第十二話 招かれざる客の極み
高校生の間、友達と昼食を食べるのはかなりレアイベントだった記憶がある。
「ホームルームを始めるわよーっ、みんな席についてー!」
担任の勿忘草和乃香の声に反応し、ガヤガヤと騒がしかったクラスに段々と秩序が戻り始めた。
「また後でね〜」と他のクラスの人が次々と教室を後にし、窓側の後方の席でたむろっていた男子の集団もじゃれあいながら自分の席へ戻っていく。
そんな中、生徒Bは机の横にかけた学生鞄から筆箱やノートを取り出していた。
別に今この瞬間必要だとか、一限目の授業に備えて前もって教科書を取り出しているというわけではない。
ただあまりにも静かにじっとしていると、動きのあるクラスの中で目立ってしまうから、その対策に過ぎない。
モブキャラとしてもともと目立つわけにはいかないのだが、今日はいつにも増して担任の先生の目につくわけにはいかないのだ。
昨日会った時、完全に他人扱いしてたからな……。
自分の持っているクラスのひとりだったと知ったら、恐らく先生は困るだろうし、こっちも気まずくなる。
しかしそんな懸念も無駄なくらい、和乃香先生の注意は別のところに行っていた。
「遅刻欠席、ともになしっと。それじゃひとつ連絡します」
隣や前後でヒソヒソ話をしている生徒を気にせず、彼女は切り出した。
「実は今日から一年生に転校生が来たの。先生がこの学校に入るよう勧めた女の子よ」
和乃香先生よ、あの災厄を呼び込んだのはあなたでしたか。
幸い、勇者は自称一六歳だったので下級生になった。
まぁそれもそのはず。
転校生が同じクラスの隣の席になるなんてのは、主役の人間にのみ発生する『お約束』だ。
ゆえに、この学校において完全無欠の圧倒的モブキャラである俺が心配するようなことは、端から起こり得ないのだ。
生徒Bが顔をしかめる中、クラスの男子たちは期待に湧き立っていた。
「俺さっき職員室行った時に見たけど、めっっちゃ可愛かったぜ!」
「マジか、ずりぃぃ。何組? 俺一限目始まる前に見に行くわ〜」
そこで和乃香先生が念を押すように言った。
「私はあなたたちが見に行かないよう、こうして教えてるんですからねっ。まだ入学したてで緊張してると思うから、あまり驚かせてはダメよ?」
じゃあなぜ焚きつけるようなことを言った? 言わなければ下級生のクラス事情なんて分からないのに。
まぁでも、あの勇者なら心配はないだろう。骨も神経も図太いからな。
そこで一限目の予鈴が鳴り、朝のホームルームは終了した。
* * * * *
昼休み。
それは授業と授業の合間に引き起こる余波が爆発し、教室内に混沌の主要動をもたらす災厄の名。
午後生き抜く糧を求め購買へと猛進する者たちで廊下はごった返し、お弁当をともにする生徒たちの喧騒で教室は吹き荒れる。
その渦中において陰キャラぼっちのモブ高生など、風の前の塵に等しかった。
話す相手も一緒に食事をする相手もいない生徒Bは静かな場所を求めて彷徨ったが、その試みも今になっては昔の話。
教室の人口密度がコンデンスミルク級のこの学校において、ひとりになれる場所などなかった。
仕方なくいつものようにイヤホンを耳にさし、自分だけの世界に閉じこもる。
誰だよ、ノイズキャンセル機能思いついたやつ。
末代まで崇め奉ってやるよ。
音楽を聴きながら黙々と昼食を食べること数分。
妙に視線を感じて、生徒Bは顔をあげた。
「ねぇねぇ、あれ一年の転校生じゃない?」
「見ろよあれ、あの子。噂の転校生、帰国子女らしいぜ?」
「やばい、めっちゃタイプなんですけど!」
クラス中がこちらを見ている。いや、気のせいか。
普段誰にも見向きもされない人種の人間は、他人の視線に敏感で自意識過剰な面がある。
かくいう生徒Bもそのひとりなので、思い過ごしだろうとコロッケパンの続きに取りかかった。
「コウちゃん! 食堂へ行きたいのだが、一緒に行かぬか? ついでに我にこの巨大なダンジョンを案内してくれ!」
なにをしている、このダメイヤホン!
キャンセルだ、キャンセルしろ。
今も尚、背後で呼ばわるこのバカの声をかき消すんだ!
「えーっと、人違いじゃないですか?」
ノイズキャンセルイヤホンが職務放棄するため、生徒Bはとぼけるふりでこの場を乗り切ることにした。
知らない、俺は異界から召喚された勇者なんて全然知らない。
ハイラント・エアレーザーなんて怪力少女なんて知り合いじゃないからな!
「寝ぼけておるのか? まぁよい、早く食堂へ案内するのじゃ」
嫌だぁぁぁぁぁあああああーーーーッ!
教室内外の全生徒が注目する中。
特徴がないことが最大の特徴であるモブ高生は力なく、腰に長剣をさした金髪の少女に引きずられて行ったのであった。
どんどん投稿するので、どんどん読んでほしいです。
やるぞぉぉおおお燃えてきたぁぁあああ!!(←給油したて)




