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転生したら、乙女ゲームの世界の隣国の令嬢でした。  作者: おおとり ことり
星に愛される令嬢と星の威を捨てた青年
17/18

第十七夜 交差する運命

 ベネトナシュは寝台の上で驚愕した。 部屋に入って来たユイリアの姿を見て言葉を失う。


「お見苦しい姿で申し訳ございませんベネトナシュ様。 わたくしはユイリア・エンヴィルと申します」

「ベネトナシュ・アルスハイルです。 こちらこそ、このような状態で……」


 ベネトナシュが起きあがろうとするのを、ユイリアはすぐに止めた。 そして寝台に近づくと、ベネトナシュに幾つか質問をする。


「ベネトナシュ様、痛みのほかに何か異常はありませんか?」

「え、ええ、特には……」

「悪夢を見たりは?」

「ないわ」

「幻聴、幻覚の類は?」

「今のところは……」

「わかりました。 痛みと、傷を癒えさせない。 それがその魔法薬の効果のようですね。 わたくしならば治すことができます」

 

 一体どこからベネトナシュが怪我をしているという情報を仕入れたのだろうか。 夜会で起こった事件は、全て箝口令が出されていたはずだ。 ガトーもベネトナシュと同じ考えを抱いたようで、剣を構えながらユイリアに問う。


「先ほども思ったが、ベネトナシュ嬢が怪我をしていることを、なぜ知っている」

「理由を教えてもきっと信じてもらえないでしょう。 わたくしはこの世界で何が起きるのか、良く知っています。今回、ベネトナシュ様が怪我をすることも知っていました。 さあベネトナシュ様、治療をします」


 この世界で何が起きるのか良く知っている?

ベネトナシュは妙に感情が騒ついた。 未来を見通す能力を持っているのだろうか、それとも自分のように転生した者なのだろうか。


「で、でも、ガトー様でもこの魔法薬を解けませんでした」

「わたくしならば大丈夫です。 お二方は、ティナ国に伝わる、聖女の伝説をご存知ですか?」


 隣国のティナ国、海に囲まれた美しい国だ。 中には海の中に建物がある地域もあり、代表的なものが深海神殿と言われるものだった。

その名の通り海中の奥深くに神殿が存在している。 その中に入れるのは神官と王族、そして千年に一度現れると言われている聖女のみである。

 聖女は海に愛され、その清らかな魔力で人々に安寧をもたらす。 と言い伝えられている。 実際、聖女が現れた年はティナ国は繁栄していたらしい。

聖女は癒しの力に長けていて、治せないものはないとされていた。


「わたくしは、ティナ国の聖女です」

「ユイリア嬢が、あの伝説の聖女……?!」

「はい。 ですので、わたくしはベネトナシュ様の傷を癒せます。 逆にわたくし以外にこの傷を治せる人間はいないでしょう。 このままずっと寝台に横たわっているだけの人生など、悲しすぎます。 どうかわたくしにお任せください」

「待って、どうしてユイリア嬢は私の傷を癒そうとしてくれるのですか? 貴女には、関係のないことでしょう……?」


 治せるのならば治してもらいたい。 だが、ベネトナシュを治療してもユイリアにはなんの利益もない。

ユイリアはベネトナシュの手を握った。 そして切羽詰まったような表情で、彼女の瞳を見つめる。

ベネトナシュはユイリアの瞳を見返した。 琥珀色の少し勝気そうな目だ。 


「あたしは……。 あたしは知っています。 何年もベッドに横たわったまま過ごす日々を。 その傷はいつかあなたを殺してしまう。 そんなの悲しすぎます。 あたしはあなたに生きていてほしいんです! あたしはこの世界のエンディングまで見届けたい、そこにあなたがいてほしい! あなたはやりたい事があるはずです。 あたしと同じように、やりたい事が出来ないまま死んでほしくないんです!!」


 心臓を掴まれたような感覚がした。 前世の、死んだ友との記憶がフラッシュバックして、眩暈がする。

自分にゲームを託して死んでしまった友のこと。 奇跡があると信じたが、その奇跡など無く、なす術もなく死んだ親友。 自分のことを「優香」と、いつも微笑んで呼んでくれた。

ベネトナシュはユイリアを穴が開くほど見つめた。 間違いない、きっとこのユイリアは転生者だ。

自分の、友人だ。

ベネトナシュはわなわなと震えながら、か細い声でガトーへ言う。


「ガトー、さま……。 すこし、席を外していただけますか……?」

「ベネトナシュ嬢……」

「治療には、傷口を見せなくてはいけません……から」


 ガトーは剣を納めると、部屋から出て行った。

部屋の中は二人きりだが、喋ろうとしてもなかなか声が出なかった。 緊張と、驚愕と、いろんなものが混じっていて、口の中が渇いていた。

ベネトナシュは掠れた声になるのも気にせずに、ユイリアに恐る恐る訊ねる。


「……楓?」


 楓、それが死んだ友の名前だった。

ユイリアは目をまん丸に見開いて、そして彼女も手を震わせながらゆっくりと問いかけてくる。


「ゆう、か……?!」


 ああ、やっぱりそうだった!

ベネトナシュは思わず、傷が痛むのも忘れてユイリアを抱きしめた。 ユイリアもベネトナシュを抱き返してくる。 二人は声を出すことはなかったが、お互いしばらく黙って涙を流し続けた。


「こんな、こんなことってある……? 本当に優香なの?!」

「こっちのセリフだよ楓……! まさかユイリア嬢が楓なんて!」

少し短いですが、十七話です。

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