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呪い泣かせ  作者: 平田 一
2/11

もう一人の主人公兼ヒロインが登場します。


いくつか実際の出来事を盛り込んだりしています。

「だーかーらー、そういう危険なことに首を突っ込むな!」


 いい加減に諦めろって言わんばかりの怒鳴り声に、思わず身体がビクッとなって、俯きそうになってしまう。周りにいる先生や生徒もみんな驚いて、私と先生のやり取りを戦々恐々と見ている。

 大ボリュームで怒鳴ったことに対する後悔と反省か、さっきより声のトーンを下げて、先生は言った。


「……俺より利口なんだ。だから、訳が分かるだろ? 考え無しに関わることがどれだけ危ないことかを……」


 お昼の12時といったら、お昼ごはんや昼休みと、羽休めの時だった。手作り弁当を持ってきて、動画を見ながら、食事を楽しむ……2時の方向の先生はそれが憩いの時だった。別の人は勇気を出して相談してきた生徒に対し、食事をしながら、耳を傾け、二つの時間を行き来する……様々な時間が交わり、広がっているはずだった。


 けれど今は私と先生のやり取りに釘付けだ。

 先生が怒鳴ったことで、それは拍車をかけている。


 誤解のないように言うけれど、先生は真剣に、心配してるんだと思う。

 一部の生徒に“パワハラ教師一歩手前”と揶揄されて、かくいう私もそういう噂を鵜呑みにしていた人間だ。

 まあ、そういう印象を持たれてしまうのも分かる。

 髪の毛は剃っていて、ガタイもスッゴく大きくて、目付きはまるでヤクザみたいに鋭利で、声にもドスがある。受ける職場を間違えちゃって、そのまま根付いたようだった。


 けど強者に媚びへつらって、弱者に対して態度が大きく、怒鳴るだけな人間と、先生は別物だ。

 先生は怒るときには手加減無しで怒ってくる。でも、ちゃんと相手に対して(この場合は私だけど)、ちゃんと説明してくれる。相手にしっかりと考える余地を残したいからだ。


 だから信頼が出来る。

 職員室に踏み込んだのも、相談をするためだ。

 私がいる“研究会”の顧問だから尚更に。


「この学校の生徒たち、それも女子を集中的に狙った連続暴行事件。既に3人被害を受けてるその事件に関することがあるから報告したいだと? 見た目は子供、中身は大人な名探偵でもなった気か?」


 なるべく周囲に聞こえないようか細い声で話しながら、先生は国民的探偵アニメを例に出す。

 先生がそのアニメを好いているかは知らないけれど、先生なりに分かりやすい例えと思って言ったはず。

 私はあんまり拾わないよう、気を付けながら返事する。


「探偵になりたいなんて思ったことはありません。でも……私に関係あるから、調べなきゃって思って……」


 私は携帯を取り出して、メール画面を開いた。添付ファイル付きメールが、計3件届いてる。


「事件が報道される前に、私に届いたファイルです。1件目の添付ファイルは、ドアに書かれた赤い印。2件目の添付ファイルは赤が一切無い部屋です」


 携帯に送られてきたファイルについて説明する。

 周りに私も聞こえないよう、先生だけには聞こえる声で。

 最初のメールの添付ファイルは、白い家と扉の写真。家の方は一軒家で、サイズも大きくないけど、かといって小さくない、ちょうどいい物件だ。

 その扉に不気味で大きな赤い印が塗られてる。上から筆を振り下ろしたような印は例えると、左部分が欠落しているチェックマークのようだった。ペンキ塗りで使うものよりもっと大きな道具がないと、これほどまで大きい印は書けないのではと考える。

 次のメールの添付ファイルは誰かの自室の写真が数枚。見たところ同学年の女子の部屋だと思われる。ところがそこには赤いものが一ミリも見当たらない。どんなに意識をしてたとしても、必ず一つは見落とすはずの、赤いものが一つもない。どこか異様な光景だ。


「3件目の添付ファイルは黄色いものに異様なぐらいにすがっている被害者です。ほら、これ。黄色い雨具をここまで深く被ってます」


 先生は写真で確かめ、目線で確認したと言う。

 ニュースに出ていた被害者……三人目の被害者が頭をスッポリ隠せるほどの、黄色い雨具を部屋の隅で激しく怯えて被ってる。血走った瞳は勿論、雨具を握る手の反応。写真だけでも彼女の気持ちが移ってきそうな雰囲気だ。


「この三つは、匿名の誰かが送って来たものです。私は疑惑をかけられるのが怖くて黙っていました。けれどもう黙っているのが、逆に怖くて、つらくって、耐えきれなくなって結果、こうして伝えに来ました。まあ、我が身可愛さで、ようやく動けただけですが……」


 自嘲する私に対し、先生は見続ける。

 私がウソをついているか、本心を言ってるか……どっちなのかは分からないけど、とにかく私を目視する。


「……一応聞くが、オマエが犯人じゃないんだな?」

「ハイ。私じゃありません。必要なら説明します」


 言いながら私の心は既に重くなっている。

 被害者に共通するのはこの写真だけじゃなく、暴行を受けた跡がかなり多いことだった。

 殴る蹴るじゃなくてもっと、精神的な暴行で、それも絶対に取り返しのつかない許されない行為。

 具体的な名称は言えばいいのか分からない。

 これが今、私が出せる精いっぱいのことだから。

 被害者家族のことを思うと、力になりたいとは思う。助けられる力があるなら、出来る範囲で助けたい。けど当然、助けるなんて、私に出来るわけがない。責められる怖さは勿論(それが大半なんだけど……)、私はあくまでホラー映画を観るのが好きなだけだから。

 ホラー映画に精通してて、イケメンの映画よりも、血飛沫だとか、純粋に怖い映画に浸れる時間。そんな時間が大好きで、私の憩いなだけだった。一時はそれでクラスの中で浮いたことがあったけど……。


「説明はしなくていい。オレはお前が犯人だって、今のところは思ってない。ところで、その三つに触れて、何を考えた?」


 意志の強い視線を向けて、先生は訊いてくる。

 これはどうにも取り繕った言葉じゃダメだと理解して、


「まあ……大人の力を頼りにしたいところです。とにかく何か、理由をつけて、みんなの家族を保護するだとか、仏教でもキリスト教でもいいから祈ってほしいとか……。 その“何か”は家族の方にも毒牙を向ける気まんまんです。このままだと「警官の手記」みたいになりますよ」


 惜しまずカードを出し切る覚悟で、私は先生に訴える。体験したことではないけど、今言ったのはホントの話。


「ある事件の捜査をしていた平凡な警察官が、事件の捜査を進める過程で、ある“悪”と出会った……常識を遥かに超えた“恐怖”に襲われたと言って、一定期間警察官は異常者扱いされた」


先生はその手記の内容を語りだす。


「警察官の家族の方も恐怖に襲われた、だったな? そこでも出たのが、常識を遥かに超えた恐怖だと。手記の著者たる警察官は、自分の主張を周囲の人が信じるも、信じないも自由でいいと言った後も、ずっと務め(ワーク)に励んでる……これだけだとオカルトって言葉で片付けられるぞ」


 負けじと私は知りうる限りの思いついた知識を使う。


「けど、教会はここ数年、悪魔祓い師の育成に力を注いでますよね? ニュースでやっていましたよ。あらゆる宗派の教会が、教会ごとの有能な悪魔祓い師の育成に、尽力し発掘すると大々的に報道で。悪霊が人を弱らせ、憑依に至る三段階も、色んなメディアで取り上げられてて、徐々に浸透し出してます。ホントに悪魔や悪霊が存在するのか知りませんけど、是非を巡る議論はもう色んな所で出ています。今なら説得の材料になってもいいんじゃないですか?」


 言いながら後押しにはならないことを察したけれど、手遅れにならない率が上がってほしいと力説する。例えムダな努力だろうと、後悔したくないからだ。

 でもいくら力説しても、先生は首を振って、


「名古木、残念だがこれでは大人は動けない。今はひとまず静観して、出来ることからやってみろ」


 手の皮が抉れるぐらいに拳をギュッと握りしめ、これ以上はムリだと悟り、私はドアへと歩き出す。あ、名乗っていなかったけど、私の名前は名古木雪湖(ながぬき せっこ)。ホラー研究会部員の、磯辺高校2年生。


 去り際にしっかりと頭を下げるのを忘れずに、職員室を後にして、私は廊下へ消えていくーーー。

雪湖が言ってた“警官の手記”に関する元ネタは、『NY心霊捜査官』って映画が元ネタです。


今回から後書きでは元ネタ話をしていきます。時間の余裕があった際には細かい話もしたいんですが、今日はちょっと時間がないので、こんな感じで終わります。

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