ふくみみ。
この話は「てんさま。」の一部1章以降に読むことを切実に一層強くオススメしますが勝手にしやがれ。
なお、ちょっとショッキングな話になってます。
暖かな日差しの届かないアニーク樹海の奥で、私は頭を抱えて絶望していた。
「げ……や〜っちまったぁ〜……。」
パックリと割れた死体の顔面から、ナタをそっと引き抜く。
ニチャ~っと糸を引く、鼻水と血と脂とか、色々へんなのが混ざった臭いやつ。
うへ、あ~あ、こりゃダメだな。
完全に使い物にならん。
見事に真二つになった死体の頭を見て、私はデカいため息をついた。
「あー!! マーシュてめぇー!!」
げげっ、もう来たぞ……。
「顔は絶対に傷つけるなっつってんだろが!! 何度言やわかんだ!!」
「だぁー!! っせぇなぁ!! わかってんよぉ!!」
「解ってんなら二度とやんな!! てめぇも剥くぞこのブサイク!!」
ま〜たキレたよもう。
くっそキモいマスクで顔を覆ってて誰だか判りづらかったと思うけど、ガミガミ五月蠅いこのヒトはマラク・デアディビル。
一応、私の恩師、普通に大っ嫌いだけどな。
「たくっ! これだからド素人ブサイクはよ!!」
「はぁ、さ~せんさ~せん。」
りんねっちが村を去って、え~と、3カ月? かな。
今は5月の中旬。
少しずつ暑さも落ち着いてきたけど、今日もアニーク樹海はジメジメの陰湿、つまり絶好の運動日和。
なもんで、ボスの有り難いお零れで、今日も罪人共を沢山殺しに来てます。
「…お? 獲物のニオイがするぜぇ? ヒャッハ~!」
このバカと一緒にな~。
マラっさんは両手の大ナタをバカな虫取り小僧みたいに掲げて走って行った。
ちなみにあのクソガキモードになると、もうどうにも止まらない。
ー うぎゃぁぁあああああ!! ー
ほら、早速マラっさんの走って行った闇の奥から悲鳴が聞こえて来た。
つってもあれ、やられた側じゃなくて、やる側が出してるんだけど。
さてと、私も早く行かないと、遅れるとまたウダウダ言いやがるし。
…っと、その前に。
「コイツを忘れちゃいけないぜよ~。」
真二つに顔の割れた死体に向き直る。
良かった、無事だ。
どんな事情があったとしても、コイツだけは傷つけるわけにはいかないからね。
「まず、2つ。…お? 福耳とは…ラッキーぜよ~!
こりゃまたとっておきが作れそうだっ!」
ナタで根元から綺麗にソレを削ぎ取り、私はポケットに仕舞った。
「みっみたっぶブッニブッ二きっもちっいなぁ~。」
「おいマーシュゥゥウウウ!! さっさと来いやぁぁああ!!」
うっせぇなぁ~もう~。
ポケットの中でソレのグニグニとした感触を鼻歌交じりに堪能していると、さっそくお下劣なデスボイスが樹海の闇に響いた。
まじ害悪。
毎度毎度、ボスも手を焼くわけだ。
「ちぃ! バケモンがぁ!! …ん?」
「お〜、獲物発見ぜよー。」
「なんだ、……テメェ。」
マラっさんの取り逃がしたっぽい残党が一人、茂みから飛び出してきて目が合った。
しっかしコイツ、ブッサイクだなぁ、マラっさんが食わないわけだ。
ま、それはいいや。
美味そうな、お耳がふたつ。
御馳走様ですっ。