表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪い泣かせ  作者: 平田 一
10/11

呪い泣かせ③

ひとまずこれで前半のお話は終わりです。


今後については後書きで詳しく書いています。

 「バンッ!」と大きな音と同時に、私は平手打ちをしてた。

 理性がどうこうする以前の、衝動的なものだった。

 叩かれた方はというと、突然でも受け身は取れて、そのまま横転した後に、頬を優しくさすってた。

 同情は必要ないし、罪悪感も感じてない。

 どこぞのアカデミー賞みたいな批判も私は受け付けない。


(いや、流石に受け付けるぐらいはしておくべきかな?)


 そんな事を考えながら、叩かれた相手を見ると、彼は頬をさすりながら、親指を上げていた。

 親指で“イイね”って何故か作っていたけれど。


「イッテぇ……だけど、返事メチャクチャ感謝です」


 え? こんな事を感謝されるって一体……。


「ちゃんと説明させてもらうと、《素直になれ》ってことっすよ」


 赤くなってる頬をさすって、バカ相良はそう言った。

 あ、今から呼び方は《バカ相良》に代わります。


「今みたいに先輩は、本心をさらけ出した。本心を露わにするのが、一番の武器ですよ」


 得意げにそんな事をバカ相良は言うけれど、それ以前に承服できないことを分かっているのかな?


「……いや……だとしてよ? 君が言ったセクハラ発言容認する気はないからね?」


 すると彼は首を振り、毅然にこう言ってきた。


「容認しなくていいっすよ。オレはあくまで本心を、言っただけにすぎません。そここそが先輩に伝えたいことなんで……」


 まったく理解出来ない私に、バカ相良は続けて言った。


「悪霊は人の急所を突くのが、メチャメチャ巧いです」


 神妙な面持ち(おももち)で訳を説明し始める。


「例えばオレが今みたいなことを噤んだとします。で、オレが悪霊の標的になったとします。弱点を見つけるのがお得意なアイツらは、時間をかけてその弱点に揺さぶりをかけてきます。先輩もご存知の《三段階》を利用して」


 悪霊が人間に憑りつくまでの三段階。


「『出現』『攻撃』『憑依』の三つだね」

「正解。どんなに自分がガードをしても、悪霊はお構いなしにガードの隙間を突き止める。そうなったら肉体に憑りつくなんか訳ないです。先輩はその隙間をまさに狙われてんですよ」

「だからって本心を言えば憑依を防げるの? そんなことに自分の命をかけるだなんて馬鹿げてる」


 私の反論にバカ相良は、まるで承知の上のように、


「もっともな意見です。確かに本心一個吐けば、憑かれる心配ないですって……そんなこと、インチキ祈祷師もどきだって言いません。オレがここで言いたいのは、『背負えるか否か』です」

「え?」


 気のせいか声色が、少し変わってきたような……。


「秘密すべてがみんなの前で発表できる代物だとか、笑い話で済ませられるものばっかりだとお思いで? 絶対に口には出せない、墓場まで持っていきたい内容を抱えているのが大半だと思います。先輩が助かるには、この事態を招いてしまった事柄を吐き出してって、その事と向き合って、それを背負ってもらいます」

「……向き合う? 背負う?」

「そうっす。一対一で糊塗とぶつかってくために」


 またしても言ってることの意味が理解できなかった。

 何て言った? 糊塗とぶつかる? 一対一で私が?


「……どういうことなの? アンタが助けるんじゃないの?」


 咄嗟に怖くなってしまい、思わず口調が荒くなる。

 しかし彼は動揺も申し訳ない素振りも見せず、


「先輩。解決できるのは、当事者しか出来ません。第三者が出来るのは、あくまでお膳立てですよ」


 意味が分からない。

 空間を移動できる宇宙規模の力があって、なのにそれを解決のお膳立てにだけ使う?

 まったく意味が分からないし、何より納得できなかった。


「だってそりゃあそうでしょ。関係ない第三者が他人の問題介入して、力尽くで解決するのが、解決したって言えますか?」

「でも相手は悪霊で、呪いなんだよ!? そうでしょ!?」

「誘導する役目だったら、喜んで受けますよ。ヤツらがヨダレを垂らすぐらいの“貯蓄”がオレにはあるんでね」


 完全に私が解決する前提で話してる。

 そんなの出来るわけがない。

 相手は呪いで悪霊だ。

 ド素人にこんな事態を解決できるわけがない。

 私の気持ちを察してないのか、バカ相良は真っ直ぐに、


「信じてるんですよ。先輩ならアイツの声をちゃんと聴いてやれるって」


 曇りのない眼を向けてバカ相良はそう言った。

 私になら出来るという、確信の眼差しだ。


「ちょっと待ってよ。そんなこと、簡単に……」

「じゃないっすよ」


 バカ相良は言った。

 けどどこか、さっきと違って、痛ましさが宿ってた。

 急に彼は気まずそうな顔つきを見せ始め、何回も深呼吸を怖いぐらいに繰り返し、


「……簡単にこんな事、言えるわけがないですよ」


 よく見ると、彼は手を強く握りしめていた。

 それも爪が皮膚に食い込みかねないほどに握りしめ、


「先輩、ここに来たのが偶然だと思います? そんなわけありません。物事には訳がある」


 次第に握り続けていた両手から力を抜いて、


「オレはアンタの恐怖によって救われた人間です。あの日先輩が()()()()()時間と場所にオレはいた」


 その時私の背後から小さな渦が現れて、


「先輩。今からアナタはそこに連れて行かれます。そこで《死ぬ》か《生きる》かをアナタの意志で選んでください」


 渦から出てきた無数の闇に、私たちは呑まれていった―――。

ここまで読んでくださってありがとうございました。


この回を執筆中、雪湖という人間を掴めた瞬間があって、弱さも醜さもひっくるめて、彼女を知れた気がします。


さて、先ほど申したように、今後についてのお知らせですが、


13部は来年3月8日からになります。


理由はまだ後半がまとまっていないこと、今週から新しい仕事に就くのが決まっているために、当面はそっちに比重を置かなければなりません。まあ9割後半がまとまってないからですが、ラストはもう決まっているので、そこまでゴールは目指します。


5年勤めた職場を離れて、新たな仕事に挑むので、正直今は緊張と準備でいっぱいいっぱいです。落ち付いたら残りの話もしっかりまとめていきますので、それまではしばしの間、お別れになります。


活動報告はちょくちょくと更新していく予定なので、そこで色々な進捗もお伝えできれば幸いです。


長くなってしまいました。

それでは一旦休みます。


また再開できるときには宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ