第一話 新しい生活が始まる
「いってきまーす!」
今日は入学式。そして晴れて高校1年生。新しい生活にワクワクして昨日はなかなか寝付けなったなんて友達に言ったら笑われるだろうなぁ。なんて考えながら家を出る。
後ろから
「翔平、気をつけるのよ!」
と言う母の声を聞きながら、高校生としての第一歩を踏み出す。
中学校の時と何一つ変わらない登校経路。もちろん高校生になったからといって迷うはずもない。
白金町から一本道を進めば学校の校門が見えてくる。
『清教中学高等学校』と門の上部に刻まれた名が、今まで数えきれない生徒を歓迎し、そして見送ってきたのだろう。
いつもは何も考えずに校門を横切っていたけど、改めて高校生になった今この門を見ると、なんだか少し大人になった気分になる。
そういえば、この門をしっかり見るのは中学校の入学式以来だな。
翔平は改めて思い返した。そう考えると、少しは大人になったのかな。
そんな事を考えながら、校舎へ足を伸ばした時、後ろから聞き慣れた声がした。
「おーい!しょーへー!伊藤翔平くーん!」
「おお、祐司!おはよう!」
祐司は小学校の時からの幼なじみで、中学校は3年間同じクラス。小・中学校で一番仲が良いのは祐司だった。
「なんか高校生って新しい事が多くてワクワクするよなー」
友達に言ったら笑われるなんて思ったのに、我慢できずに声に出してしまった。
「翔平、何言ってんの。中高一貫校だから何も変わらないじゃん。変わるとしたらクラスと先生くらいじゃないか。転校生が入ってくれば別だけど、早くクラス組分け表見にて教室入らないと遅刻するぞ」
「ああ、そうだな!楽しみだな!」
そう、清教中学高等学校は中高一貫なので、中学校と高校の最寄駅や場所は何一つ変わらない。
強いて言えば、高校校舎が中学校校舎より学校敷地内の階段を登った際にあるので、登校時間がほんの少し伸びたくらい。
なのにこんなにワクワクしているのには大きな理由があった。
「どうせ幼なじみの葵ちゃんのことが気になってるんだろ?」
祐司はニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「ちょ、バカ、声がデカいよ」
翔平は赤い顔をしながら周りを確認して一息つく。
「誰か知り合いがいたらバレるだろ。お前にしか言ってないのに!」
「大丈夫だって。俺だってそこは気をつけてるよ」
「お気遣いありがとよ!」
お返しとばかりに祐司の頭に軽く拳を振りかざして、一緒に高校校舎の入り口に向かった。