ターミネータケ。
指定、特になし<( ̄︶ ̄)>
「待てまっしゅーー!!」
「逃げろーー!!」
「捕まったら裸に剥かれて犯されるぞー!!」
「さっさとひっ捕らえるまっしゅ!!」
「うわぁぁああ!!
男でいてぇ! 男でいてぇよ!!」
「なんなんすか! なんなんすかこれー!!」
「まっしゅーー!!」
いま俺は見ず知らずの3人と一緒に全力で逃げている。
ん? 何からだよって?
やべぇキノコを食ってラリった奴らからだよ。
ほらよく見ろよ、目は血走って額には薄っすら青白い血管が浮き出てるガチムチお兄さん達だ。
多分捕まったらあのキノコ食わされて速攻アウトローの仲間入り。
だから必死で逃げてる。
して、何故にこんなことになったのか。
それは遡ること数時間前……
「…お!! キノコ! キノコだぁ!」
「ホントだ! すげぇたくさん生えてるぜぇ!」
「ヤッホーー!! 食い放題だぁ!」
気がつくと俺は森の中の洞穴にいた。
困ったことに、名前も、記憶もないまま。
そしてどうやらそれは俺だけじゃなく、何故か同じように洞穴にいた35人もの体育会系っぽい彼、彼女らも一人残らず例外ではなかった。
「けどこれ…なんか銀色で気持ち悪くね?」
「ねぇ…もしかして毒とかあるんじゃないの?」
そして多分、ここは俺らの知ってる日本じゃない。
…生き残らなければならない。
そう悟ってからが早かった。
男子25名、女子11名、多分みんな体育会系の高校生。
そんな将来有望な俺達36人はまず、水と食料確保の為に洞穴を出て森の中へ繰り出したのだが……
「う、ウゴうめぇ……。ウゴうめぇぞコレ!!」
「…て、おい! 食うな!」
木漏れ日の中を隊列を乱さずに進んでいくと、泉のほとりである物を見つけた。
それはギラギラと光り輝く見るからに怪しい銀色のキノコ。
あまりの空腹からか、早速ゴリラっぽい一人が両手で鷲掴みにして口へ掻き込み始める。
「うっわ! これぅん〜めぇ!!
めっちゃ肉厚濃厚クリーミーで舌がとろけるわ!!
これあれやわ!! 多分トリュフ!!
多分絶対トリュフ!!」
「うぅ……俺も食う!!」
「俺も! もう我慢出来ねぇ!!」
「わ…私も!!」
ソイツがおいおいと涙を流しながらあんまりにも美味そうにモリモリ食うもんで、次から次へと、体育会系の彼、彼女らは銀色の怪しいソレを口につけ始めた。
勿論決め手は「多分絶対トリュフ」だ。
そして……
「ま〜しゅっしゅっしゅぅ〜!!」
「遂に強靭な肉体を手に入れたまっしゅ!」
「まっしゅっしゅ。
スチャラカポコタン星人共を一人残らず駆逐してやるまっしゅ。」
なんか出た。
予想通りというか、それ見たことかというか、どうやらアレは幻覚作用のあるキノコだったらしく、それを食べた体育会系の彼らの眼つきはギンギンになり、完全にキマってしまった上に語尾もキモくなった。
「おいお前ら、受肉祝いにまずは憎きケズデットの村をターミネートするまっしゅ。」
ガンガンギンギンギラギラギンな一人が気持ち悪い薄ら笑いを浮かべて呟く。
「やっぱ…食わなくてよかったな。」
「それな……。」
「けどなんか、やばくないっすか?」
「あぁ、てか多分逃げたほうが良いと思う。」
あれは相当重症だ、もう助からないかもしれない。
それどころか俺達に危害を加えてくる恐れがある。
そう思ったのは、キノコを食べなかったお互いに名前も知らない賢い俺達4人だけだった。
そして……
「おい、ここに我々ターミネータケの洗脳を免れたクソヒュムがいるまっしゅ。」
「えっ……。」
ヒュムというのが何なのかはわからないが、多分俺らのことだ。
屈強なタンクトップ脳筋マッシュ野郎の一人が呆然と立ち尽くす俺ら4人を指さしながら周りの奴らに呼びかける。
「ほほぅ? ヒュムの分際で生意気まっしゅねぇ?
お前らにもターミネータケを食わせて洗脳してやるまっしゅ。」
筋肉、全集中。
「げっ! や! やべぇ!」
そして、今に至るわけ。
マジ最悪。
「待つまっしゅーー!!」
「ちぃ! まだ追ってくるぞ!」
出口の見えない絶望の森の中。
無駄に肩幅の広いアイツらが通るのに苦戦しそうな獣道を、見ず知らずの3人と共に必死に草木を掻き分けて抜けていく。
身体は既に傷まみれ、足元に注意しなければ木の根で転ぶかもしれないが、その時はもう自己責任だ。
そしてそれは言わずもがな暗黙の了解だった。
「な……。」
「おい嘘だろ!」
川だ。
そうして無我夢中に突き進んだ獣道の先に現れたのは、流れの早い川だった。
だが幅は大したことない。
どうにか渡って対岸に行きたいが…多分、結構な深さがある。
これは…飛び込めば……どうなるかわからないぞ……。
「どこ行ったまっしゅーー!!」
後方からタンクトップ脳筋マッシュ野郎の声が聞こえた。
「時間がねぇ! もう飛び込むか!?」
「いやいや無理っすよ! 絶対ヤバいっす!」
「んじゃお前アイツらに掘られてもいいのか!?」
「えぇ!? いや、えぇ!?」
「あ……おいアレ……。」
ふいに一人が何かを見つけたようで、左の方を指さす。
見ると大きな木の陰からこちらへ手招きしている…女性……? が見えた。
何か怪しげな黒いローブみたいのを着ており、フードを頭から被っているので表情は見えないが……。
怪しい……。
なんだアイツは……。
「な、なんだ? こっちに来いってか?」
「罠かもしんないっすよ!?」
「どうする! どうするどうする!」
「まっしゅっしゅ〜。この先は川まっしゅ。
もう逃げられないまっしゅよ?」
文字通りふざけているが、追ってはすぐそこまで迫っている。
伸るか反るか、いや…伸るか、掘られるか、だ。
「迷ってる暇はねぇ行くぞ!」
覚悟を決めたように全員頷いて、女性のいる木の陰まで死ぬ気で走った。
それが、この物語の始まり。
俺達光の四戦士と、声なき美姫との出会いだった。