第十話 分不相応なプラス(?)の出来事
美味しい美味しくないは人それぞれ。
私はセロリが苦手です。
買い物を終えた音那詩シヲリと生徒Bは、暗くなり始めた夕方の道を並んで歩いていた。
やたらめったらに食材を買い込んでしまうと、よほど食欲旺盛でもない限りひとり暮らしの消費スピードでは使いきれないため、たいした量は買っていない。
夕食を作ってもらうのだからせめてと、荷物運びを引き受けた生徒Bが片手で簡単に持てるくらいの量だ。
それにしても……と、生徒Bはちらっと袋の中身を思い出した。
醤油にバナナに納豆、そして牛乳パックを数本。
最後にあげたもの以外カレーうどんに入る気がしないものばかりなのが、生徒Bの頭を悩ませた。
夕食のためだけでなく、日常の買い物も済ませてしまっただろう。そう思いたい。
学生寮に着くと、音那詩シヲリは手を洗うなり早速夕食の支度を始めた。
「って言っても、カレーはもう昨日作ってあってその残りなんです。手伝ってもらうほどのことはないので、部屋でくつろいでいてもらえれば。あ、これお茶」
冷蔵庫の中からティーバッグで作ったお茶の容器を手渡すなり、音那詩はガスに火をつけた。
「ありがとう。なんかすいません、全部やらせちゃって」
いいえ、と音那詩は笑う。
勧められた通りに生徒Bは六畳一間の部屋の方へ行くと、テーブルにお茶の注がれたコップを2つ用意して待つことにした。
人様の、しかも後輩女子の部屋なので、なるべくジロジロ見ないようにとお茶を飲むことに意識を集中させた。
……俺もこういうの買おうかな。ピッチャーって言うんだっけか?
いつも飲み物は二リットル入りのペットボトルを買ってしまうのだが、コスパ的にも環境への配慮の意味でも洗って使い回せる容器を買っておいた方がいいだろう。
尻のポケットからスマホを取り出すなり、ネットショッピングのサイトを開いてどんな商品があるのかを調べ始める。
そこで目の前のテーブルに置いてあるものと同じ商品を見つけた。
音那詩さんが持ってるのこれか……。
「あっ! 私とコウ先輩、お揃いのピッチャー使ってる!」
「え、ホント? これ使いやすくてすごく気に入ってんだ」
「私もです! えへへ、もしかしたら私たち、すごく気が合うかもしれませんね?」
ってなにを考えてるんだ俺は……!!!
生徒Bはカートに入れた商品を急いで削除した。
『ハンドルピッチャー2、2リットルはショッピングカートから削除されました』の文章を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
立て続きに非日常的事象が起こるせいで、感覚やら思考回路やらが麻痺してしまっている。
よし。今回の食事はありがたくお供することにして、次からは全て断ることにしよう。
まぁそもそも、次なんてないとは思うが。
そんなこんなで時間を潰していると、音那詩シヲリが大きなお盆を持って部屋に入ってきた。
「おまたせ〜。ごめんなさい、よくよく考えたらコウ先輩白シャツなのにカレーうどんなんて出しちゃって」
「えっ、いや。はねたら洗えばいいだけだし、そんな。こちらこそ、呼ばれて遠慮もなく家に上がっちゃって申し訳ないというか」
謝罪の応酬が終わると、ふたりはテーブルに対してL字に座って手を合わせた。
「「いただきます」」
温かな食事を包んだどんぶりは、箸を入れてうどんの麺を持ち上げると、さらに湯気を立ち上らせた。
生徒Bは麺を静かに啜ると、今度はルーに浸る具材を摘み上げた。
「これはナスかな?」
「あーそれ、ナスじゃなくてバナナなの」
口に手を当てた音那詩が、食べ物をほっぺたの両脇に押しやって答えた。
そんなバカななの……。生徒Bは作り笑いをして、一思いに口に入れた。
「先輩、味は大丈夫でした……?」
ずっとモブモブ、ではなくモグモグしているのは、なかなか喉を通らないから咀嚼を続けているのではない。
料理の未知なる可能性を発見し、より味わうためだ。
「大丈夫もなんも、音那詩は料理が上手だな……!」
「いやぁそんな」
新たな味覚の探求者は、恥じらいで頬を朱色に染めた。
「あ、そうだ! 私いつもお弁当作ってるんですけど、よかったらコウ先輩の分も」
「うんめェー! 斬新でうめぇわこれ!」
次話から学校行きます!
学園ものだと思って読んでたのに、という人はおまたせしました……。
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