上手なマスクの作り方。
「ヒュムのマスク作りのコツだが、まず気温が高くないといけねー。
つまりダイア期の狩りはナンセンス。」
「ふむふむっ、なるほどぜよ。」
さっきやっつけたブサイクの首を回収しつつマラっさんのとこまで来ると、さっそく「上手なマスクの作り方講座」が始まった。
今はそれをさも真剣に聞いて見えるようにウンウンと頷いているとこ。
当の本人は話すのに夢中になってるから、私が全く興味ない事に気付いてない。
「んで、死亡直前の運動率や体温が高いほど死後硬直が早く強く始まり、早くほぐれる。
筋肉の発達した男は硬直が強く長く、ジジィやババァ、女やガキは弱く短い。
何事も、顔の筋肉、特に目元と頬筋のホールド性と鮮度が命だ。」
なんかウダウダ言ってっけど、要するに筋肉がほぐれて、顔の肉がだらしなく垂れる前に素早く剥ぐんだとさ。
マスクの質はほとんどそれで決まるらしい。
まじ、くっそどーでも良いけどね〜。
マラっさんはブツクサ説明しながら、私の持ってきた首を手に取って、それをジーっと見つめている、というかにらめっこしている。
「コイツ、ブサイクだな。いらねー。マーシュおめぇにやる。」
ボサッ。
「げ! いらねーよ!!」
「…あん?」
うげ、気持ちわりぃ……。
マラっさんが放り投げて地面に転がった首と目が合った。
なにしろ私は、そもそもマスク作りに興味がない。
漏れなくお耳も削いだし、この首にはもう用はないんだけど……。
しかし見れば見るほどブサイクな首だ……。
「いいかマーシュ。マスクを嘲笑う者は、マスクに泣くんだぜ。」
何いってんだこの人。
私の抗議にマラっさんが向き直ると、ドヤ顔で腕を組んでそう言った。
どうでもいいけど、この首と一緒で目の焦点あってないぜよ。
それにそもそもブサイクって理由だけで素材を選り好みしてるアンタに、マスクのなんたるかを語る資格はないと思う。
「そもそもマスクってのはなぁ……」
そう、マラっさんはブサイク(マラっさん基準のね)は食わない。
それは絶対らしい。
そして私が今こうして生きているのも、きっとブサイク故なのだ。
そう思うと腹立たしいが、まぁ生きてるからには文句は言えない。
それにそもそも、マラっさんの美男美女の基準ってのが割と謎だから、あまり参考にならないと思ってる。
「だから顔を隠すってのは表向きの役割に過ぎねぇ。実際は……」
例えば、りんねっち。
アレは別に言うほどブサイクじゃないと思う。
身だしなみ、ちゃんとすれば彼女も出来るだろうね。
まぁ端的に言って、割と私好みだった。
けど、彼が無事に五体満足で村を出られたのは、やっぱりマラっさんのお眼鏡に叶わなかったからだと言える。
マラっさんの前では、敵も味方も関係ない。
マラっさん的に顔が良ければ、とりあえず襲われて、漏れなくマスクにされる。
「だからこそ、皮オブザイヤーは慎重に選ばなきゃならねぇ。
わかったか、このブサイク。」
「了解、ボス。」
まぁ、何も聞いてなかったけど。
このヒトも私の話いっつも聞いてないからこれでオーケー。
「んじゃ解ったらその首の皮剥いでみろ。」
「げっ……。」
ジメジメと陰湿なアニーク樹海の闇の中。
講義はまだまだ続くらしい。
トホホー。