第六話 音那詩シヲリの提案
数分経って、音那詩シヲリは戻ってきた。
白いTシャツにくしゃくしゃっとシワ加工が施された水色のワッシャープリーツのスカートという、夏らしい涼しげな格好だ。
身長が高いためかふわっと横に広がるスカートも野暮ったく見えず、清潔感といい清楚な感じといいとてもよく似合っている。
多分、着物とか着せれば取巻きができると思う。
「おまたせ〜」
「お、おう。はい」
変わらず生徒Bの応対はぎこちなかった。
同じ高校に通っている上に同じ学生寮の隣の部屋に住んでいるため、通学やらゴミ出しやらで何回か見かけたあるのかもしれない。あんまり覚えてないけど。
けれども、結局はそれだけの関係だ。到底家に上がらせてもらう間柄ではないし、こんなにフレンドリーにされても正直ついていけなかった。
「おお! シヲリ、とっても似合っておるぞ!」
なるほど、横の勇者は別だった。人懐っこいのか馴れ馴れしいのか、プラスの表現を使えばいいのかマイナスに捉えて貶した方がいいのか、生徒Bには分からなかった。
「ありがとう……えっと、ごめんなさいね。まだ名前を聞いてなかったのだけど、」
「我はハイラント・エアレーザー。このステージではあまり知られておらぬようだが、歴戦の勇者じゃ!」
勇者が自己紹介をした途端、音那詩は目を丸くして頭にハテナを浮かばせた。そしてギギギッという錆びたものの効果音がしそうな具合で生徒Bの方へ目を向けた。
そんな顔されたってこっちも困るんだが。上手く説明できないのと、あと可愛すぎて眩しいっていうふたつの意味でな。
「えっとそれで、さっき交番に連れて行くとかなんとか言ってたけど、先輩はどういう経緯でこの勇者さんと?」
話を聞くからと家に招き入れたものの、なにから聞けばいいのか分からず、取り敢えずと音那詩はそんなことを尋ねた。
「あ、えと。俺のことは先輩なんて呼ばなくていいというか、その……」
緊張して上手く話ができなかった。そもそも質問にすら答えていなかったが、それでもまず先輩という呼び方だけは回避しなければならない。
年下の清楚系美女から「先輩っ」なんて上目遣いで呼ばれるのは主役の特権だからだ。
あれ、そんな言い方してなかったか? というか上目遣いでもなかったな。
やばい、難聴だ。眼科の予約も取らなくては……!
「これはコウちゃんじゃ! 卑屈で洞窟に閉じこもってるゴブリンみたいなやつだが、悪いやつではおらぬから心配はない。気楽に話してくれて構わぬぞ!」
「コウちゃんは非公認だっての! あとゴブリンってなんだゴブリンって」
ふたりのやりとりを見て少し安心したのか、音那詩は口に手を当てて静かに笑った。
「分かった、ありがとう。でもそっか、コウ先輩と勇者さんは仲が悪いわけではないみたいね。喧嘩かと思って声をかけたのだけど、どうやら杞憂だったみたい」
なんてことだ。「コウちゃん」と「先輩」が定着しつつある……これではモブキャラ異端審問にかけられてしまうではないか! まぁそんなものないけど。
……え、ないよね? もしかしてこれやばいやつ? 明日死ぬんか?
「まぁなんというか、結構複雑な事情で。俺自身、信じられない話なんだけど……」
そう前置きをしてから、モブの異端者はこれまでのいきさつを説明し始めた。
生徒Bや先輩Bどころか、妄想患者Aという最早キャラの濃いモブ認定されてもおかしくなかったが、音那詩シヲリは真剣に話を聞いてくれた。
うんうんと相槌を打って、たまにニコッと笑ってくれる。こんな優しい聞き手相手ならいつまでも話したくなってしまうが、特に盛り上がる話題もなければ、コミュニケーション能力もない。
一方的な説明でしかない少年の話はすぐに終わってしまった。
「なるほどね。じゃあこの勇者さんは住所不定で、コウ先輩のところに泊めるわけにもいかないから交番に行こうってことか」
「そう、そういう感じ」
「そういう感じじゃ!」
音那詩シヲリは握った拳を口元にそっと当てて、うーんと考え始めた。そしてふと、ローズゴールドで縁取られた左手の時計へ目を落とし、文字盤を確認した。
「ふたりとも、これから学校来れる? 手伝ってくれるかもしれない人を知っているのだけど」
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