ざまみろってんです。
一週間くらいのつもりが二週間も筆折ってました。
一応毎日パソコンの前には座ってみたんですけどね、無理でした。すんまそん。
先にデビルミーツ進めたかったけどこっちの方がモチベ高かったらしい。
「でもこれは絶対に事件なんですよぉ!」
「落ち着き給え、ミア。まだ誰も死んでいない。」
「だ、だってぇ~……。」
「一先ずコーヒーでも飲もうじゃないか。」
「……。解りましたよぉ……。」
部屋へ駆け込みアケチコさんに事情を話すも「いや、流石に女湯には入れないから」と、珍しく尤もらしい事を冷静に言われて私の意見は封殺されてしまいました。
確かに、現場検証をしようにも「事件かもしれない」という私の憶測だけで勝手は許されないでしょうし、それこそアケチコさんが女湯にいる時にピュアさんなどに見つかってしまう事の方がよっぽど大事件です。
ちょっと考えれば解る事なのに私ったら、やっぱりおバカンス気分が抜けきっていなかったみたいです、反省……。
「それより、こちらもなかなか面白いものを見つけてな。」
「面白いもの、ですか?」
はて、なんでしょう?
淹れたてのコーヒーをテーブルに置きながら、まるで無邪気なイタズラ小僧のようにアケチコさんは怪しく笑います。
私の話になんて耳も貸さずに軽くあしらっておきながら、自分の事となると有無も言わさず巻き込んで嬉しそうに話し始めました。
男のヒトって、そーゆーところありますよね?
いま「あ、俺だ」って思ったそこのアナタ、絶対直した方が良いですよ。
「これなんだが。実に奇妙な内容なんだ。」
「はぁ……。」
その後コーヒーを2人分置き終えると、アケチコさんはベッドの上に放ってあった「あるもの」を手に取り、不満タラタラな私に差し出してきました。
それはノートにしてはやや高級感のある、一冊の黒い――
「これ、このお屋敷の館内案内……ですよね?」
「あぁ、一先ず読んでみてくれ。」
「……解りました。」
そうです。アケチコさんが私に差し出して来たのは館内のご利用案内でした。
なによこんなもの。私の話の方がよっぽど大事な話じゃないの――と思ったことは内緒です。
そんな分厚いノートの表紙をめくると、まず家主の方からの挨拶文が。
その後、お屋敷の館内図、利用にあたっての注意事項とあります。
挨拶文には特に変わったことは書いてありませんでした。
長旅の疲れを――とかそんなやつです。
そして次、これは絶対に重要なお屋敷のマップ。
お屋敷は二階建て、そして何よりもまず私たちの居る部屋は二階の202号室。
「って、この案内図……。アケチコさん、これ――」
そして館内マップを見た瞬間――その悍ましい違和感に、一般ピーポーな私も真っ先に気付きました。
「どうしてこんなに沢山お手洗いがあるんでしょうか?」
「え? そこ? そこかい?」
「え? 違うんですか? 私的にはコレ、凄い不気味なんですけど……。」
私はまずトイレの多さに違和感を覚えたのですけど、アケチコさんはキョトンとしています。
逆に言えばそこくらいしか違和感らしいものは見当たらないんですけどね、う~ん……。
「トイレの数なんてどうでも良いだろ。」
「いやいや、どう考えてもおかしいですよ。なんでこんなにお手洗いが必要なんですか!
ほらよく見てくださいよ! 客間の数12に対して、いち、にぃ、さん、しぃ……10個もあるんですよ! おトイレ!
だいたい各部屋にだって一つ付いてるんです!
それにここには載ってませんけど温泉の脱衣所にも漏れなくついてるんですからね!
総数で言えば部屋数の倍はおトイレですよ! どうですかほら! おかしいでしょう!」
「それがどうしたと言うんだ。キミ、顔に似合わず意外と神経質だな。」
「え……。」
うっそ~ん……。
あろうことか、アケチコんさんにドン引きされてしまいました。
顔に似合わずって、どういう意味なんでしょうか?
ぱっと見た感じ「無神経そう」ってこと? かなりショックなんですけど……。
というか私の目の付け所ってそんなに変ですか? そんなことないですよね……。
うぅ、最初からゴマ粒ほどに有りもしない自信がズタズタに引き裂かれてしまいました……。
「いいかいミア、重要なのはその次だ。 ご利用と注意事項のページなんだよ。」
「はぁ、そーですかー。」
「ん……? なんか、怒ってる?」
「いえー、べつにー。」
「……。」
私がワガママ姫のように目も合わせず冷たく返事をすると、アケチコさんは気まずそうに口を紡いで黙り込みました。
ざまみろってんです。
まったく、いつもいつも事件の事ばかり考えて、ちょっとは女心ってヤツにも気を回してもらわないとっ。
とまぁ私個人の不満は置いといて、このスーパー名探偵さんが重要だという次のページを見てみる事にしましょうか。
私は館内マップに幾らかのモヤモヤを抱えたままページをめくりました。
「なになに? 館内では以下のルールの徹底をお願いします――」
どうやらこの無料のお屋敷を利用するにあたって、幾つか注意しなければいけないルールがあるようです。
結構ギッシリ書いてありますが、一先ずザックリまとめると――
*
・夜8時以降、部屋を出ない事。
・部屋の外から物音がしても決して扉を開けない事。
・部屋には必ず鍵を掛けておく事。
・日中は屋敷内のカーテンを勝手に開けない事。
・昼夜問わず、部屋以外の灯りを勝手に点けない事。
※なお夜間中、皆さまが施錠等のルールを守っていらっしゃるか、執事のハグキが見回りに参ります。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。
*
「なん……ですか、コレ……。」
その気味の悪い内容に、ノートを持つ手が震えました。
何かとてつもなく不安になる内容――確かに、屋敷内のお手洗いの数など些細なことだった気がします。
それくらいに不気味で、背筋も凍るようなゾッとするルールでした。
それはまるで、夜間は「危ないなにか」が屋敷内を徘徊しているような――
「今夜、早速ルールを破ってみよう。」
「ア、アケチコさぁ~ん……。」
どうしてそういう事ばっかり積極的なんですかねぇこのヒトはぁ……。
もう怖くて泣きそうなんですけど、帰っても良いですか……?