呪い泣かせ②
瞬が今回久しぶりにアホな発言かまします。
昨今の規制に関するボクなりの懸念とか、疑問も反映させたような内容になっています。
アタマを少し冷やしたくって、オレは屋根の上にいる。端から見たらのんきに月見の真っ最中に見えるかな。
雲もなく、星も月も、今日はハッキリよく見える。
こういうときは空を眺めて、見惚れる時間になるんだろうが、生きるか死ぬかの瀬戸際だから、そんなゆとりは諦めた。
敵は悪霊。さっきのことで多少は向こうも警戒してる。けどこっちの常識だとか、セオリーなんか通じない。
ましてや欲望がエンジンのケダモノだったら尚更だ。
(まあ、そういう意味では、オレも似たり寄ったりか)
そんな事を考えながら、オレは時間を待っていた。
下の部屋の携帯のアラーム機能が鳴るときを。
「プ――――――!!!!!!」
アラームが鳴りだした。
仮眠は終わりの合図だ。
鳴ったと言っても、携帯のバイブ機能が鳴っただけ。近隣住民の安眠を妨げるほどのものじゃない。
「もう時間か?」
オレは屋根から窓へと移って、一応の確認を。
某クモのヒーロー映画みたいな逆さ吊りのまま。
姐さんが「そうだ」と言った。
ちゃんと理解したオレは、逆さ吊りからクルっと回り、先輩の椅子へとめがけ、シュッと飛んで着地する。
当然着地で椅子を壊すアホがないよう慎重に。
「ほら」
姐さんがシューズバッグを渡してくれた。
シューズバッグは背中に背負える仕様のものになっていて、あるないではいざってときに動けないから重宝だ。
さっさとバッグにシューズを入れて、前に背負って、背もたれの上に両腕を置いて、
「……やりますか」
「その為に来たからな」
◆ ◇ ◆
「先輩に憑いてる呪いの処遇をそろそろ決めましょう」
休憩後、開口一番言ってきたのはそれだった。まだ意識はぼんやり気味で、気怠さもあったんだけど、自分の生死に関わる以上、無理やりにでも自分を起こす。
何よりどんな方法なのか、興味がないわけないからだ。
「先輩はホラー映画を相当見てると聞きました。ならいくつか祓う策をご存知なんじゃないですか?」
そう言われて、考えて、遠慮しがちに私は、
「私より見てる人は絶対いるから何ともだけど、例えば、悪魔祓いにおける祈りの言葉とか……」
“呪い泣かせ”と呼ばれる彼は、結構真面目に聴いている。
「神父が悪魔に挑むとき、何を拠り所にしているか? どっかの映画のパンフだったか、どこだったかぼんやりだけど……神様への信仰心、もっと簡単に言っちゃえば、神様への信頼感、愛情を糧にする……そういう感じだったかな? 正直自信はないけど」
言い訳みたいな感じで最後、返答した私に対し、彼の代わりに篝さんが、咎めずに返事する。
「大雑把ではあるが、まあそれでも良いだろう。信仰って言葉だけだとカルトじみてて引けるだろうが、実をいうと心得自体は、みんなもよく知るとこからだ」
「よく知るとこ?」
「《信じる気持ち》だ」
一瞬まだ寝ぼけているかと、本気で私は思った。
「背中にライフル背負ってる人が、そんな事を言いますか?」
思わず冷たい口調になって、そのまま指摘をしてしまう。
「ハハッ。確かにその通り。ぐうの音も出ないよ。だがな、結局はそこに帰結するんだよ」
大きく笑っていた顔が、次第に真剣さを帯びて、
「勿論信じたからと言って、救われるとは限らない。信じても命を落とすものは大勢存在した。だが悪魔や悪霊と、呪いに抗いたいのなら、結局信じていくしかない。相手は勿論、自分もな」
「自分?」
篝さんから意外な返答が返る。
「お前の場合は自分のことをもっと信じるべきだな。事情が事情ゆえだから、難しいかもしれないが……」
一旦そこで言葉を切って、篝さんは私に向けて、
「お前が内に秘めてるものを、バカ瞬に打ち明けろ。それも他人に聞かれたくない、認めたくない内容を……」
数秒か数分か、私は固まっていたらしい。
生き残りたいのなら、自分をさらけ出せっていう、この大人の女性に対して、固まっていたらしい。
「え? 何ですか、今なんて言ったんで……」
「言ったとおりだ。オマエの中にあるものをコイツにさらけ出すんだ。死にたいなら話は終わり。今すぐここから出ていくさ」
文字通り、有無を言わさぬ、物言いの篝さん。
私は瞬時に頭の中で色々想像してしまう。
(内に秘めてるもの? え、何? どゆこと? 悪いこと? かくしごと? え、どれ? どれのこと!?)
完全に頭の中がパニック一色だった私に“呪い泣かせ”の彼がちょっと気遣ってか、付け加え、
「悪霊とか悪しきモンは、標的が背徳感に感じるところを狙うんです。そこはスッゴイプロテクトが強固なようで一番脆い。だって人はバレないように日々を過ごしてますからね。特に昨今、上っ面は真人間ぶってるヤツが、実はセクハラしまくっているサイテー野郎だったとか、身の程知らずのプロテクトに足元を掬われる……プロテクトが昔よりもアキレス腱なんですよ」
一旦切って、メモに何か、ツラツラ書いている彼は、
「取り敢えず。オレが試しに先輩に言いますと、」
急に準備運動みたいなモーションをし始める。
何だ? 大それたことことでも言う気か? と思い、モーションの完了まで、ジッと私は待ってると、
「俺、アンタのおっぱい眺めて、スッゲー元気をもらってました」
唐突なセクハラ発言を、ぶちかましてきたのだった―――。
元々人って不徳なものとか、背徳感のあるものに惹かれる生き物だと思って、だからこそ表現の価値は高いと思ってます。なので此度は真面目にバカ(とエロ)を大事にしたってところですw