あれから20年。
「ううぅぅううううがぁぁああああああ!!」
ふいに、俺はこの世界に来た時のことを思い出していた。
「んぎゃぁぁぁああ!!! なんじゃありゃーーーー!!!」
あれから20年か……、なんだか懐かしいな。
「やべぇやべぇやべぇやべぇ!!!」
まるで昨日の事のように鮮明に思い出される旅の日々。
「なんすかなんすかなんなんすかーーー!!」
「姫ちゃん足はやっ!!」
そう、姫と俺たち光の四戦士、20年前の運命の出会いを……
マギが箱になったあの日から、はや数カ月。
あの日以降、俺達は姫を業苦から解放すべく、宛のない旅を続けていた。
ズルズル……。
「んぎゃぉぎゃぉぎゃぎゃっ!!」
「え? なんすかアルさん?」
「んぎゃぎゃぎゃお!!」
ー お腹が空いたって言ってますよ。 ー
「ぎゃお!!」
「…ほんとに姫さん、なんでわかるんすか?」
つい先月、俺達はついに海を伝って新大陸へ渡り、凶暴な獣に追い回されたり、道に迷って餓死したり、変なモノを食べて発狂して死んだり、幾多の苦難と災難に見舞われていた。
ズルズル……。
そして今日も散々だった。
クタクタの身体を引きずるように、夕方の街道を歩く俺達。
俺は亡者となり、サゴはいま、棺桶。
マギは、箱。
ビトも今日だけで既に10回は死んだ。
もうめちゃくちゃのボロボロだった。
ー もうすぐ街に着きますから、我慢してくださいね。 ー
「ぎゃぉぎゃぉ!!」
ズルズル……。
「……。」
この世界に来てから数ヶ月、わかったこともある。
俺たちの奇跡についてだ。
カッコい〜い名前も付けたから、紹介しておこう。
「あ、街が見えてきたっすよ。」
まずビト。
ビトの奇跡は「リバイバルスライム」。
死んでから一定時間が経過すると、パーティーのいる位置にプッ。と復活する不死身の奇跡。
なお、当人に死の前後の記憶はないのだが、それがまた良い。
何度でも蘇る様から、その名前を付けた。
次にマギ。
マギの奇跡は「エイペックス」。
死んだ瞬間にその場で細長い箱になる。
何故かその際、デーンッ! とどこからともなく効果音が聞こえてくるが、あれが一体何なのかは未だ解らないままだ。
そしてどうやら日の出と共にヒトの姿に戻るらしく、様子を見に来るといつも膝を抱えて蹲っていた。
一応、物を保管できる。
因みに箱は重すぎて運べないため、毎回死んだ場所に迎えに行かないといけないのが難点で、先ほども化け物に襲われて絶命したため、そのままそこに置いてきた。
ズルズル……。
そしてサゴ。
サゴの奇跡は「ドラクエ」。
死んだらその場でデカい棺桶となり、なぜかズルズルとどこまでもついて来る様からその名が付いた。
夜になると勝手にヒトの姿に戻る。
ちなみに中は空だ。
姫を隠したい時とかに使えるが、基本的に物入として重宝したし、それ以外に使い道がない。
「ぎゃいぃいいぎゃぉおおお!!」
最後に俺ことアルティメット。
俺の奇跡は「ダークソウル」。
このように、死んだら次の日の朝までグロテスクな亡者になる。
んで肉体的にめっちゃ強くなるけど、ずっと空腹に苛まれてヨダレを垂らし、更に「ぎゃお」しか言えなくなる。
そして何故か姫には俺の言ってる意味が解るらしく、俺が喋るたび律儀に翻訳してくれていた。
因みに朝日を浴びて元の姿に戻る時、日の光がめっちゃ痛くて正直しんどい。
そうそう、あの後の事も少し話しておかないとな。
思い出すなぁ、マギが初めて箱になった、次の日の朝……。
「お前らぁ!!! どこ行ってたんだよぉ!!!」
あの日街の入口に置いてきた箱の様子を見に行くと、そこには既に箱はなく、膝を抱えて蹲るマギだけがいた。
どうやら俺らに見捨てられたと思って一人で不貞腐れていたらしいのだが、道行くヒトビトの視線が痛かったのをよく覚えている。
ちなみにその前の晩、着替えた姫を連れて街の中を歩いてみたが、俺達と一緒にいることも相まってか、別段目立つことは無かった。
むしろ街には様々な種族が入り乱れていた為に、俺らみたいな人間は空気みたいなものだったと思う。
そんなわけで心置きなく情報収集も出来た。
街のヒトの話では、やはり魔女というのは既に亡き者として扱われているらしい。
どこかで生きているという噂もあるようだが、山奥に身を潜めてるだの、カルト集団を集めて世界を滅ぼそうとしているだのと、今にして思えばデタラメも良い所だった。
まぁそういう大げさな噂のお陰で、姫と魔女のイメージに大分ギャップがあったから、怪しまれる心配なんてのは杞憂に等しかったというわけだ。
ー あの、あんまりジロジロ見ないで貰えますか? ー
そして姫には着替えて貰ったついでに、ダメ押しで買ってきたカツラも被ってもらった。
銀髪ロングヘアなカツラ、白と水色を基調にした控えめな旅装束。
そんな姫の見違えた姿を見てマギが「雪の妖精さんだ!!」とハシャいだが、流石にキモかった。
因みに今も使って貰ってるけど、首から下げられるホワイトボードも買ってきた。
水性のマーカーも。
毎度毎度、地面越しにやり取りするのも疲れるからな。
姫には常にこれを首から下げといて貰おうというわけだ。
しかしこの世界、よく探せば何でも売ってるもんで感心する。
とまぁ、あの後の出来事ってのは、そんなとこか。
そしてあれから20年の月日が流れた。
もうすぐアラフォーになる俺達は今……
「ううぅぅううううがぁぁああああああ!!」
「んぎゃぁぁぁああ!!! なんじゃありゃーーーー!!!」
「やべぇやべぇやべぇやべぇ!!!」
「なんすかなんすかなんなんすかーーー!!」
「姫ちゃん足はやっ!!」
まさにマンモスみたいにどデカいライオンから逃げている真っ最中。
「おいアルッ!! もうダメだ!! あれやるぞ!!」
俺とサゴの前を走っていたマギが振り向きざまに叫ぶ。
そう、今日も今日とて化け物に追いかけまわされる日々を送っている俺達なのだ。
「オーケー! サゴ!! 犠牲再生作戦だ!!」
「了解!!」
振り返ると既にライオンはビトのすぐ後ろまで迫ってきている。
俺達の遥か先を走る姫は逃げ足が早いからともかくとして、このままでは光の四戦士は全滅だ。
そんなアラフォーまっしぐらな俺達が生き残るために編み出した最強の作戦、それは……
「「うおらぁ!!!!」」
「あぁっ!! うわぁあぁああっ!!」
サゴと俺、息を合わせて後ろにいたビトの足をなんの躊躇もなく引っ掛ける。
悲鳴とともにビトは転倒、そして俺達は振り返る事無く走り続けた。
これこそが、犠牲再生作戦。
「ヒャッハーー!! ナイスアシスト!!」
「今日も息ぴったりだなっ!!」
と、走りながらも「きゃっほい!!」とハイタッチする俺とサゴ。
「おまえらぁぁあああああああああ!!
あの世でブチ殺してやるからなぁぁあああああ!!」
「はっはっはっ!! バーカッ!!
恨むならてめぇの奇跡を恨むんだなー!!」
「アディオス!! キミに幸あれー!!」
怒号を飛ばすビトに対して高笑いを決めるマギ。
最後に俺はスペイン語で爽やかにしばしの別れを告げた。
とまぁ小バカにしつつも犠牲者にウジ虫程度の気を向ける俺達だったが、相変わらず姫はビトが転んだ事にすら目もくれずスタコラサッサカサササのサッ!! とゴキブリの如く走り去って行く。
「ううぅぅううううがぁぁああああああ!!」
「ああぁぁあああああああああああ!!!!」
そう、尊い犠牲の上に俺達は今を生きている。
姫を護るために命を懸けた彼の死を無駄にしてはいけない。
行こう、まだ見ぬ冒険の旅へ。
姫を業苦から解放するために。
グシャー!! ズシャー!!
あれ、ていうか……
「うがぁ!! うがあ!! うがぁああ!!」
「ぐっ!! えっ!! うあっ!!」
俺達あの日から……
ガリッッ!! バキッッ! ボリッッ!
何一つ変わって、ねぇ……。
「あなざ~ばぁす。」では、本編で語られない世界観や設定の補完を主としています。
「姫と光の四戦士編」以降は、様々な登場人物の視点で、意味があったり無かったりする物語をダラダラとお楽しみください。
不定期更新です。
次回「マラクとマーシュ編」