黄色スライムくん(Smiling Face Emoji)
僕は進路について悩みながら、しかし具体的には行動をあまりせず大学四年生になった。桜って綺麗だよね。ピンク色でさ。欧米人の気の強い女性が好むフクシアやホットピンクとは違う桜色。僕は桜色が大好きだ。フクシアも一応草木の名前なんだから、フクシアピンクを好む女性も草食系に優しくすればいいのに。
僕はそんなことを考えながら、ふとある事を思いついた。
大学院に進学するにせよ、しないにせよ、学生時代の思い出、20代前半にしかできないことをしておくべきかもしれない。僕は何を思ったのか、「絵師フォロー専用アカウント」に自分の女装姿をアップロードした。今は化粧用品なんか揃えなくてもフィルターがある。衣装さえ用意すれば、だれでも気軽に女装娘体験ができる。「女装娘」っていうのもどうせ代理店の肉食系が数年前に彼らの都合でバズらせた言葉なんだろうなあ、なんと考えていたら、変な事が起こった。僕のツイートがバズったのだ。桜色のワンピースを着た僕の画像が、バズった。フィルター機能を使った量産系女装娘の画像だったから、そこまで嫌じゃなかったけれど、「バズったので宣伝!!」と言ってバズに便乗して宣伝できるネタを一つも持っていなかったのが悲しかった。
僕が新学期、大学のキャンパスを歩いていると、いつの間にか仲良くなったKと僕の後輩に会った。
「バズおめでとうございまーす。」後輩が言った。
「俺たちでバズらせたの。1万もリツイートされてるのがオーガニックエンゲージメントだと思ったの?馬鹿?」K君は相変わらず口が悪い。正直、K君にイジられるのは慣れた。K君は使う言葉は本当にキツいけれど、言葉に重みが全くない。だから許されてきたんだな。彼の言葉には意味も責任も発生しない。だから、言葉を商品として使う広告代理店でインターンをしている後輩と馬が合ったんだろうな。
昔の、アニメファンの後輩だったら、僕の方が気が合ったはずなんだけど、後輩がK君を選ぶなら、僕は追わない。
「女装でバズったこと、就活の面接で言えばいいじゃん。」そんな事が通用しないのを知ってるくせに、Kは僕にアドバイスをした。僕は引き攣った笑顔で、
「そうだね」とだけ言った。
僕は女子と体液以外のものを交換する「エアドロ」機能がないスマホで「サクラ」が湧いたリプ欄をその場で読み返す。「綺麗な女装娘さん、眼福です!」「私より美人かも!女性として負けを感じてしまう!」みたいな事が絵文字付きで書かれていた。K君や後輩が金で雇ったサクラなのは解っているけども、頬を赤らめた笑顔の絵文字をたくさんもらえて悪い気はしなかった。僕は黄色スライム君とお別れしたくないから、古い機種を使っているんだ。顔を赤らめた黄色スライムのかわいさを皆にも見せてあげたいくらいだ。海外のアンドロイド勢からボコボコにされている黄色スライム君の顔を赤らめた姿が、僕は好きです。
「本物のインフルエンサーになれば、リアルでも、スタッフに金払ってそういう待遇よ?」僕が自分のスマホの中の黄色スライム君に萌えている時にK君は言った。そういや最近、僕のフォローしてる絵師がお絵描きのついでにユーチューバーをネタにした風刺漫画を描いてユーチューバーの事務所から怒られていた。事務所から怒られるのはなんとなくわかるとして、それをFF外からリツイートして文句を言っているユーチューバーの女性ファンが多いのに驚いた。なんで女性は稼ぐ能力のあるヤリチン男性を自分の息子のように陰キャの攻撃から庇うのだろう?ユーチューバーにはお母さんになってくれる女性がたくさんいるってことかな?金で雇われたサクラなのかな?いいなあ。僕はそう思った。金目当てに母性を切り売りする女性ではなくて、無料で黄色スライム君を海外の怖いアンドロイドユーザーから守ってくれるような女性はいませんか?
「あのさ、お前さ、LINEも使わないし、iPhoneじゃないからFaceTimeもできないじゃん?そういうところがもう周りとコミュニケーションする気がないと思われるの。」Kが言った。
「ご用件はSMSかツイッターのDMからお願いします。」 僕は黄色スライム君と別れるくらいなら陰キャでいい。