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74 クリスマスイルミネーションはきれいでした

  翌朝敦子が起きると、スマホが光っていて敦子が寝た後連絡が入っていたようだった。

 見ると玉山からで、今日は午後3時からでいい?とあったので、慌てて了解の返事をした。

 

 今日も早く起きたので、洗濯掃除をしてスーパーに買い物に行った。

 午前中に料理をしておいた。

 時間になったので、玉山の元へ向かう。

 今日は厚着をしてきてと連絡があったので、前にボーナスで買ったちょっとお高いコートを着ていくことにした。

 玄関から出てきた玉山もコートを着ている。


 「おまたせ」


 玉山が今日は電車で行こうといったので、駅までふたりで歩いていった。

 電車は、休日の午後とあって思ったより空いていた。


 「今日はどこ行くんですか」


 「もうクリスマスシーズンだからイルミネーションをみたいと思ってるんだ。いい?」


 「いいですね~」


 敦子は、今までクリスマスイルミネーションは会社の帰りにちらっとみただけだったり、友人としかいったことがない。友人たちといった時には、やたらとカップルが目に入ってみんなで場違いだね私たち!と笑いあったことを思い出した。

 電車を降り少し歩くと、あたりは夕闇に包まれていた。

 ふたりでビルのテナントにある文具の店や雑貨の店を見て歩いた。

 特に文具の店では、玉山がいつも使っているお気に入りのボールペンがあるというので、敦子は見本で置いてあるそのボールペンを試し書きしたりした。思いのほか書きやすかった。


 「このボールペン書きやすいですね。私も仕事用に一本買っていこうかな」


 「そうだろ?書きやすいんだよ」


 玉山があまりに自慢げに言うのでちょっとだけおかしくなってしまい、後ろを向いて笑いをこらえていたが、肩が揺れてしまったのだろ。

 

 「笑ってるのがばればれだよ」


 玉山に指摘をされてしまった。

 敦子が顔を見るとなんだかちょっとふてくされていたので、急いでそのボールペンを2本取るとレジへ向かった。

 買ったボールペンの1本を渡すと、玉山はお礼を言って受け取りうれしい言葉を言ってくれた。


 「明日からこれ使うよ。仕事がはかどりそうだ」


 敦子も明日から会社で使うことにした。ありきたりなボールペンだが、お揃いだと思うと無性にうれしかった。

 そのビルを出ると、あたりはすっかり暗くなった。

 

 ふたりはイルミネーションが有名な並木道を歩いた。

 敦子たちと同じようにイルミネーションを見ようと来た人たちでごった返していたが、それを差し置いてもきれいだった。金色に飾られたイルミネーションが瞬いているように見える。はぐれないようにと玉山にしっかりつながれた手から温かさを感じて、すっかり寒くなったのに少しも寒さを感じなかった。

 玉山はどうだろうと見上げると、玉山の顔が金色のイルミネーションに照らされていて敦子には輝いて見えた。

 敦子の視線を感じたのだろう。玉山も敦子を見下ろしてきた。

 その目にイルミネーションの明かりが映って一瞬金色に見えた気がした。

 はっと思ってまたよく見ると、目は黒かった。

 そういえば前に比べると、玉山はそれほどみんなの注目を集めていない。ちょっと前なら行きかう人皆が玉山を見ていたのだが、今はほんの数人がちらっと見るだけだ。元から顔の良い玉山なのでごく普通の風景だと思った。

 

 「加護なのか呪いなのかわからないですけど、なくなったようでよかったですね」


 周りの玉山の反応を見ていた敦子がつい口にした。

 

 「そうなんだよ。やっと普通の人になれたっていう感じかな。今は何をしても楽しいよ」


 玉山は満面の笑みで答えた。

 しばらくイルミネーションを堪能していたが、お腹もすいてきたのでふたりは玉山が行きたいといったお店に向かうことにした。

 

 有名なホテルに向かう。

 玉山が行きたいといっていたお店は、ホテルの中の最上階にあるレストランだった。

 玉山は予約をしているらしく名前を告げると、すぐに窓際の席に通された。

 席に着くとやはり外は寒かったようで、つないでいないほうの手がかじかんでいた。

 やはりというべきか最上階からの眺めはすばらしかった。まるで光が地上にまき散らされたように輝いている。

 特にクリスマスシーズンで下に見えるイルミネーションの明かりが、色とりどりの光を放っていた。

 玉山はクリスマス特別メニューを予約してあったらしく、メニューを見ないまま食前酒が運ばれてきた。


 金色の液体がグラスに注がれる。グラスの中で次々に昇ってくる小さな泡が、テーブル上のライトに照らされてきらきら光っている。

 前菜からクリスマスらしいお料理の盛り付けがされていて、見ているだけで楽しい。

 綺麗な景色を見たりおいしいお料理を堪能したりと、楽しい時間があっという間に過ぎていきデザートになった。

 これまたクリスマスらしいかわいらしい飾りつけがのったケーキが出てきて、食べるのがもったいないぐらいだった。

 シャンパンを飲んだせいでふたり陽気に笑いあっていたが、不意に玉山がまじめな顔になった。


 「あっちゃん、よかったらこれつけてくれるかな」


 玉山がポケットから差し出したのは、きれいな包装紙に包まれた長細い箱だった。


 「えっ、ありがとう」


 敦子が恐る恐る受け取ると玉山は開けるように促してきた。

 なるべくきれいに包装紙を取り箱を開けると、ケースの中に小ぶりのダイヤが付いたきゃしゃな金のネックレスが入っていた。

 

 「わあっきれい」


 照明の光の下ダイヤがきらきら光っている。

 敦子はそっと手に取って眺めた。

 そして自分でネックレスを付けてみる。

 それを玉山が目を細めて見ていた。


 「どうかな」


 「よく似合うよ」


 敦子が恥ずかしそうに玉山に聞くと、これまた恥ずかしそうな顔で玉山が答えてくれた。


 「ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント」


 「ありがとう。だけど私何にも用意してない。ごめんね」


 敦子が申し訳なさそうな顔で玉山を見た。


 「本当はクリスマスイブに渡したかったんだけど、出張が入っちゃって」


 今年のクリスマスイブは平日だ。玉山の今回の出張は二週間とちょっと長いらしい。


 「その分冬休みには一緒にいよう」


 「うん」


 敦子には、ちょっと早いけど最高のクリスマスになったのだった。 

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