初対面
瞬と雪湖と篝さんの三人一組体制です。
少しずつ本編の秘密に迫っていきます。
「う、う……ん」
どれくらい眠っていたのか、あんまり覚えていなかった。
いや……言葉を言い直す。どれだけ気絶をしていたか……。
確か、最後に覚えているのは、鼻血を出してる男の子、いっぱい集まってきた《腕》。腕たちに捕まって……
≪痺れ≫が戻りそうだった。
忌むべき痺れが再び身体へ伝達しようと試みる。私は唇の裏側を噛みきろうと考える。痛みで恐怖が忘れられれば、呪いの力も遠ざかる。忘れようとした7……。
「あー、ちょっと、ムリしないで。抑え込もうとしないで」
どこかで聞いた声が突然、私に向かって訴える。
瞳はまだ開けていない。起きたかどうかも知らないはずが、相手は何故か、確信を持って、私に接してる。
「サーモグラフィーなんか無くとも、オレにはよーく見えんのよ……どういう原理でこうなってるか、全く分かってねえけどよ」
不本意だって言いたげな、口振りがよく通る。
というか、この声、確かどこかで聞いたような。
この声は……そうだ。これはさっきの……
「あの時の!」
得心がいった私は、思わず身体を激しく起こし、
『いてっ!!』
相手の頭と、衝突をしてしまう。
自分の身体を起こすことしか、私の意識がなかったせいで、頭頂部が頭頂部と接触事故を起こしてしまう。
「イッタぁ……」
「イッテぇ……」
お互いに痛がった。
頭がパックリ割れたんじゃ?って思うぐらいに痛くって、頭長部の中心地に異変が無いか調べた。
幸い大したケガもなく、大きなコブが出来たぐらい。
試しにコブに触ってみると、ちょっと触れただけで痛い。
でもお陰でボンヤリしていた意識の方はバッチリだ。
バッチリ覚めて、頭の方が状況把握に回り出す。
なのにあんな衝突事故があっても瞼を開けられない。こんなスッゴい痛みがあるのに、開けられないってどうして……。
「何で瞼が開かないか、知りたいって顔ですね」
さっきとは打って変わって、少年は冷静だ。
(え? ちょっと待って? 私の部屋に、知らない誰かが、二人も今はいるってこと!?)
仰天のうち真っ当な仰天ごとを拾い上げ、頭のズキズキ緩和の代わりに、別問題で埋まってく。
「おい、瞼に憑りついている、恐怖を取ってやったらどうだ?」
「最後のコイツがしつこいんです。も少し待ってくださいよ」
(……ん?)
意味が全然分からぬままに、勝手に話が進んでる。
いや、ホント、分からない。
《恐怖を取る》って、どゆこと?
「……終わりました。オレのところに移ってます」
「ゆっくりと、開けてみろ。さっきよりかは良いはずだ」
もしかして、開けてみろって、私の瞼を言っている?
そういやさっき、瞼に憑りつく何とかかんとか言っていた。
いやいや、それ以前にあなた達はどちら様!?
私今、強いて言うなら、そっちの方が気になるけれど……。
「無理っすよ。年下にあんな感じに助けられて、メンツも角も立たない今、恥の上塗りでしょ次は」
「……は?」
いくら助けてくれたからって、見ず知らずの年下相手に何でそこまで貶される?
しかも何? この男子、すっごいエラそうなんだけど……。
「……何様のつもりよアンタ! 一体どこの誰なの!?」
「言ったとおりだな。自分でちゃんとできるって」
「え?」
よく見ると、私の瞼は、ちゃんと上まで上がってた。
見慣れた自分の部屋模様が、瞬時に視界を埋め尽くす。
いや、一つ訂正する。
汚部屋が綺麗になっていた。
あの時私を助けてくれた男の子もボンヤリ見える。
そこでようやく気が付いた。
≪一杯≫食わされたのだと。
「お前がただのエロガキじゃなくって安心したよ」
艶めかしい女性の声に促されて彼を見る。くせッ毛がちょいちょい目立つ、三つ編みの黒髪と、メンズタイプでバーガンディのフーデッドライトパーカー……見られて恥ずかしくなったのか、深くフードを被りだす。気のせいかもしれないけれど、頬が染まったようにも見えた。口元は笑顔の種類で言うなら、素直な喜びだ。あの口調に反して実は、純朴な子なのかも。
艶めかしい声の主は私のベッドで座ってる。黒のライダースーツ、艶のある黒い髪とポニーテールが目に入り、デカダンさ、アンビバレントさを感じさせる雰囲気だ。で、背後に細くて長い、サバゲ―とかに出そうなケースを、私のベッドの上にドーンと悪びれもせず置いている。
(クールそうな見た目だけど、飲みの席だと酒豪っぽい……)
勝手な憶測を考えて、その女性を見ていると、挑発的な微笑みを私に対して向けてくる。その眼差し一つだけで、コロッと行っちゃいそうだった。
慌てて私は赤面したかもしれない頬をパンパン叩き、目の前の光景に対する疑問に向き合った。
けれど、その前に、
「さっきはありがと。私のことを助けてくれて」
目の前の男の子に私は感謝を伝える。
体を45度倒し、綺麗なお辞儀を見せながら、私は今思いつく限りの感謝を言っていく。
「こうして生きてられて、また誰かと話が出来る……けれど、その後のカミングアウトは余計だね」
感謝に照れたと思っていたら、手痛い指摘に「ウッ」となって、やっぱりさっきの口調は背伸びで、ホントは素直な子なのも。
「確かにアレは無かったな。いくら事情があるからって、流石に赤裸々すぎたぞ。まあ、お前は吐き出さなくっちゃ、もれなく拗らせるからな」
横からの追加射撃でさらに「ウッ」となった彼。
どうやら女性は味方であるけど、すべての味方じゃないらしい。
「えっと……ところで、あなたたちは誰ですか? さっきの行動を見る限り、敵では無いって思うけど……」
当然の不信感を素直に私は打ち明けて、相手が次に返す言葉をドキドキしながら待っている。
最初に口火を切ったのは、
「私は夢渓篝。夢渓の字は中国の「夢渓筆談」からだ」
「夢渓筆談?」
「平たく言うなら中国の、歴史や考古学とかを研究して、その成果をまとめた本……コトバンコにそうあった」
さらっとネットから情報を仕入れたという夢渓さん。
今の動きでクールビューティー要素が瓦解したような……
「篝の意味は、照明のために燃やす火とあった。これも……」
「コトバンコ?」
「そう、そこに乗っていた」
まったく隠す素振りも無しに、白状した夢渓さん。
やっぱり絶対、お酒の席では酒豪に変貌タイプだ……。
「相良瞬。中学2年」
何故か少し言いにくそうに、
「オレは“呪い泣かせ”って、能力の持ち主だ」
これが私と、呪い泣かせの瞬との最初の会話だった―――。
主人公たる瞬くんの特徴に関しては「レッドフード」(川口勇貴著)の主人公・ベロー君がイメージです(主に三つ編みなどといった外見を参考に)。篝さんに関しては「ようこそ実力至上主義の教室へ」に登場の茶柱佐枝ってキャラクターを参考にしています。