スーパーノヴァ(超新星)
ようやく呪い泣かせこと、相良瞬が活躍です!
しっかしまあ、主役出るまで流石に長すぎます(スイマセン)……
「ジゴーテ」って糊塗が呼んでた、無数の腕の集合体が、一点に集まっていき、巨大アメーバのようになる。男の子は臆することなく、笑顔で睨みを効かせてる。弱った私をお姫様抱っこで支えながら……。
お姫様抱っこについては正直スッゴく恥ずかしいし、出来れば今すぐ下ろしてほしいと言いたい自分が内にいる。けれど口にすることは、最後まで出来なかった。
(……痺れ……さっきより……怖いの……薄まっ……)
身体中を走った痺れ、認めたくない激しい痺れが、噓みたいにさっきの時より、規模が小さくなっていた。まだ痺れは残っているし、怖さも身体は覚えているけど、そぞろになりかけだった頃より、だいぶ気持ちが落ち着いた。これだったら乱れた呼吸も整えられるかもしれないし、しばらくしたら元の自分に戻れる予感さえあった。
けどそれより気になることが目の前に存在してる。
見ず知らずの男の子が自分の身体を支えているのに、まるで嫌悪を感じなかった。それが一番分からない。
いくらなんでも不可抗力だってことは分かってる。けれど理屈じゃどうにもならない事情を抱えてしまっているのに、自分の意志とは別の意志が、嫌悪を沈黙させていた。「何で?」ってそこに対する疑問を調べる暇もなく、男の子は壁際まで私をしっかり運んでくれた。それどころか負担がないよう、ゆっくり下ろしてさえくれた。
(……ハァ、ハァ……呼吸に……集中……)
まだ恐怖は残っているけど、整えていければ……。
「ヤベ、いつの間にか、右の鼻から血ぃ出てら」
男の子は思い出したように一言呟いた。
そういえば男の子は鼻血を出していたんだった。
ジゴーテから飛び出した際にケガでも負ったとか?
男の子は気まずそうに、私の視線に気が付いて、
「あー、言いにくいけど、オレの鼻血の件はな……」
右の鼻にティッシュを詰め、男の子は……頭を下げた。
「助けた拍子に胸が当たって、興奮して出ちまった!」
え?
……え?
……今、何て……?
「その件での謝罪や釈明、時間は絶対必ず作る! だから今は少しの間で良いから、休んでいてほしい!」
色んな事が起こりすぎて、疲れがピークに達したのか、だんだん意識がぼんやりしてきて、声にも力が抜けてきた。男の子が必死に私に謝ってるの、だけは分かった。
「……え……その……」
もう何も考えられず、私は眠りに委ねてく。
死ぬかもしれない状況なのに、それしか考えられなかった―――。
◆ ◇ ◆
「落とし前は絶対つける。絶対の絶対に」
一時的に気絶したのをしっかりと見届けて、オレは目の前でウニョウニョと蠢く怪奇と向き合った。
突然現れ、邪魔をされて、おまけに睨み付けてきた……結構お怒り気味なのか、怪奇はウニョウニョ動いてた。そしてシャドーボクシングらしき動きもしていた。
オレにヤツらのパンチを浴びせて、勝利に浸りたいんだろう。
ずいぶんと負けることを毛嫌いしているご様子だ。
「下種な欲望に忠実ってだけでもクソの塊なのに、負けを認めない態度。つくづくテメエは反吐が出る」
オレは腕のバケモノと、さっきまで女子が立ってた場所に対して指を指す。
ちなみに指してる指の方は、左手・人差し指だ。
「セクハラ怪奇と陰湿魔女っ子もどきにハッキリ言っとくぞ。オレは……隠れ巨乳のメガネ女子の味方だ!」
相手の反応待ったなしで、オレはそのまま畳み掛ける。
「そして、自他共に、認めるおバカなエロガキだ! だがな、そんなおバカを捕まえることは出来ねえぜ!」
深く深く息を吸って、吐けるとこまで吐き出すと、
「オマエらに出来ないことを、オレは出来ているからだ!」
傍から見てもバカ丸出し、ただの拗れに拗れ過ぎた、変態野郎の宣言……それは8割当たってる。
けれどオレはそんなオレを、自分の一部と認めてる。
(だからこそ……こうしてオレは、ここに立っていられる!)
迫りくる腕の怪奇、確か「ジゴーテ」と言ってたな……とにかくオレにジゴーテが、無数の腕で襲いかかる。無数の腕が集まってって、デカい塊になっている。それをこっちへ振り下ろして、潰そうとしてるらしい。
その姿が“よく見える”。
オレの目にはゆっくり見える。
腕たちは中核を担う腕に集まって、どんどんどんどん連なってって、ついにデッカい塊に。遠目で見ると、巨人のデッカい拳のように見えてくる。
(何か読んでる海賊マンガの能力思い出したなぁ……)
そんな事を考えるオレのことなど気にもせず、ジゴーテは拳と化した塊を振り下ろす。
塊はオレの身体を、潰し……損なっていた。
オレは既にジゴーテの背後に立っていたからだ。
「アレ? このオレを、潰すんじゃなかった?」
ジゴーテに余裕を示し、挑発すらかましたオレは、今も隠れて潜み続ける輩の居場所を目で探す。隠れるのがお得意なのか、闇の中では見分けがつかず、「直接探すだけムダか」って考えに切り替えて、
『おい、聞こえるか?』
声が急に割り込んだ。
そういえば頭につけてたインカムを忘れてた。
「ああ、ちゃんと聞こえてる。インカムのこと、忘れてた」
『そんな事だと思った。もうすぐ“虫食い”が閉まる。その子を連れて、離脱しろ』
いつ聞いても理想としている大人を感じる声だった。
一切の動揺も、迷いもまったく声にはないし、何より一言聞けただけでなんだか頭がスッとする。催眠術でも覚えた時には、きっと敵は無いだろう。
「勿論分かってる。得意分野の見せどころ!」
高ぶる気持ちをそのままにして、ジゴーテのみに意識を向ける。
オレの動きを警戒してか、適度な距離を取っている。
どうやら単なる欲望任せの怪奇なわけじゃあないらしい。
(わりぃがテメエのどてっぱらに、も一度飛ばせてもらうぜ!)
一歩地面を踏んだ瞬間、オレはヤツの背後だった。
数秒遅れて気付いたことで、向こうは恐怖でいっぱいだ。
『お膳立ては整った。乗り遅れるは、ナシだぞ』
「大丈夫。向こうの恐怖で、マップはバッチリ完成だ」
壁にもたれて気絶していたメガネっ娘の先輩さんを、もう一回抱っこすると、真正面からヤツを見る。
完全に動揺してて、左右上下を用心してる。
一口に怪奇と言っても、やっぱ色々いるんだな。
オレは自分と相手の距離を大まかに目視して、
「位置について。よ―――い……ドン!」
即興のクラウチングスタートからの、猛ダッシュ。
右左、上下も行かず、目指すは一つ。
(一点突破!!!)
ヤツは面食らったように、慌ててこっちへ攻めてくる。
どこにも逃げ場を出さないように、四方八方攻めてくる。
だがオレは迫る腕を、次々とかわしていって、
「ご生憎様、オレの目指すは、」
ジャンプして、
「真ん中だ!!!」
先輩が落ちないようにしっかりと支えながら、さっきオレが馳せ参じた“穴”までそのまま突っ切っていく。当然だ。穴は今、ヤツのどてっぱらにある。
「わりぃな。開けたドアはちゃんと閉めるタチでね」
捨て台詞をハッキリ吐いて、どてっぱらにオレは入り、そのまま廊下に下りることなく、この場所から消えてった。
多分今残っているのは、魔女もどきとヤツのみで、今頃あそこはとんでもない“事態”が起こっているはずだ。
暗闇をくぐり抜けて、オレは闇から脱出すると、見ず知らずのどこかの部屋のベッドに土足で着地する。
その部屋はどこかと言うと、
先輩の部屋だった。
後でこれも謝らないと、と痛感しながら安堵した―――。
7部と8部の元ネタは「呪術廻戦」「エイリアン」を参考にしてますし、7部で襲われてる雪湖は「革命機ヴァルヴレイヴ」のノベライズⅡからです(文体も確認しながら参考にしてました)。正直最初はレイティングに収まってるかが心配でしたが、今のところご指摘等はないようなので安心です。
ちなみに前回もそうですが、今回でも気を付けたのは、描写が単なる好色的なシーンになるのを防ぐこと、リトマス試験紙的な意味をそこに持たせることでした。
それこそがこの話の最大の焦点で、主人公たちを蝕んでる事柄へとつながります。
ところで此度のサブタイが「スーパーノヴァ」の訳ですが、二重の意味を含めているとだけしか今は言えません。
では来週24時もどうかお願いいたします!