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第6話 『初対面 × 再会』


 翌朝、優紀は日の出とともに起き上がる。

 横たわる少女の胸元を見つめながら、手首を握り脈拍を確認する。クリスティアーネ(以後ティアと記載)はさすがの生命力で、怪我をした箇所の血だけは止まっていた。

 素人みたいな手当しか出来ないことを悔やみながら、傷口に当てた布と薬草を変える。


「魔法薬でもあれば……」

 こちらの世界には、錬金術と呼ばれる魔法があり、それにより作られた魔法の薬は、空想上で描かれるポーションと同じ効果がある。経口摂取で瞬時に傷や怪我が癒え、振りかけるだけでも傷が治る。

 一般人が入手できる魔法薬は、軽い止血や骨折の治りが早くなるくらいだが、金貨何枚もする高級品となれば、手や足が欠損しても、生やすことが出来るほど強力である。

 最高級にもなると言い値であり、お金だけで買えるものでもなくなる。貴族などの地位や、商人でも限られた成功者でなければ、入手できない貴重品である。

 その効果は凄まじく、半身が切断され内臓が飛び出していても、生きていれば完全に復元できる。その規模までいくと、魔法薬は『エリクサー』と呼ばれる。


「ないものを考えても、無意味か」

 優紀は、ティアの情報を得てから、旅の準備は最低限で飛び出してきた。薬まで手がまわらず、馬を購入したが使い捨てるほど疾走させ、途中の町や村で疲れた馬を売り払い、新しく購入を繰り返し近くまでたどり着いた。


「よし」

 包帯として使った布切れを変え、温かく濡らした布で身体を拭う。寝ている間に血がにじんでいたので、清潔な衣服に着替えさせる。相変わらず、サイズは合ってない。



 火を起こし、湯を沸かしながら、優紀はじっと少女を見つめていた。

 少なくとも襲撃者は全滅しており、感じられる範囲には人の気配がない。もし、連絡が途絶えたことで、敵の方に動きはあったとしても、それはしばらく先のことだと優紀は考えていた。


「ぁぅ……」

 ティアが目を覚ます。傍らにいた優紀と視線が合う。


「……」


 片方は、かける言葉を持っていなかった。今さら、どんな顔で、己が誰だと言えばいいのか。心の中で葛藤を続けていた。

 一方のティアは、きちんと覚えていた。己を助けた人物と、その戦い方を。

 目の前の人物が、父親に見えてしまったこと。言動から、おそらく己の推測が外れていないであろうこと。

 見たことのない可憐な、同い年の女なのに、あり得なと思いながら。


「……」

 優紀は、改めて作った薄い塩味のスープを出す。前日に作った食事は自分で食べたので、残っていなかった。干し肉は、ほぼお湯に溶けたような状態まで煮込んである。嫌な風味として独特な干し肉の塩味が溶け出していることを除けば、食べられるものではある。

 戦利品となる金属の器に、煮込んだ干し肉が少しだけ浮いているスープという名の塩水を、ティアへ差し出す優紀。


「それ食べて」

 断食に近い状態の後は、薄味のスープから始まり、固形物を食べるまで内臓を馴らす必要がある。よほど食べない状態が続かない限り、いきなり普通の食事をしても死ぬことは滅多にないが、体重が半減するほど痩せたティアは、胃腸へ過剰な負担をかけたら下痢や病気を起こし、衰弱してしまう可能性もある。


「……まずい」

 優紀は前世から、料理が得意ではない。それは、味音痴とも呼べる域に達した味覚と、食べるという行為に興味が無いせいである。満足に材料や調味料が無いのも、味を悪くしている。具が無い薄味のスープを作ろうとすれば、美味しいものは作れないが、限度というものはあるだろう。

 ティアも、塩水を温めたようなスープを食べる理由は知っていた。なので、無理にでも口に入れていく。


「明日の昼まで、それだけ」

「………………ぇ?」


 固まった。

 ティアの目から光が消えた。

 絶望的な状況から生き残った少女は、優紀が見た中で一番の絶望顔をしていた。優紀が覚えているティアは、食事の味にこだわる性格だったので、自身が作ったものが口に合わないことは承知していたが、少し衝撃を受けていた。

 それでも、お腹はすいていたのか、作った分はすべて口にしていた。


 食べ終わり、体調とは別の意味で気分が悪そうなティアが、悩んだ末に言葉を紡ぐ。


「たしか……ユウキ、だっけ?」

「……そう。初めまして」

「っ……」


 ティアは、泣きそうだった。

 意味深な視線は、己の拒絶にも見えて、しかし、わずかに優しさも含まれている。目線や話し方の癖は、そのまま父親と同じだった。

 死に際に見聞きした事を、ティアは欠片も忘れていなかった。だから、ユウキと呼んでほしいと、本人が言ったことを覚えていた。


「ティアって……呼んで」


 優紀は、すでにティアの名前を呼んでいた。それでも、この再会とも初対面とも分からない現状で選んだのは、自らの名前を告げることだった。

 


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