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転生したら、乙女ゲームの世界の隣国の令嬢でした。  作者: おおとり ことり
星に愛される令嬢と星の威を捨てた青年
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第一夜 想起



 全てを思い出したのは、苦手な夜会の最中だった。


 ただでさえ賑やかな場所は苦手なのに、今日の夜会は隣国主催のもので、このベネトナシュという令嬢は来賓として招かれた側だった。

他国の貴族も呼んだ、豪華な夜会。 その筈なのに、何故か隣国の王子が、自分の婚約者との婚約を破棄すると騒ぎ出したのだ。


「ユイリア嬢、貴女との婚約は破棄させてもらう!」

「ど、どういうことですか殿下!? なぜ……! わたくしよりもその田舎者の平民を望むと言うことですか?!」


 第一王子といえど、幼い頃から決められていた令嬢との婚約破棄など、辺りは蜂の巣を突いたように大騒ぎだった。 騒然とする会場を、ベネトナシュはうんざりとした様子で見ている。


「一体何がどうなっているのか……。 まさか、アウローラの星詠みを招いた夜会で婚約破棄を言い渡すなんて」


 ベネトナシュの隣にいた青年は、怪訝そうな表情のままテーブルにグラスを置いた。

青年の名はアルファルド・ブランシュ。 年齢はベネトナシュの一つ上だが、幼い頃から兄妹のように仲が良い。

そしてアルファルドのそばには、彼と同い年のカストル・エフラーという青年がいる。 カストルも二人の幼馴染で、同じく来賓として招かれていた。

 アウローラの星詠み。

星都アウローラという国は、大きな浮島に存在している。 どの国よりも星に近く、昼間でもその輝きが消えることはない。 アウローラでは星の輝きを道標に、国の政治を執り行っていた。 

そして星の力を借り、星を詠み、星の魔法を使える三つの貴族達は、その力で王族と国に貢献していた。

 星の聖なる光を以て、災いを封じる魔法を扱うブランシュ家。

 星の清き光をもって、穢れを祓う魔法を扱うエフラー家。

 星の気高き光をもって、先を見通す魔法を扱うアルスハイル家。

その三つの貴族をまとめて、アウローラの星詠みと皆は呼ぶ。 そしてここにいる三人は、そのアウローラの星詠みの、言うなれば跡継ぎ達だ。

 夜空のような綺麗な群青の髪が良く映える、アルスハイル家の一人娘であるベネトナシュは、婚約破棄を言い渡されたユイリア嬢を見た。

 ユイリア嬢は隣国であるティナ国でも高い地位を築いた貴族の令嬢だ。 品も良く、美しい顔立ちをしている。 性格こそ少しキツイものの、未来の王妃にはこれほどまでにふさわしい人間はいないだろう。 

ユイリア嬢自体はそう思ってはいない様だが、周りの貴族や国民達は、ユイリア嬢を高く評価していた。

だからこそ、今回の婚約破棄が異常事態すぎるのだろう。 


「ティナ国の第一王子は聡明な方だとお聞きしていましたが……、婚約者が気に食わず、別の方に恋をしたという、こ、と……」


 ベネトナシュが呆れた様にため息を吐きつつ、ふと第一王子の腕に抱きついている女性をみる。 そして息が詰まった。 

珍しい黒の髪に、灰色の瞳。 守ってあげたくなる様な見た目の女性は、見覚えがあった。 いや、会ったことはない筈だ。 ここは自国のアウローラではなく、よその国。 あんな女性など会ったことも、噂に聞いたことだってない。 

 だが、知っている。 見たことがある。

そうだ、私はあの女性「だったことが」あるんだ


「ッ!」


 最初は刺す様な痛みが頭に奔る。 それは徐々に頭を揺れ動かす様な鈍痛に変わって、自分のものではない記憶が流れ込んでくる。

 病室のベッドの上、横たわった友が自分に差し出してくる。 どうしてもやりたかったけど、間に合わないから、あなたが代わりに。 と言って差し出す封筒。 


「ま、まだわからないかもしれないよ。 大丈夫だよ、きっと絶対、何か奇跡が……」

「ううん、無理だと思う。 だから、優香にやってほしいの。 おねがい」


 ゲームなんてやらない人間だったが、余命まもなくの友の願いを叶えてあげたくて、そのゲームの発売日まで待った。 

告げられた通り、ゲームが発売される一ヶ月前に友はその世を去ったが、自分は涙を堪えながら、友の願ったゲームをプレイした。

一人の平民の女の子が、慣れないながらも魔法学校に通って、イケメンやら美女を攻略するゲーム。 いわゆる乙女ゲームだ。

 そう、ベネトナシュこと優香は、この乙女ゲームの世界に、転生してしまったのだ!

この……タイトル名は忘れてしまった、うろ覚えのゲーム内容しか覚えていない世界に!

 ゲームに慣れていなくて登場人物の名前さえろくに覚えていないし、記憶も朧げにしか思い出せなかったが、ひとつだけわかることがある。


「ち、ちがうわ……。 舞台となった国の、隣国の、しかも登場すらしてない令嬢に、転生……してる……!」


 ああ、意味がわからない……。

ベネトナシュはピークを迎えた頭の痛みに、意識を朦朧とさせながら、持っていたシャンパンの入ったグラスを置こうとする。 が、手が震えていて上手く動かず、グラスは大理石の床に落ちて、大きな音を立てて割れた。


「ベネ?! おい、しっかりしろ、ベネ!」

「ベネトナシュ! 大丈夫?!」


 幼馴染二人の声は、そこで途切れていた。

第一話です、よろしくおねがいします

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