勇者の僕が大魔王と呼ばれるようになるまで
「君には勇者になる素質がある」
旅の賢者が村に立ち寄った際、僕にそう言ってきた。
勇者と言われても僕にはあまりピンと来なかったけど、両親や村の皆は大いにそれを喜んだ。
「オルカは勇者になるの?」
「……わからない。でも、そうしなきゃいけないみたいだ」
村の皆は、僕が勇者になると決まったかのように騒いでいる。
僕に選択権はないように思えた。
「……オルカは、どこかへ行っちゃうの?」
「そんなの、嫌だよ。僕はソシエと一緒にいたい」
「でも、勇者になるんでしょ?」
「そうだ! お前は勇者になるんだ!」
僕とソシエの話を聞いていたのか、会話に割り込むように父さんが現れる。
父さんは僕に有無を言わさず、賢者についていけ行けと命じた。
ソシエともそれっきり会わせてはもらえず、僕は賢者と旅に出ることになった。
賢者との旅で、僕は戦う術を学んだ。
どうやら僕には本当に勇者の才能があったらしく、剣も魔法も、驚くほど簡単に覚えていった。
そして旅に出てから5年経ち、ついに僕は魔王と対峙することとなる。
魔王は強かった。
仲間はみんな倒れ、僕も瀕死の重傷を負った。
それでも、僕はなんとか魔王に勝利することができた。
「見事だ、勇者よ……。我を倒した褒美に力をくれてやろう」
「そんなものはいらない」
僕の望みは、世界を平和にし、ソシエと一緒に村で普通の日々を送ることだ。
「そう言うな。必ずお前の役に立つはず」
魔王はそう言い残し、灰となって消えた。
魔王が僕に渡した力とはなんだったのか。
僕はそれをすぐに知ることとなった。
「……どうして」
村は滅んでいた。
家屋は損壊し、田畑は荒れ果て、生きている者はどこにもいなかった。
ここで何が起きたのか? それは魔王から貰った力が教えてくれた。
『真実を見通す目』
その目を通して映し出されたのは、村を蹂躙する王国の兵士達の姿だった。
食物を食い荒らし、女を貪る彼らの心は、ただ欲望に溢れていた。
そして、その毒牙はソシエにもおよび……
僕は何故そんなことをしたのか、王へ問いただした。
王はそんなことはしていないと言ったが『真実を見通す目』が全てを教えてくれた。
どうやら、僕があの村の出身であるという事実に不都合があったらしい。
国を救ったのは、王家の人間であるとしたかったようだ。
僕は王の首を刎ねた。
『真実を見通す目』で見た、国中の下らない人間共の首を全て刎ねて回った。
そうしていつしか、僕は大魔王と呼ばれるようになっていた……