第八話 勿忘草和乃香という教師
よく地の文が主人公目線で、一人称を使って書いている話があるけど、モブキャラを一人称としてしまってもいいのか疑問になる。
統一するべきか場合によって使い分けるか、迷いどころ。
杉高の校舎はカタカナの『コ』の字のような作りになっており、正門を入って直進すると中庭が見えてくる。
中庭の奥にあるのが中央棟、そして左右に西棟と東棟があるといういたってシンプルな構造だ。
音那詩シヲリとハイラント・エアレーザーという勇者を名乗る少女は中庭を抜けると、入ってすぐのところに事務室がある正面玄関へ着いた。
彼女らふたりの後ろから少し距離を置いて男がひとりが歩いてきているが、彼はただの通行人なのだろうか。
杉高の制服を着ているので生徒なのは間違いないが、前を歩くふたりとは特に関係のない人物のように思われる。
「ここで靴を脱ぐのだけど……」
音那詩は勇者の足元を見て言葉を途切れさせた。
そこには蔦のようなデザインの彫刻が施された頑丈そうな鉄の靴があった。
ドラマとかで靴底に鉄板を入れてるキャラクターを見ることはあっても、現実世界でこんなものを履いている人などそうそういない。
「ほぅ、土足厳禁であったか。では……」
脱いだ靴を持って固まっていた音那詩を見て、勇者は彼女に倣って装備を外すことにした。
「装備『鉄の靴』を外しますか? はい!」
謎の掛け声とともに勇者は靴の留め具を外す。
……今のなんだろう? そばで見ていた音那詩と、ふたりと同じように靴を脱いでいた少年が心の中でハモった。
「私の下駄箱こっちだから、二階の職員室前でまた会いましょ。コウ先輩、よろしくお願いします」
「お、おう」
ふたりの後に続いていた男はどうやら連れだったようだ。彼は突然声をかけられて驚いたのか、挙動不審な様子でどもり気味に返事をした。
棟が別なため音那詩と一旦別れて、勇者と生徒Bは二年生の下駄箱のある東棟の二階へ向かった。
「えっと、これ来賓用のスリッパだから。取り敢えず履いとけよ」
上履きに履き替えた生徒Bは、緑色の表面に金色の文字で『来賓用』と書かれた靴を勇者の足元にポンと置いた。
「おお、感謝する。裸足で歩くにはこのダンジョンの床は冷たいからの」
勇者は重そうな鉄の靴を身体の前に抱えたまま首を傾げ、足元を確認しながらスリッパに足を滑り込ませた。
「『スリッパ』を手に入れた! 装備しますか? はい!」
「それいちいち言う必要あるの?」
「もとの場所では誰かが勝手に言ってくれたのだが、このステージに来てからとんと声を聞かなくなってしまったのでな。仕方なく自分で言ってるのじゃ」
必要性のところに言及してくれていないので、いまいちピンとこなかったが、音那詩も待っていることだしと生徒Bはそれ以上追求しなかった。
ガシャッガシャッという衣擦れ、もとい鎧擦れの音を廊下に響かせながらふたりが職員室に到着すると、すでに音那詩が室内を覗き込んで誰かを呼んでいるところだった。
「待っててね、今手伝ってくれそうな先生を呼んだところだから」
音那詩の優しそうな微笑みを向けられて勇者が「おう!」と笑い返し、生徒Bが緊張した様子で萎縮していると、職員室の引き戸から見た顔が現れた。
「どうした、音那詩。あら、このふたりは?」
膝下までのひだが細かい紺色プリーツスカートに白のトップスを合わせ、上から夏用の薄いカーディガンを羽織った長身の女性。
彼女は社会科担当、勿忘草和乃香。生徒Bの担任だ。
9月17日。実は一話から五話までを書き直し、話が四つ分にしかならなかったので空いた部分を前に詰めました。次話の前書きにも書くつもりです。もう読んでくれてる人には迷惑をおかけしました……m(._.)m




