王女の短剣
ある剣士が居ました。
名をルター。
彼は国のために命を懸けて敵軍と戦いました。
そんな彼は、密かに王女に恋をしていました。
王女もまた、彼のことを気にかけていました。
それを知っていたマルクという召し使いが王に告げ口をします。
後日、ルターは、もっとも危険な戦地、カルデリアへと送られてしまいます。
「行って参ります。エレン様」
「お父様に見つかる前にこれを」
出陣の前に、ルターが王女から渡されたものは、ひとつの短剣でした。それは、彼女の護身用のもので、とても大切なものです。
「貰うわけにはいきません」
「これを私だと思って、お使いなさい」
「エレン様……」
鎧のひしめく音。
その数数百ほど。そのすべてがルター派の軍勢でした。当然勝ち目はないでしょう。負け戦です。
カシャリ、カシャリ
鎧の音が小さくなっていくのを見守るエレン。
予想通り、ルターたちは負けました。
しかし、国の防波堤になったことは間違いなかったのです。
彼らは敵にもある言葉を残しました。
“我々は理解し会えた機会があったはずだ”
エレンの護身刀の短剣は、生き残ったルター軍の一人が持ち帰って来ました。
その者は、心は強くとも、人一人斬れぬ臆病者の男でした。
王女は短剣を眺めながら言いました。
「優しいことは、時に残酷で、優しくあり続けることは難しいことなのよ。誇りなさい。生き帰ったことを」
男は申し訳なさそうに、その場を去りました。
王女は、人知れず大粒の涙を流して、声が渇れるまで泣きました。