スマイル。
本編で忙しいので最近は全然書いてませんが、そもそも次にどの話を書こうかって感じです(掘り下げたいキャラはまだ沢山いるんですけど)。
本編では主人公(嫌われ者)視点ということもあり、心理描写とか他にも色々厚かましい感じにしてます。
ので、こちらでは様々な人物の視点から、あらゆる文字温度を感じて楽しんで頂ければ良いなと思います。
20〇〇年3月○○日。
高2、冬と春の間の季節。
人生はいま正に青春真っ盛り。
そんな青き春の一番大事なこの時期を、俺達は大好きな屋内アルティメット部に捧げている。
今日はそんなアルティメットの練習のため、町のスポーツ会館にやってきていた。
そう、まだ空気がひんやり冷たくて、この日は鬱屈とした曇り空だった。
…ォ …ォ ォ ォォォォォォォォォォ………………
因みに、我が宮高は「屋内ゲートボール」の全国大会常連校だ。
そんな国内屈指の屋内ゲートボール部を誇る我が校の中で、俺達は国内最弱と名高い「屋内アルティメット部」の部員であり、日頃から「宮高の面汚し」だの「運動音痴アルティメーターズ」だのとバカにされている。
まぁ事実だし、気にもしたこともないが。
ん……? 屋内アルティメットってのはなんなんだって?
そんなもんはググれカス。
え? うそ、スマホ持ってないの?
うっわー、もしかしてガラケー?
え? LINEも使ってないの~? うっそだっさ~。
ギリそんな時代の話だ。
「いよいよか。」
「あぁ。」
「俺……まじで死ぬんすか?」
「だぁな。」
地鳴りが、大きくなる。
地平を飲み込んだ水平線が、大きくなる。
耳の奥、脳と腹と、全身の遥か底まで染み渡るように、唸るように押し寄せる鈍くて不快な音に、全身の毛がよだつ。
現実味のなかったそれが、今まで感じた事の無い程の恐怖と共に、ゆっくりと押し寄せて来る。
アレは波じゃない。
悪魔だ。
死ぬのだ。
死ぬ。
今日死ぬ。
昨日まで、みんなと、教室で、笑って、死ぬほど退屈な授業を受けていたのに。
さっきまで、みんなと、あのスポーツ会館で、あの円盤を、無駄にポイポイ投げ合ってたのに。
死ぬ。今日。
ハッキリと、それがわかる。
変な気分だ。
怖くて、呼吸が乱れるほど、足が震えるほど動揺しているのに、研ぎ澄まされるほどに、頭は冷静だ。
俺、タケ、シゲ、後輩のリンダ。
防波堤で4人、ただ立ち尽くす。
傍から見たらどれほど異常だろう。
どこかからは泣き叫ぶ声が。
どこかからは、親を呼ぶ声が。
諦めきれず、慌ただしく駆けていく悲鳴も、未だいくつか。
それら全て、押し寄せる悪魔の音楽に埋もれて行く。
「ウチの近所にさ。池ちゃんて、すげぇ優しいお兄さん住んでんだけど……」
そんな中、波を見つめたタケが、ボーっと呟いた。
「子供が出来るからってさ、こないだ、家、買ったんだ。」
「……。」
「一昨日、赤ちゃん産まれて、奥さん、今、病院にいる。
すげぇ、喜んでたんだよ。」
「……。」
「なぁ、手…つなごうぜ。」
呟くようなタケの言葉に誰もが口を閉ざして黙り込む中、シゲがそう言って笑った。
「そっすね。」
「あぁ、死ぬまで、離さないでいようや。」
「お、おう……。」
ここに悪魔が来る。
防波堤の上で横一列に並んで、震える手を繋ぐ。
感覚も温度も、この重たい快音に掻き消されていく。
それでも俺達は……
最後まで一緒だった
「ぅっ! うわぁぁあああああ!!!」
「「「えっ?」」」
後輩のリンダは敬愛する先輩達の腕を振り払って逃げ出した。
「反逆者だぁぁあああっ!!」
「あの裏切り者のドンガメがぁ!!」
「待ちやがれキェェエエエエエ!!」
あぁ、そうだった。
アイツはそーゆーヤツだった。
以前この4人で、外でアルティメットをして遊んでた時のことだ。
投げたディスクで誤って民家の窓ガラスを割ってしまったことがある。
黙っていればバレなかったものを、あの反逆者は教師にチクるという暴挙に走った。
そのため俺達は全員、あの日以降アルティメットの屋外プレイを学校側から全面的に禁止されてしまったのだ。
そう、「屋内アルティメット部」なんてものはない。
屋内アルティメット部も、宮校の面汚しも、運動音痴アルティメーターズも、全てその時に着せられた汚名に他ならない。
今日だってアルティメットやりたさにただスポーツ会館に遊びに来ただけだ。
「死にたくないまだ死にたくない! お母さん助けて!!」
堤防を飛び降りてスポーツ会館の方へ泣きながら走ってくリンダを、俺達は今まで出したことも無いような奇声を上げて死物狂いで追いかけていた。
「足だ!! 足引っ掛けろ!! あのデブ絶対逃がすな!!」
「あークソ!! まどマギー!!
おれ最後まで見たかったのによぉ!!」
「俺は彼女欲しかったぁあああ!!」
なんだか、すげぇ楽しいや。
こんなに全力で走るのはいつぶりだろうな。
全身全霊で、わけもわからずひたすらに走り続けた。
最後の瞬間まで俺達は、振り返ることなく全力で笑っていた。
運命に飲み込まれる、その時まで。