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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スキル『祝福:譲渡』で仲間を支援していたがこの先付いてこれないからと追放されたけど、実は『祝福:譲渡』ではなく『呪詛:闇金』だったので貸したものは耳を揃えて返してもらいました。その後の捨てた側の話

作者: サイキライカ

アッシュを追放したクラン『赤光』一行。

彼等は最初の一歩として国よりゴブリン退治の命を受けた。

 ゴブリンとは、体長120センチ程度の小柄な体躯の子鬼とも呼ばれる緑色の肌に醜悪な顔立ちの魔物である。

 知性は獣よりはあるが人や高位の魔物とは比較するのが失礼なほど低く、かつ性格は臆病で卑小ながら残忍と持ち上げる要素は何一つない害獣である。

 主に洞窟や廃棄された廃坑や忘れ去られた古い遺跡などに住み着き、『赤光』が訪れたのもそんな廃坑の一つであった。


「ここの広さだと剣はまともには使えねえな」


 体躯のあるカールマンが屈まずとも入れる程度には広げられた廃坑の入り口から奥を覗き込み、入り口から見える範囲をざっと改めてそう零した。

 広さはおよそ人がぶつからずにすれ違える程度しかなく、ゴブリンなら問題ないが人間が切った張ったをしようとすれば壁に武器を打ち付けてしまうだろう。


「中が狭いなら上位種のホブがいる可能性はほぼ無いだろう」


 ゴブリンの中で稀に成人男性とも遜色無い程に成長したホブゴブリンと呼ばれる個体が発生するが、性格はゴブリンと変わらないので仮に居たとしてもこの廃坑の狭さからとうに出ていっているだろうと予想できた。


「メリッサ。先行してマッピングを頼む」


 『暗視』のスキルを持つメリッサなら松明などの照明器具を持たずとも坑道内で問題無い事と夜行性のゴブリンの生態から単独の方がリスクは低いと判断してそう支持を出す。


「面倒臭え。全員で行きゃあいいだろうに」

「ハッ、無駄に駆けずり回りたいってなら勝手にどうぞ」


 カールマンにそう嫌味をぶつけメリッサは一人廃坑内へ侵入する。

 トロッコを移動するのに使っていた撤去されたレールの痕跡を追って先へと進みながらメリッサは坑道について推察する。


(思ってたより狭いわね。

 それにかなり入り組んでる)


 ゴブリンが住むには適しているが、同時にかなり厄介だとも思った。

 これだけ入り組んでると影に潜んでの奇襲もしやすく、予想通り上位種がいなくともゴブリン如きと舐めてかかった間抜けな冒険者なら返り討ちに合うかもしれない。


(ま、私はそんな馬鹿とは違うけどね)


 勇者一行と認められた自分がそんな間抜けを晒すわけが無い。

 アッシュから取り上げた敏捷を活かしトールと共に魔王を討伐する。

 そして討伐した後は…


「なっ!?」


 フッ、とまるで昭明を消したかのようにメリッサの視界か闇に覆われた。


「何っ!? 何が起きたの!!??」


 ついさっきまで『暗視』により昼間と変わらずに見えていた景色が消え去りメリッサは状況も忘れパニックに陥り喚き散らす。

 ある意味致し方ない話だ。

 メリッサは『暗視』を得てからこれまで、見通すことの叶わない暗闇は他人事になっていた。

 人間は忘れる生き物だ。

 それ故に今日まで暗闇の不安と恐怖を取り除かれ続けていたメリッサは、忘れていた何も見えないという恐怖にアッサリと取り憑かれた。

 その上でメリッサは、()()()()()()()()()()さえ忘れていた。


「アガッ!?」


 ガツンッ! と硬い何かが後頭部を強かに打ち付け、その痛みからよろめいた所で更に強い衝撃が脛を打ち抜いた。

 堪らず転倒したメリッサに何者かが覆い被さってきた。

 その何者かの正体は言うまでもない。

 喚き散らしたメリッサに気付いたゴブリン達であった。


「キャアッ!?」


 悲鳴を上げるメリッサにゴブリンは怒りのまま棍棒とも言えない棒切れを何度も叩きつける。

 寝床で気持ち良く寝ていたところを金切り声で叩き起こされたゴブリンからしてみれば、闖入者に報復するのは当然だ。

 

「ぎっ…あごっ…!?」


 メリッサにとって唯一幸いだったのはゴブリンが寝起きで気が立っており、彼女を人間の雌だと気付かなかったこと。

 何度も何度も棒で叩かれたメリッサは、つい先程馬鹿と嘲笑った駆け出しの冒険者のようにアッサリとゴブリンに殺された。

 

 自分の身に何が起きたのか知ることもなく、ゴブリンにさらわれた女性が辿る最悪の末路を味わうこと無く死んだ事は、メリッサにとって唯一の救いであったことだろう。

  


〜〜〜〜



 メリッサが先行してから既に30分は過ぎた。

 

「随分遅いな?」


 マッピングに時間がかかっているにしても、アッシュから『敏捷』を『貸与』という形で巻き上げたメリッサにしてはあまりにも時間が掛かりすぎている。

 ゴブリンの頭数が少ないと見て先に手を出しているか、はたまた想定外のトラブルで戻れずにいるのか。

 後は、考え辛いがゴブリンと舐めてかかってしくじったか…。


「何かあったと見るべきでしょうか?」


 そうアンジェリカがトールに問うも、トールは聞いていなかったようで嫌に苛立たしげに唾を吐いた。


「何をやっているんだあのノロマは!?

 たかがゴブリンに何をグズグズとっ!?」


 なんだ?

 トールの野郎、今日に限っては随分歯に絹着せないで喚いてやがるな。

 

「どうした?

 妙に苛ついてんじゃねえか?」


 探りついでにいつものように絡んでみると、トールは露骨に俺を睨みつけた。


「お前もお前だ。

 俺の盾に以外の役に立たない屑の分際で何を偉そうにほざいている!

 汚らしい口を開いている暇があるならさっさと連れ戻してこい!!」

「…おー、怖」


 やっぱりおかしい。

 トールが俺を見下しているのは知っていたが、機嫌を損ねるのは言うまでもない話だから面を向かってああも言う事はして来なかった。

 その異様はまるで別人…いや、普段から被っていた分厚い面の皮を貼り忘れているように見える。


「んじゃあまぁ、ちょっくら迷子猫でも探してきましょうかね」

「私も行きましょう。

 もしかしたら怪我をしているかもしれませんから」


 坑道内では邪魔になるからと鞘を外しているとアンジェリカがそう提案してきた。


「駄弁っていないでさっさと連れ帰れ!

 序でにゴブリンも始末して来い!」


 後ろで好き勝手ほざいているトールに適当に相槌を打ちながら俺は棍棒兼用の松明を灯して坑道へと入る。


「トールはどうしたのでしょうか?」

「さあね」


 余程の大声でもなければ外にまで響かないだろう辺りに差し掛かった所でアンジェリカはそう尋ねてきた。


「昨夜も特に変わりなく()()()()()()()()、カールマンも普段通りのうざ絡みでしたよね?」


 キャンキャン煩いメリッサもだが、口の悪さではアンジェリカも大概だと改めて思う。


「まぁ、ちょうどいいサンドバッグを手放して機嫌が悪いんだろ」

「他に思い当たりませんしね」


 此方としてはステータスを奪われたアッシュが残るとゴネないよう手を回していたってのに、最後の最後で嫌がらせをしてくれやがった事には言いたい事があるが、しかしそれも後の祭り。


「…っ!?」


 と、奥から漂う空気に血腥い匂いが混じってきた。


「アンジェリカ、スキルの準備を」

「…はい」


 同じく血の匂いに気づいたアンジェリカがそう応じたのを確かめてから警戒を絶やさず奥へと急ぐも、しかし見えた光景は予想していた中でも最悪の物だった。


「なんという…」


 久しぶりの()()()()にありつけたゴブリン共は俺達に気づく素振りもなく、グチャグチャに引き裂かれたメリッサを喰っていた。

 ゲタゲタと醜悪に笑いながらメリッサから引きずり出した腸に被り付くゴブリン共に、俺は迷わず地面を蹴った。


「オラァッ!!」


 手近な一匹目掛け握った松明で横薙に殴り付ける。

 殴ったゴブリンは全身の骨を砕かれながら壁へと叩き付けられそのまま汚い染みに成り果てた。


「引くぞアンジェリカ!!」


 ここ迄やれば流石にゴブリン達も俺達に気付く。

 ギャアギャアと喚き散らすゴブリンに構わず来た道を引き返そうとするが、しかし、


「離しなさいケダモノ共!!」


 遅れてきたらしいゴブリン共に背後を突かれたらしく数匹のゴブリンがアンジェリカにしがみつき厭らしい笑みを浮かべてその服を引き剥がそうと躍起になっていた。


「ちぃっ!?」


 アンジェリカを見捨てればゴブリン共を殲滅するのは難しくはない。

 しかし曲がりなりにも同じクランの仲間を見捨てるのはありえない。


『Gagyaa!!』

「喧しいっ!!」


 助けようとしたのを隙とみなして背後を突いてこようとしたゴブリンに裏拳を叩き込んで沈め、更に襲い掛かってきた2匹を松明で殴り潰す。

 服が引き裂かれる音と共にアンジェリカの悲鳴が聞こえるが、ミイラ取りがミイラになるわけには行かないと全てのゴブリンを殲滅する事に集中する。

 ゴブリンの殲滅はすぐに完了したが、しかしその間にアンジェリカを連れ去られてしまった。


「不味いな…」


 打ち捨てられた修道服の残骸を前に俺は一度戻るか否かの選択を迫られる。

 戻ってトールと合流しない場合、ゴブリンの駆逐は難しくない。

 坑道の出口は一つしかないからしびれを切らしたトールが何処かに行っていなければ取りこぼしが外に逃げようと奴が始末するだろう。

 だが探索の専門でもない俺一人では先のように背後からの不意打ちのリスクは高く、最悪俺もメリッサの後追いになるかもしれない。

 トールと合流して二人で挑めば不意打ちのリスクは下がるが、ゴブリンを取りこぼす可能性は高くなるし、なりよりアンジェリカが確実に()()()()()()()()


「…仕方ねえ」


 アンジェリカにしても死んだら死んだでそれまでだとは思っているが、分かっていて見捨てるのは()()()()()()

 それに、アンジェリカにはまだアッシュのステータスを返して貰わねばならないのだから、早々にリタイアされても困る。

 戻らずに警戒を維持できる範囲で出せる最大の速度で坑道を急いだ。



〜〜〜〜



 結果だけを語る。

 俺は結局間に合わず、アンジェリカの肚はゴブリンに()()()()()

 一度でもゴブリンの精を受けた女の肚は人間畜生問わず二度とまともな子は産めなくなる。

 仮に子が産まれてもその赤子はゴブリンか、ゴブリンでなくとも奇形児になりまともな生は望めない。

 流石にゴブリンにレイプされたのは堪えたらしくアンジェリカは精神の均衡を失い、立って歩くことさえままならなくなっていた。


「流石に笑えねえな」


 そうぼやき、背中から聴こえる呻き声に耳を貸さぬように務める。

 アンジェリカを背負い途中でメリッサのステータスプレートを回収して外に出た俺に、トールは邂逅一番怒鳴り散らした。


「たかがゴブリンに何時まで掛かっているんだ!!」


 取り繕う気など無い様子で癇癪を起こすトールに、いい加減辟易しながら遺品を突き出す。


「メリッサは食われてた」

「ハァ?」

「序でにアンジェリカもゴブリンに()()()()てリタイアだ」

「ふざけるな!!」


 喚くなりトールは突き出した手を叩き落とし、地面に落ちたメリッサのステータスプレートを何度も足蹴にしだした。


「せっかく俺が目に掛けてやってやったのにゴブリン如きに殺されただと?

 どうせ死ぬなら俺の盾になって死ねば良いものを!!」


 …呆れて物も言えないとはこういう事か。

 ガキでももっとマシな態度が出来るだろうと思える無様さを見せていたトールは頭をガリガリ掻き出すと妙案とばかりに()()()()()口にした。


「ゴブリンにヤラれたなんて誰に言えるものか。

 おい愚図。そのアバズレも殺せ」

「は?」

「分からないのかデクノボウが。

 そいつも一緒に始末して全部あの役立たずが殺したことにするんだよ」

「……」

「ああ、序でにメリッサに殺らせた仕事も全部役立ばぶっ!!??」


 あ、本気でムカついたんでつい全力で殴り抜いちまった。

 しかし妙だな。

 殴った感触は妙に柔らかかったし、ぐちゃりと潰れた顔面の様子はトールの耐久の値からしても潰れすぎているように見える。

 

「……つうか、死んじまったか?」


 ビクビクと危険な様子で痙攣するトールに、しかしもうどうでもいいかと一言告げてアンジェリカを背負い直す。


「お前、つまんねえから辞めるわ。

 せいぜい一人で頑張れよ」


 そうして俺は麓の村へと足を向けた。

 

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