部活体験と後輩ちゃん
「女子バレーボール部の浜崎 希未です!今から、女バレの部活紹介を始めます!」
「「「「「はじめます!」」」」」
私の声に合わせて、皆のプレーが始まる。
今日は新入生に対して部活紹介をする日。
私たち女子バレーボール部は、2年生の6人しかいないから、人を入れないと来年がヤバい。
だから今日は、頑張って紹介しようって話し合った。
その結果、6人の中で1番プレーが下手な私が、紹介文を読むことになった。
「こんな感じで、毎日楽しく練習してます!先輩は皆、本当に優しいので、初心者でも経験者でも大歓迎です!もし良ければ、この1週間のうちに1回だけでも来て見てください!これで女子バレーボール部の部活紹介を終わります!」
「皆おつかれさまー!」
「希未もおつかれ~」
「緊張して、最初の方は噛み噛みだったね」
「ご、ごめんね」
「気にしないでー」
皆と合流すると、こんな風に受け入れてくれる。
皆優しいね。
部活紹介が終わると、1年生は教室に戻って終礼をする。
私たちはその間にネットとかを準備して、1年の下足室出口に集まる。
他の部活生もいっぱいいる。
これから戦いだー!一人でも体育館に連れて帰らないと、皆に怒られる!
「あ、予定あるの?ごめんね。興味があったら来てね」
声をかけ始めて、もう10人ぐらいに断られている。
なんで?
私が声を掛けてる場所がわるいの?
まあ確かに、出口からちょっと離れてるから、門に向かって歩いてくるのは、他の勧誘を断ってきた人だけでしょうけど。
「…あっ、待って!ねぇねぇ、バレーボールに興味ない?」
考え事をしていると、私の目の前を女の子が通っていったから、声を掛けた。
すると、女の子が立ち止まって振り向いてくれた。
「あっ、可愛い…。え、えっと、今日は何か予定があるの?」
女の子が凄い美少女だったから、一瞬詰まってしまった。
整った顔つきで、少し鋭い眼差しを眼鏡の奥に宿している女の子。
振り向いたときにめっちゃ良い匂いがした。
「……いえ、特に何もないですけど。」
「じゃ、じゃあさ、女バレの部活体験に来てみない?つまらなかったらすぐ帰ってもいいからさ。」
「……別に良いですけど。」
「ホントに?やったー!ありがとう!!」
女の子の手を握って、体育館に連れて行く。
「私についてきて!」
体育館に入り、更衣室まで来た私は、少し冷静になった。
「あ、ごめんね。勝手に手を握ったりして。嫌だったよね」
「別に大丈夫です。」
「そう?ありがとっ!」
大人しくて、くーるびゅーてぃーな感じだけど、凄く優しい良い子で良かった。
「じゃあここで着替えてね。あ、体操服持って来てる?」
「持ってないです。今日は帰るつもりだったので。」
「あ、ホントに?別に無理はしなくていいよ?」
「大丈夫です。」
「そう?じゃあ、私の体操服を貸してあげるね。あ、でも、今日体育あったから、汗臭いかも…。待ってて、他の人から借りてくるよ」
「別に先輩ので良いです。」
「そう?もし臭かったら言ってね。無理しないで良いから!」
鞄から体操服を出して、貸す…前に、匂いを確認する。
んー、ギリギリ大丈夫なはず。
「はいどうぞ。たぶんサイズは大丈夫」
女の子の方が、私よりちょっとだけ背が高い。
私が152cmだから…155cmぐらい?
「ありがとうございます。」
女の子が制服を脱ぎ出す。
すると、ふわっと女の子の良い匂いがして…。
「あっ、えっと、着替え終わったら出てきてね!」
私は更衣室を出て行くことにした。
着替える姿を見るとか、失礼だもんね!
5分ぐらいすると、女の子が出てきた。
今日の体育館は、バスケットボール部とバレーボール部が半分ずつ、さらに男女で半分。
うちの学校は男バレは廃部になったから、半面を贅沢に使える。ラッキーだね。
コート内では、既に皆が連れてきた1年生とボールを使って練習というか、遊んでいる。
今日は連れてきた子を、責任を持ってみなければならない。
凄い子は、3人ぐらい連れてきてるから、尊敬する。
「じゃあ、こっちでストレッチしよっか。せっかく体験に来てくれたのに、怪我なんかしたらダメだもんね」
「分かりました。」
二人で、体育館の端で体操やストレッチをする。
途中からは、片方が背中を押したりして、入念に柔軟をする。
「わっ、身体柔らかいね!」
「小さい頃に体操をしていたので。」
「そうなんだ!私はカチカチだから羨ましい!
よし、じゃあストレッチも終わったし、ボールを使って遊ぼっか!」
「はい。」
私は籠からボールを持ってきて、女の子に渡す。
「じゃあ始めはキャッチボールからね。えっと…ごめん、名前聞いてなかった」
「柊 真子です。」
「真子ちゃんね。よし、覚えたよ。
じゃあ、私にボールを投げてね」
「はい。いきます。」
真子ちゃんがふわっとボールを投げてくれる。
コントロールもいいし、凄く取りやすい。
「はーい。真子ちゃーん」
「はい。…あの、名前って読んだ方が良いんですか?」
「あ、私たちはいつもそうしてるんだ。その方が安全だしね。今日はどっちでもいいよ」
「分かりました。…希未先輩。」
「はーい。あ、というか、私の名前よく覚えてたね」
「たまたまです。」
「そっかそっか。えへへ、ありがとね。じゃあ真子ちゃん」
私はポイッとボールを投げた。
真子ちゃんは運動が出来るみたいで、どんどん進んでいき、オーバーハンドパスやアンダーハンドパスもすぐに出来るようになった。
「真子ちゃん運動神経いいねー!じゃあ次は……」
「希未ー!今から15分サーブやって、それで今日は終わるよー!」
「あ、紫苑ちゃん!りょーかーい!
えっと、というわけで、今からサーブだって。一緒に頑張ろうね」
「はい。」
「わぁ、アンダーサーブも、フローターサーブも入ったね!真子ちゃん凄い!
でも、バレーは初めてなんだよね?」
「はい、初めてです。」
「そっかぁ、真子ちゃんは凄いなぁ。私なんか、サーブが入るまで1ヶ月もかかったのに。
じゃあ、時間もちょうど良いし、今日は終わろっか」
「分かりました。」
「じゃあ更衣室に行って、着替えておいで。私は皆と片付けをするから」
「…希未先輩、手伝いましょうか?」
「ありがと。でも、部活体験の1年に片付けなんかさせたら、私が怒られちゃうよ。
着替えて、水分補給もしっかりね」
「…分かりました。」
「おつかれー」
「あ、紫苑ちゃん。おつかれさまー」
「あの子、上手だったね。良い子連れてきたじゃん」
「ねー!すっごく上手だった!」
「希未より上手じゃないの?」
「えへへ、かもしれない」
「そこはツッコミ入れてよー」
「えへっ、本当のことだもん。バレー部に入ってほしいなぁ」
「それは希未次第よ。あ、出てきたみたいだから行ってあげて。私の連れてきた子はまだみたいだから」
「うん、ありがと。後は任せるね」
「真子ちゃんおつかれ~」
「お疲れ様です先輩。」
「あ、体操服は預かっとくね」
「洗って返します。」
「気にしないで。私も着たんだから、私が持って帰るよ」
「…分かりました。」
「よしっ、忘れ物はない?」
「大丈夫です。」
「おっけー。じゃあ、今日はここまで!ありがとうございました~!」
「ありがとうございました。」
「じゃあえっと…あ、今日は楽しかった?」
「はい。」
「そう?よかった~!」
言い方は良くないかもだけど、真子ちゃんはあんまり喋らないから、楽しくないのかと思ったよ。
楽しかったみたいで安心した。
「じゃあ、また来てくれる…?」
「はい、また。」
「ホント?ありがと!えっと、2週間は体験期間だから、いつ来ても良いし、来なくても良いからね。自由参加ってやつだから」
「分かりました。」
「うん、じゃあ気を付けて帰ってね。バイバイ~!」
「はい、また明日。さようなら、先輩。」
ふふっ、また明日だって。
無理しなくても良いんだからね~!
「あぁ~!お風呂は気持ちいいね~!」
「お姉ちゃん、おばさんみたい」
「なんだとぅ、失礼な!」
家に帰ってきて、妹とお風呂に入ることになった。
いつも何故かタイミングが被るのだから、仕方がない。
ちなみに妹は小5で、私とは3歳差だね。
「お姉ちゃん、今日はいつもよりテンション高いね」
「そうかな?」
「良いことでもあった?」
「うん、あったよ。部活に凄い運動神経のいい子が来てくれてね。凄く可愛かったんだよ。それに、私のこと先輩って呼んでくれてね~!」
「お姉ちゃんうるさい」
「あ、ごめんなさい。でも、今日は良い日だったの」
「そうなんだ、良かったね」
「あれ、反応が冷たいぞー?もしかして嫉妬かー?」
「お姉ちゃんウザイ」
「あ、お姉ちゃん傷ついちゃったよ!」
「あ、そう」
「反応が冷たいよー!」
「…あ、もうこんな時間か。寝ないとね。
……明日も良い日になればいいなー」
「行ってきまーす!って、真子ちゃん!」
玄関を開けると、家の前の道を真子ちゃんが歩いていた。
「…先輩。おはようございます。」
「おはよう!もしかして、家近いの?」
「はい。通り道です。」
「そうなんだ!じゃあ、学校に行こっか」
「はい、先輩」
なんか、今日も良い日になりそう!




