8 金斗雲もどきで夜景を見ました ~変装道具のその後~
夜景を見に、金斗雲もどきで、空を飛んでいた敦子は、上空からビル群の夜景を眺めていたが、あまりに風が強いので、ビルの一つに降りることにした。
高いビルの屋上に降りて、そこからの夜景も見てみる。
「きれい~」
こんなに遅い時間なのに、ビルの窓には、明かりがいくつもついていて、まだ働いている人達が小さく見える。
いくつかあるビルには、まだ明かりがついている窓も結構あって敦子は驚いた。
「大変だね~」
しばらく見ていたが、今日は帰ることにした。
再び上空に浮き上がる。
その時、一陣の風が吹いた。
敦子はちょっとグラっとしたが、金斗雲もどきがしっかり敦子を支えていてくれたので、落ちることもなく上空を飛ぶ。
しかし帰りが大変だった。
行きは、ビル群の夜景を見るということで、目標物が定まっていたおかげで難なくこれたのだが、自分のアパートに戻るとなると、上空からではアパートの近所にある目立つ目標物がわからない。
あちこちさまよった挙句、やっとアパートが見つかった。
アパートの近くで急降下して、ベランダに入ろうとした時だった。
ふと視線を感じて横を見れば、まだ空は暗い中隣のベランダに人が立っているではないか。
「えっ______!!」
敦子が驚いて声を上げれば、相手もこちらを凝視したまま、固まったようになっている。
あまりの衝撃に敦子の体がぐらっと揺れたが、またまた金斗雲もどきがしっかり支えてくれて、ベランダに入った。
敦子が、バランスを崩したときに、突っ立ったままの相手も何か言葉を発したのが聞こえた。
ベランダから部屋に入る。
金斗雲もどきが、勝手にお風呂場に戻っていくのが見えた。
住み慣れた我が家に戻ってはっとした。
「そうだ!見られちゃったよ。どうしよう~。さっきの人、お隣の玉山さんだよね~」
敦子がそうつぶやいた時だった。
ピンポ_ン ピンポ_ン ピンポ_ン ピンポ_ン ピンポ_ン
玄関のチャイムが、何度もせわしなく鳴った。
敦子はあわててインターホンに走っていった。モニターを見ると、お隣の玉山さんだった。
顔がなんだか怖い。
どうしようかと悩んでいると、また連打された。
ピンポ_ン ピンポ_ン ピンポ_ン ピンポ_ン ピンポ_ン
仕方なくドアを恐る恐る開けた。
ふいにドアが、グアッっと開いた。
玉山がドアの取っ手をもって、自分で開けたのだ。
「夜遅くすみません。ちょっといいですか」
そういって玄関に入り込む。
敦子は玉山が玄関に入ってくるのを、なすすべもなく呆然と眺めていた。
「あの~、さっきのは何なんですか!」
玉山は後ろ手にドアを閉めるなり、玄関先で聞いてきた。
顔が整っている分迫力がある。
敦子がどういおうか悩んでいると、畳みかけるようにまた言ってきた。
「今、空飛んでいましたよね!空、飛んでいましたよね、今!」
二度も言っている。
あまりの迫力に敦子は、ただ玉山を見つめることしかできなかった。
玉山も言葉を発して、ちょっと落ち着いたのか、顔の表情が少し和らいだ。
「急に押しかけてきてすみません。明日、いや今日になるか、またゆっくりお話聞かせてもらえませんか。また今日の10時にお伺いします。必ず家にいてくださいね。じやあおやすみなさい。鍵しめてくださいね。」
玉山は自分の腕時計で時間を確認して、言い直してから部屋を出て行った。
しっかりと防犯の声かけまで、していってくれたのだった。
時間を見ると、朝の4時過ぎになっていた。
敦子はしばらく玄関先で呆然としていたが、きっちりと鍵を閉めて部屋に戻った。
体が冷たくなってしまったので、もう一度シャワーを浴びることにした。
サングラスを外し、ウイッグを取ろうと思い、頭に手をやるとウイッグがなかった。
あるのは、自分の髪を集めてまとめるための被ったネットだけ。
「や~だ~。こんな格好で、私玉山さんと会っちゃったの?それにウイッグはどこ?」
あたりを見渡すが、それらしきものはない。
慌てて窓を開けベランダも見てみるが、落ちてなかった。
「あ~あ、せっかく買ったウイッグなのに~。変な姿まで見られちゃったし、ついてな~い」
さっきの呆けた顔も、ほかの人から見ればずいぶん変な顔だったと思うのだが、そんなことはつゆ知らずネットを被った姿を見られて、落ち込んだ敦子だった。
__後日談1・高層ビルの点検での話__
今日は屋上の点検のため、作業する人が二人、高層ビルの屋上に上がって来た。
一人ずつ別々な場所で作業をしていたが、急に一人の焦った声が聞こえた。
慌てて声を出した一人のほうに駆け寄っていく。
「どうした?」
「あれ、見ろよ!あれなんだ?」
1人が指さすほうを見れば、避雷針の先に何やら黒いものが、くっついているではないか。
「なんだ?あれ?」
作業用に持っている双眼鏡をのぞいてみれば、風にひらひら泳いでいるのは髪の毛の様だった。
「おい、あれ?髪の毛じゃないか?」
「えっ__、なんで髪の毛が避雷針にくっついてるんだよう」
双眼鏡を手渡されてのぞいてみれば、確かに髪の毛に見える。
思いきり鳥肌が立った。
2人顔を見合わせてお互いの顔を見やれば、なんだか血の気がない。
どうしようかと思っていると、そのひらひらした髪の毛らしきものは、風に吹かれて消えてしまった。
思わず安堵のため息をこぼした二人だった。
そのあと一度下に戻り、自分の体に塩をまいたのだった。
__後日談2・有名な待ち合わせの場所での話__
ある若者が、初めて都会にやってきた。
友人との待ち合わせに、待ち合わせ場所として有名なここを選んだのは自分だった。
とある田舎で生まれ、大学も地元を選んだ彼は、初めて見る都会にドキドキしていた。
それにしても、待ち合わせ場所の人の多いこと。
早く来ないかなあと待っていると、彼の前に立っていた一人が何やら指をさしている。
つられて何人かが、指のさしている方向を見ている。
彼も見た。
何やら黒いふわふわしたものが、上空を漂っている。
それは風にあおられながらも、こちらに近づいてきた。
みんな唖然と見ている中、それは見事にすぽっと目の前にある銅像の頭に降りた。
「なんだ?あれ?」
誰かが声を出した。
見事にはまったあれに、みんなはあっけにとられながらも、一斉にスマホを向け始めた。
若者は、思った。
__都会ってすごいなあ!__