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なぜか水に好かれてしまいました  作者: にいるず


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 翌朝火曜日は、朝ご飯を食べて午前中に帰ることにした。


 あれから犬のしろは、敦子がいるとすぐそばに寄ってきて、コロコロ転がって腹だしポーズをするようになってしまった。はじめはなでてあげていた敦子も、しまいにはめんどくさくなって放置していたら、あまりに腹だしポーズばかりして疲れたのか、クッションの上でふて寝をしていた。


 敦子は母親に駅まで送ってもらい、電車で帰った。

 電車内でも視線を感じることが多くて、なんだか変な気分だった。

 ちらっとこちらに視線を向けていた人のほうを見れば、自分ぐらいの年齢の男の人で、その人は敦子と目が合うと急いで視線をずらしてしまった。ただ少し顔が赤かった。

 敦子は、車内が暑いのかと思ったが、敦子にとっては、ちょうど快適な温度だったのであの人が暑がりなのかと思ったぐらいでそのことはいつの間にか忘れてしまった。


 アパートには午前中に着いたので、洗濯や買い物をした。

 作り置きの料理をタッパーに詰めるころには、もう夕方になっていた。作り置きのおかずの残りを食べて、明日の支度をして早めに寝ることにした。

 数日実家に帰っただけなのに、自分ひとりの部屋はやけに静かでなんとなく寂しくなったのだった。

 そんなことを思っていたときスマホが鳴った。


 『実家から帰ってきたのかな。お疲れさま。今週土曜日にドライブいこう』


 玉山からだった。

 了解の返事を出した敦子は、先ほどの寂しさはどこへやら、今週末のドライブが楽しみでウキウキ気分になり気が付けば鼻歌を歌っていた。

 

 翌朝は、早めに会社に行った。

 更衣室で着替えていると、奈美がやってきた。


 「あっちゃん、おはよう。リフレッシュできた?」


 そういいながら敦子を見ると何やらびっくりしたようで、右側から見たり左側から見たり上から下、そして下から上と忙しく視線を走らせている。

 敦子はそんな奇行をしている奈美を黙って見ていたが、あまりにながくやっているので気になってきた。

 

 「奈美ちゃん、何してるの?」


 奈美は敦子の問いに、何回か奇行を繰り返した後やっと答えた。


 「あっちゃん、なんか雰囲気が違う。髪型やメイク変わってないのに不思議!」


 どうやら昨日さんざん家族に言われたことを、今日また奈美に言われるとは思っていなかった敦子はびっくりした。


 「家族にも言われたんだよね。なにが違うの?」


 奈美はひとしきり敦子の方を向いて、また敦子をじっくりと見てから考えるように言った。


 「何って言われると困るんだけどな。そうだ!すごく魅力的になった気がする」


 敦子は、何もその言葉を聞いて、鼻で笑った。


 「ありがとう」


 まったくもってありがたがっていない声で一応お礼を言った。


 「本当だよ。結衣ちゃん早く来ないかな。絶対結衣ちゃんも同じこと言うと思う」


 そうこうしているうちに結衣も更衣室に現れて、結衣からも奈美と同じことを言われた時には少しだけ信じた。

 しかしいつもと同じことしかしていない敦子は、そのことがよくわかっていなかった。

 更衣室を出て、すれ違う人に挨拶していった。

 敦子は気が付かなかったが、多くの人特に男性が敦子のほうを振り返って見ていた。


 上司がもう仕事をしていたので、まず報告をした。


 「二日間有休をいただいてありがとうございました」

 

 「気分転換できたかな?」


 パソコンから顔を上げた上司は敦子を見て、口を開けてぽかんとした。


 「なにか」


 あまりにながくそうしているので、敦子は何かあるのかと思って上司に聞いた。


 「あっいや~、今日はなんだか輝いているね。いい休みだったようだね。」


 上司がそういって仕事に問題はなかったよといったので、敦子はほっとして席に着いた。 

 席に着いて仕事をしていると、またどこからか視線を感じた。

 顔を上げると、何人かがこちらを見ており敦子が目を向けると、慌てて下を向き自分の仕事をし始める人たちがいた。


 昼休みになり、いつもの三人でランチに出かけた。

 席について注文をするなり奈美が言った。


 「今日なんだかざわついてない?」


 「そうそう!特に男性社員たちがね」


 奈美の言葉に結衣が反応した。


 「なんのこと?なにかあった?」


 敦子が意味がわからないという顔で二人に言えば、二人はなぜか顔を左右に振って残念そうな顔をした。


 「あっちゃんわかってないの?」


 「そうだよ。あっちゃんが原因だからね」


 ふたりに言われますます訳が分からず敦子はついに困った顔になった。


 「あっちゃんが魅力的になったから、男子たちが見ていたんだよ」


 「特に独身男性たちがね」


 そういって二人は笑いあった。

 なぞかけのような問答の末、ランチを終えた敦子たちはまた会社に戻った。

 会社に戻るときにも、すれ違った何人かが敦子のほうをよ~く見ているのが敦子の目にも映った。

 敦子の頭が疑問符でいっぱいになるころ、一階のロビーに着いた。

 エレベーターを待っていると、同じくお昼ご飯を食べに出ていた営業の笹川と結衣の彼氏である井上に出会った。


 「久しぶりだね。有給とってたんだって」


 敦子が振り向くと後ろに笹川がいて、敦子に言ってきた。

 たぶん仕事を頼もうとして敦子の席に行ったときに誰かに聞いたのだろう。


 「実家に行ってたんです」


 敦子はそう笹川に答えたが、目の前の笹川は敦子の顔を見て固まっていた。

 笹川の横にいる井上も敦子を見て、一瞬目を見張ったが笹川ほどの反応はなかった。


 「どうしたの?笹川さん。敦子に見惚れちゃって」


 奈美が黙ったままの笹川をそういって茶化すと、当の笹川は顔を真っ赤にして急に敦子から視線を外した。


 「どうしたんですか?笹川さん!」


 井上もそんな笹川を見て笑っている。


 「いやっ、なんでもない」


 笹川がそういった時、ちょうどエレベーターが止まった。

 いつもなら女性を先に乗せてくれる紳士的な笹川が、今回はすたすた先にのってしまい、なぜか慌てていたのか自分しか乗っていないのに、ボタンを押してしまい敦子たち他の人を残したままエレベーターは上に行ってしまった。

 扉が閉まるとき焦った顔の笹川の顔が印象的だった。

 

 「何やってるんでしょうね、笹川さん」


 あきれたように言ったのは井上だった。

 その言葉に一緒にいた結衣と奈美が大笑いしたのだった。


 少し残業してその日の仕事を終えた敦子が、ちょうど会社のビルを出るときの事だった。


 「滝川さん!」


 名前を呼ばれて後ろを振り向くと、慌てた様子で一人の男の人が敦子のところに飛んできた。

 敦子のところにまさしく飛ぶように走ってきた人は、確か同じ会社の違う階の人だった気がする。敦子がこの人の名前はなんだったかなっと考えていると目の前の男の人が言った。


 「よかったら今度お食事でもどう・・・」


 「滝村さん!」


 その男の人が次の言葉を言う前に、敦子の名前を呼ぶ声がさえぎった。

 敦子が声のする方を見れば、玉山が急いでこちらに走ってくるところだった。

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