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やわらかみしまじけん


 大学の近くのゲームセンターで音ゲーマーをリアルに目撃したその夜、たいこのゲームに自分の好きな曲がないかいろいろ調べてみた。昔Flashで流行った、やわらかくて戦場から退却することを信条にする戦車の歌がやはり気になる。いままで知らなかったけど、太鼓には裏譜面というのがあるらしい。初心者なのに、譜面確認、どうよ?僕は夢中になっていろいろなプレイヤーの動画を見たよ。でもやっぱり僕は「おに」譜面の「いきのびたい」という歌詞のところで強調がついているような譜面が、僕は好きです。あの楽曲に対する良い解釈だと思う。「いきのびたい」は強調されるべきだ。しかし「いきのびたい」というといきのびることが当たり前でないような感覚を内包していると思う。

 事務に提出するための研究テーマを宿題として持ち帰ったので、それも15分くらい考えて「異なった文化状況・社会体制における恋愛弱者男性のアイデンティティー形成とその多様性」にすることにした。それっぽいだろ?音ゲームの、いや、太鼓の世界で居場所ができればむしろ恋愛弱者であることなんて問題関心ではなくなってしまうんだけどね。僕はアーケードゲームにつぎ込むために、大学1年生の時から、いや、もっと前からせびっている学食代を親にもらうことにしたんだ。僕がいつも学生生協でチェックしているチルドカップや紙カップのフレーバーラテの新作を我慢すれば、アーケードゲームに投資するお金が増えるかもしれない。いや、待てよ。フレーバーラテを諦めないでゲームをすることは可能かもしれない。

 そこで、僕は夕飯の席で親に聞いてみた。

「いやー、お母さんのオムライスは今日も最高だなあ。ところでお母さん、お小遣いを増やしてもらうってこと、可能?僕大学院生になって大学にいる時間が長くなるかもしれないから、外食代が欲しいんだけど。」

「そうなの?」母さんはこの大学院生の外食頻度が増えるということに疑問を感じたようだ。オムライスを誉めたことについては空々しいと感じたらしい。

「オムライスは普通に美味しいってば。研究室の飲み会だってあるかもしれないしー。ねーいいでしょ。」中学、高校、大学の時とあまりにも変わらないので、僕は自分がもうすぐ23歳になることを忘れてしまう。まだ二十代前半だし、大丈夫だろ。

「まだ飲み会があるかも解らないんでしょ?学内のアルバイトでもすれば?」母が言う。

「えー。」僕は反発する。

 僕はオムライスを食べ終わった後の食器をシンクに置くだけ置くと、

「ちょっとー、簡単なんだから洗ってよー。」という母を尻目に自分の部屋に戻って動画サイトでの譜面確認作業に戻る。高校の時までたまにしていたゲームだから、すぐ上手になるよね、と甘く見ていた。

 単純に音ゲーをしたいのならスマホやタブレット、パソコン、家庭用ゲーム機など長期的に見ればより経済的なオプションがあったと思う。だけど、僕のしたいのはパフォーマンスなんだよ。

 皮肉めいた世の中の中で、ものを言うのは三島由紀夫みたいなパフォーマンスだ。自分の肉体を自分でプロデュースするんだ。ゲームのデザイナーが想定しているユーザー以上の何かになろうと僕は思った。

もし裏譜面の全良ができるようになったら女装もありかななんて思うのだけど。三島由紀夫なんて大きいこと言ったけど、僕は自衛隊に喝を入れることなんてできない。彼らだってどうせ生き延びたいんだから。

女装して音ゲーをすることなら、なんだかできそうなんだよ。去年のワンピースまだ入るかな?

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