第四話 申請を却下します
「思い立ったが吉日」ならその日以降はすべて凶日。
好きな言葉の一つがこれなんだけど……やっぱ投稿し始めるのはもっと書き溜めてからにすればよかったかななんて思ってしまう弱い自分がいる。
頑張ります。
「それでだコウちゃん。我はこのステージをクリアして……」
こいつはなにを聞いていたのだろう。
断るとはっきり言ったそばからこれだ。
どうやらこの勇者は人の話を聞かない類いの人間らしい。
生徒Bは、テーブルの端っこにティッシュボックスと並べて置いてあった赤べこを手に取った。
可哀想に。赤べこも勇者の傍若無人っぷりに萎縮しているようで、少し動かせば揺れるはずの首も微動だにしない。
にしても、この少女は本当に自分が勇者で、ハイラント・エアレーザーなどという偏差値の低そうな名前だと思っているのだろうか。
最初はただの厨二病患者かと思っていたが、どうもそうではないらしい。
正直なところ彼女が本当のことを言っているとは到底思えなかったが、改めてその風貌を見てみると、コスプレにしては材料や重量感がかなりリアルだった。
大きな薔薇の紋章が胸のところに嵌め込まれた鎧。
金属特有の光沢。
お腹や腕の部分から見え隠れしている鎖帷子は、ジャラジャラと重みのある音を立てている。
それでもやはり、彼女の話すこと全てを鵜呑みにできるわけではないが。
「そこで我はコウちゃんに、このステージの攻略方法を聞きたいのじゃ!」
どうやら聞く耳を持たないのは自分も同じことのようだ。
いつの間にか話が進んでいたようだが、エアガンだかレーザービーム勇者だかがなにを質問しているのか、生徒Bには微塵も見当がつかなかった。
「ごめん、なんの話だっけ?」
「だから言っておるだろう。我がこのステージをクリアしてもとの世界に戻るために、力を貸してほしいと」
数秒のラグがあって、生徒Bは勢いよく立ち上がった。
その際テーブルに足をぶつけたため、乗っていた空のコップがゴトンと倒れた。
「俺にできることならなんでもしよう! さあ、帰り支度を始めるんだ!」
今までにない笑顔で言われ、勇者は少し戸惑ってしまう。
「な、なんか早く帰れと言われている気がしておるのだが……まぁよい。して、攻略法はどんなものじゃ?」
「それはだな!」
自信満々に言葉を始めるも次の言葉が出てこず、生徒Bは演説をする政治家のような体勢のまま黙り込んだ。
しまった……このアブノーマル・ガールを追い払うことに気持ちが急いて、具体的な案なしで啖呵を切ってしまった。
これでは竜頭蛇尾、いや。もはやただの竜の生首ではないか。
「なんだ、なんの策もないと言うのか?」
むむぅーっと頬を膨らませた勇者がこちらを睨んでくる。
やめろ、可愛いから。
「ていうか、攻略だとか策だとかって具体的になにをするって話か? そんなもの別にないと思うんだけど」
「あてもない探索や謎解きは冒険の醍醐味じゃ。しかしどのステージにもあるじゃろ? クリア条件となる目的やゴールが」
完全にゲーム感覚で話されても困るが、ひとまず彼女の言うゴールや目的について生徒Bは考えてみることにした。
「平穏な生活を送ることだな」
「ほぅ?」
「誰からも見向きもされない代わりに、揉め事に巻き込まれることもない。人間が持つ妬みや蔑みといった悪感情とも関わらずに済む。そんな生活を目指してコツコツとモブキャラとしての徳を積み、ゆくゆくは熟練のモブキャラとして世界に羽ばた」
「そんなのつまらぬ!」
話の腰を折られた上に全面否定されて生徒Bは少しむっとしたが、勇者はお構いなしに言葉を続けた。
「我が求めているのは熱く血の滾るような冒険じゃ! バトルじゃ! 勝利じゃ!」
「お前の燃料は闘争本能か」
ダメだこいつ、一番関わりたくない部類の人間だ。
競争とはつまり誰かとなにかにおいて勝負をすること。
それは、背景に溶け込んで静かに暮らすというモブキャラの目的に逆行する。
そして目的を違えた人たちは、上手く妥協案を作るか、別れてそれぞれの道を行くしかない。
話が俺とこの勇者の場合、後者の選択肢が最適解と見える。
なにか、なにかこの勇者を追い払う手立てはないものか……。
「まったく、コウちゃんは特殊過ぎて埒があかぬの。同じ年頃、もしくは同じ職種の人間はどんなことを目的にしておるのじゃ?」
「え、あー……」
同じ年頃、同じ職種といったら、高校二年生か。
尚且つモブキャラの生きる目的が御所望でないというなら、おのずと焦点は主役の人間に当てることになるだろう。
生徒Bは自分とは真逆の人間について考えてみることにした。
すなわち、友達が多かったり陽キャラと呼ばれたりする類いの、俗に言う『青春』をしている人間だ。
「充実した高校生活を送ることかな、多分。友達を作って一緒に遊んだり、勉強を頑張ったり、あとは……恋人を作る、とか?」
「ほぅ、恋人か!」
「そう。学校帰りに一緒にどこか寄り道をしたり、休日に出かけたり……手を繋いだり、とかさ?」
あれ、なんだこれ? なんか言ってて恥ずかしくなってきた……!
いや、落ち着け俺。
これは単に青春している人間の特徴を並べているだけであって、別に内なる願望だとか、心の奥底に眠る期待とかではない。
そうだ、自己暗示にかかりそうになってるだけだ。
なにしろ俺が望んでいるのは、平穏な日々であって……。
焦り気味の生徒Bは心を落ち着けようと、コップに残っていたお茶を一気に口に含んだ。
「そうか! なら我はコウちゃんと恋人になるぞ!」
「ブフォーッ‼︎」
「どうした、我とコーコーセーカツとやらを送るのがそんなに楽しみであったか?」
むせて咳き込む生徒Bの背中を優しくさすりながら、勇者は追い討ちをかけた。
そして同時に、生徒Bの中である決断が下された。
それはこの美少女勇者と夢の高校生活を送り、恋人関係を持つ人間、すなわち『リア充』という勝ち組となって『ラブコメ世界を攻略する』……のではなく。
「ちょっと交番へ行こうか。お前の助けになってくれる人がいる場所だ」
静かな生活を侵す諸悪の根源を駆逐するための、強硬策に出ることだった。
まだまだストーリーは始まったばかり。
ブックマーク登録して続きを待ってもらえれば幸いです(; ゜Д゜)ノ




