしもレオンの全てを守りたいのだ。


レオンはいつもわたしを優しく包み込むように抱きしめてくれる。


一度は離れる事を覚悟したこの腕の中が、変わらずわたしの…わたしだけの居場所だ。



失わずにすんで良かった。


終わりにならなくて良かった。



終止符をうったのは恋心ではなく、


彼を失う事への不安な心だった。




「レオン。今日ね、産院に行ったら赤ちゃんの性別を教えて貰ったわ」


「え?わかるのか?男か女かどちらかが?」


「うん。わたしは教えて貰ったけど、レオンは知りたい?」


「………迷うな。楽しみにしたい気もするし」


「レオンは男の子と女の子、どっちがいい?」


「元気に生まれてくれるならどっちでもいいよ」


「そうよね」


「………やっぱり気になる!教えてくれ」



レオンが思い余った様子で言った。


「ふふ。じゃあ少し屈んで?」


レオンはわたしが耳打ちし易いように身を屈めた。


わたしはレオンの耳にそっと手を当て、


そして告げる。



「あのね、お腹の赤ちゃんは………」




わたし達に可愛い家族が増えるのはもうすぐだ。





             終わり






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




これにて完結です。


ジョージをフルボッコにする会の皆さん、この後ジョージをそちらに回しますので如何様にもお好きになさって下さい☆


あ、なんでも特別ゲストとしてジョージパパもそちらに向かうそうです(๑˃̵ᴗ˂̵)クックッ



さて、もともと10話程度の予定が結局は全14話となりましたこのお話に、最後までお付き合い頂きありがとうございました。


アルファポリスではHOTランキングで1位を頂けました。

(ある意味ジョージも立役者?)


本当にありがとうございました!




さて次回作です。


校閲と加筆作業が終わるまではド短編の投稿を続けたいと思っております。


タイトルは

『今日で婚約者の事を嫌いになります!ハイなり、まし、た!』です。


魔術学園に共に通う婚約者の浮気(?)現場(?)目撃から恋心を捨てた(?)暴れポンコツ系ヒロインのお話です。


五話くらいでしょうか?(また曖昧☆)

そのくらいド短編のお話です。


投稿は明日の夜から。


よろしくお願いします!



誤字脱字報告、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 先生、又胸をぎゅっぎゅっとやられました。 わかってる、君の勘違いだよと思いつつハラハラ。 すれ違いラブの私のど真ん中を撃ち抜く 素敵なお話でした。 書籍化でお忙しい中、webも連日連載… …
[一言] サーラの行動は傍迷惑だが、その家族も周囲の人間の気持ちを考えないタイプだよね。
[一言] どこでもフェリックスは人気ですねぇ。ハノンと天使達がいるから浮気しないでしょうね⭐
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