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転生したら、乙女ゲームの世界の隣国の令嬢でした。  作者: おおとり ことり
星に愛される令嬢と星の威を捨てた青年
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第十一夜 夜会当日 〜魔法使いの願い〜

 アルデバラン家中のメイド達が夜会の準備に追われる中、ガトーは一人、自室で本を読んでいた。 

家を出たものの、自室は残されていた。 父と母の気遣いなのだろうが、よくもまあ星の名を捨てた自分にここまで気遣ってくれるものだな。 とガトーは思った。

騒がしい屋敷はもう慣れている。 なんせ子供達が四人もいるのだから、夜会の前はいつもこうだ。

自分のところにも執事やメイドが何人か来たが、一人で良いと追っ払った。 自分につくより他のところに行って手伝いをしたほうが多少はマシであろう。

すると、本を読み耽る彼の自室の扉が、小さくノックされた。 


「誰だ」

「あの、ガラハッドお兄様……。 もしご迷惑でなければ少しお話ししたい事があります、シアでございます」


 珍しい、とガトーは素直に思った。

一番下の妹のシアは、ガトーを怖がっている様子だった。 自分はいつも無愛想だし、仕方がないことだろうと正直諦めていた。 

無論、ガトー本人はシアを嫌っていないし怖がらせているつもりもない。 

半分といえども血は繋がっているし、自分はシアの兄だ。 初めてシアと会った幼い頃は、シアが自分の妹と聞いてやはり嬉しくなったし、妹とはこんなに可愛いものなのかと思った。 出来ればヴィルハーツのように明るく接してあげたいものだが、ガトーには少し難しかった。


「入れ」


 またまた愛想もない声になってしまったが、仕方がないのだ。 シアは恐る恐るといった様子で扉を開けて部屋に入ってくる。


「夜会の準備に忙しいだろう、何の用だ?」

「はい、忙しいです。 ですから、すぐに本題に入って単刀直入に言わせてもらいます、お兄様」


 シアはガトーの座る椅子の正面まで来て、意を決した様に表情を真剣なものにさせる。 ガトーは本を閉じて、椅子から立ち上がった。


「お兄様は、ベネトナシュ様に想いを寄せていらっしゃいますよね」

「……」


 ガトーは、心臓を掴まれた様な感覚に陥って、一瞬だけだが息が詰まった。

妹は、いつもの怯えた様子すら捨てて、ハッキリとこちらを見つめてくる。


「実は、ガラハッドお兄様がベネトナシュ様に誓いを立てているところを、窓から見ました」

「ッ、そうか、あの部屋からは確かに……、丁度見える場所だったな」

「……お兄様、シアは、不思議な気持ちなのです。 ベネトナシュ様のことが、私も大好きです。 皆、仲の良い友人同士ですね、と言ってくださいますが、私は」


 シアはギュッと手を握りしめて、苦しむ様になんとか言葉を吐き出す。


「私は、もし、もし許される世界なのであれば……、ベネトナシュ様とご一緒になりたい。 そんな想いを、密かに寄せておりました。 それほど、好きでした。 今でもこの想いは、もう言い表せないくらいです。 もしも私が男として産まれたのならば、私は間違いなくベネトナシュ様に、真っ直ぐにこの愛を伝えて、周りから何と言われようとベネトナシュ様の手をとって、婚約を申し入れたでしょう。 それほどまでに、愛しています。

 この想いはとうの昔に区切りのついた、諦めのついたものですが、レグルス殿下を想う愛とは、また違うものです」

「そう、か……」


 シアの想いを初めて知ったガトーは、少し嬉しそうに目を細めた。 その姿を見て、シアは確信した様に微笑んで頷く。


「ガラハッドお兄様は、ベネトナシュ様のどこに惹かれたのですか?」

「……初めて見かけたのは、図書館だった。 向こうは俺のことなど知らなかっただろう。 一目で、美しいと思った。 皆が煌星と呼ぶのも良くわかった。 相応しい女性だと。 でも同時に、届かないものだ。 俺の様な男では、星に手は届かない」

「それでも、星はすぐ側にやってきましたでしょう?」

「そうだな。 お前がベネトナシュ嬢を連れて店を訪れた時は心臓が止まるかと思ったよ。 流れ星とはこの事かとも、我ながらユーモアに溢れた事も考えた。

 真近で拝見すると想像以上に美しく、そして繊細で、輝かしかった。 ドレスを創れたのが光栄だよ」

「……お兄様は、意外と饒舌なのですね?」

「よく喋る方だ、本当は」


 ガラハッドはソファに移動して、そこに腰を下ろす。 シアもつられて、対面にあるソファに座った。


「恥ずかしい話、昔はよく祖母に叱られた。 喋りすぎだと。 辺境伯家の男たる者、落ち着きのある姿をどうのこうのって意味のわからんことを言われて、よく鞭で叩かれた。 それがあって、もう自分の意見やら感情やら……。 そう言ったものを表に出すのが億劫になった」

「……? ヴィルハーツお兄様に落ち着きなんて全くないのですが……」

「うーん、アレは……。 俺と同じ様に叱られたのだが、効かなかったらしい。 アイツは鈍感だから、痛みもそんなになかったのかもな」


 ガトーは冗談を言って笑った。 シアは初めて知ったガトーの真実に、神妙な面持ちのまま微笑んだ。


「お前が気にする事じゃない。 祖母との関係はもう切ってある。 フィズとの一件以来、兄貴と父上と俺で何とかした。 だからお前も、いつでもここに帰ってこい、シア」

「えっ……?」

「妹がいないと、やはり寂しいものだろう」

「……でしたら、ガラハッドお兄様もちゃんとこの屋敷に帰ってこなくてはいけないですよ?」

「そうだな、家族が全員揃うのであれば楽しい毎日になるだろう。 シア、言うのが遅くなったが……。 ガラハッドじゃなくてガトーでいい」

「……はい! ガトーお兄様!」


 シアが元気よく言うと、ガトーはフッと笑って彼女の頭を撫でた。 シアはその笑みを見て「ああ、やっぱり」と口を開く。


「ガトーお兄様がベネトナシュ様の前で見せる表情は、やっぱり少し違いますね」

「……わかるのか? そんなに違っているか?」

「はい。 少し照れている様な、でもとても優しい、素敵な表情をしていましたよ。 声もいつもと違って優しかったですし、立ち振る舞いも、今思えばいつもより紳士的でした」

「やめろ、わかったから」

「お兄様」


 シアはガトーの手を握る。 


「お兄様、どうかベネトナシュ様を護ってくださいませんか。 今日の夜会、きっとベネトナシュ様は困ってしまいます」

「守るとは……?」

「スタレイン家のフューリー様をご存知ですか?」

「!」


 スタレイン家。 どこぞの伯爵家だが、ガトーが知っている事はそれだけではなかった。

最近どうも動きが怪しい貴族だ。 他国との貿易を行なっているのだが、帳簿と実際の金の動きが合わない。 この国でしか採れない様な商品も他国に何故か広まっていて、宮廷魔法師の中でも睨みを付けている貴族。 

この事はほとんど出回っていない情報で、知る者は少ない。 当然シアも知らないのだが、それ以外にもあの家には噂が付き纏っているらしい。


「フューリー様は色んな女性に声を掛けて回っているのです。 夜遊びがお好きな方で、前からベネトナシュ様に付き纏ってらっしゃいました。 夜会でも、令嬢に声を掛けては別の部屋に抜け出したりしているようで……」

「ほう……」

「ベネトナシュ様はあまり夜会に出られませんから、今までそんな被害には遭っていないのですが、今日は違います。 フューリー様がきっとベネトナシュ様にお近づきになるはずです。 ガトーお兄様、許せませんよね」

「……わかった、善処する」

「善処では困ります!」


 シアはグイッと身を乗り出してくる。 さすが、ベネトナシュお姉様のこととなると押しが強い。


「お兄様、ベネトナシュ様のことが好きなんですよね?」

「あ、ああ……」

「でしたらもっとグイグイと行っていいと思うのです! ベネトナシュ様はあんなにお綺麗で素敵な方なのです、当然アカデミーでも皆の憧れで、デートのお誘いもたくさん届いています。 ですから! ガトーお兄様ももっと強気で行かないと! 他の誰かに取られてしまいます!」

「わ、わかった。 わかったから落ち着いてくれ」


 妹を何とか落ち着かせて、ガトーは頭を抱えた。 果たして自分に、恋愛ができるのだろうか?

若干不安な気持ちが消えないが、シアに相談するのはやめておこう。 このままだと夜会の準備そっちのけで語ってきそうだし、宿題といってロマンス小説を進めてくるだろう。 間違いなく。


「あ、もうこんな時間……。 急いで準備をしなければ」

「そうだな、お前は時間が掛かるだろうから早く行くといい」

「はい。 ……そうだ! 実はこれをヴィルハーツお兄様に言われて、預かってきたんです」


 そう言ってシアがガトーに差し出したのは、小さな木箱だった。 小さいのに装飾やら光沢を出すための薬も塗られていて、中にはそれ相応のものが入っているのだろうと容易にわかる。

ガトーは木箱を開けると、やれやれと、困った様に微笑んだ。 中に収まっていたのは、アルデバラン家の紋章が刻まれたサファイアの髪飾りだった。 細かく美しい装飾が施されていて、紫の上品なリボンも付いている。


「アルデバラン家の子供たちは皆付けるように、と」

「そうか。 では言われた通りにしよう」


 ガトーは髪が長いので髪飾りなのだろう。 シアは恐らくネックレスの筈だ。 今、彼女が身につけているネックレスがサファイアなので、間違いない。

シアは短くお辞儀をして、部屋から出て行った。 ガトーは立ち上がって、木箱から髪飾りを取り出す。 

鏡で確認をすることなどしない。 そのまま結んでいる髪の根元に髪飾りを挿す。

 長い薄紫の髪を靡かせて、彼は窓に近づいた。 昼の空に輝く星を見上げて、自分に言い聞かせる様に呟く。


「この命に変えても……必ず」

11話です、よろしくお願いします

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