50 また一緒に食べました
翌日日曜日は、曇っていた。
昨日の夜見た予報では午後から雨が降るようなこともいっていたので、今日は朝早くから起きて家事をした。
掃除をしていると、隣からも物音が少し聞こえてきた。
「玉山さんも掃除をしているのかなあ」
いつもあまり物音がしないので、珍しいと思いながら敦子は自分の掃除をした。
今日は玉山さんとどこかへ行く約束をしていない。
もし夕方もいるようだったら、夕ご飯に誘ってみようかなあなどど考えているうちに、手だけはしっかり動いていたらしくいつの間にか終わっていた。
敦子は急いで買い物に出かけることにした。
やはり雨に降られたくない。
急いで支度をしてスーパーに向かった。
店内に入るとつい顔見知りになった試食のおばちゃんを目で探したが、いないようだった。
まあ玉山さんもいないしねと思いながら、ゆっくり買い物をする。
いろいろ買ってお店を出ると、今にも雨が降ってきそうな空模様になってきた。
急ぎ足でアパートに戻る。
玉山さんの部屋の前を通ると、まだ部屋の中から物音がしていた。
部屋に入り買ってきた食材を並べ、先に料理をすることにした。
今日はのんびりと作った。
あらかた作り終えた時に、窓の外を見ると雨が降っていた。
作ったもので遅い昼食をとる。
料理が冷えるまでテレビを見ようと座った時、ちょうどスマホが鳴った。
『いいにおいがするね』
玉山さんからだった。
『もし夕方用事がなければ、うちで食事しませんか』
敦子は玉山の顔を思い浮かべながら返信した。
『ありがとう 行きます』
『では夕方6時に』
玉山から速攻で返事が来たので、敦子もすぐ返した。
『よろしく』
玉山からの返事にまたキッチンに戻って、今日の夕ご飯にするものを別にとっておいた。
いつもなら雨の日曜日の午後は、なんだか寂しい気持ちになるのだが、これから玉山が来ると思うと自然に笑顔が浮かんできた。
ピンポーン
玉山が夕方6時ぴったりにやってきた。
「こんばんは」
そういって玉山は部屋に入ってきた。
「いい匂いがするね」
玉山は嬉しそうだった。
「これ後で食べよう」
そういって渡してくれたのは、駅近くにあるおいしいと評判のお店のシュークリームだった。
「ありがとうございます」
敦子は喜び勇んで手を出した。
「はい、あっちゃん」
そういわれて思わず受け取るとき、箱を落としそうになってしまった。
それを見た玉山は、やってやったとばかりに満足そうな顔をしていた。
その顔を見た敦子も負け時と返してみた。
「ありがとう、竜也さん」
今度は玉山が照れたように敦子に視線から顔をそらした。
敦子は敦子で言っては見たが、やはり恥ずかしく自分もそそくさとキッチンに行った。
玉山にテーブルに座ってもらって、料理をテーブルに並べていく。
玉山は、今日もずいぶん期待のこもった目で料理を見ている。
ふたりで食事をした。
いつものようにおいしいを連発する玉山に、敦子も作ったかいがあったと思ったのだった。
そしてふたりで洗い物をした。
初めに比べると、玉山も敦子もふたりで行う作業にずいぶん手馴れてきた。
時間にすると30分は早くなっただろう。
敦子がそう思っていると、やはり玉山もそう思ったのか言ってきた。
「ずいぶん慣れてきたね、ふたりとも。まあ慣れたのは、僕の方か」
そしていつものようにデザートとして、コーヒーと今日玉山が買ってきたシュークリームを出した。
やはり評判通りシュークリームはおいしかった。
敦子は、何気なく今日の午前中玉山の部屋から聞こえた物音を話題に出した。
「今日掃除してたんですね」
一瞬玉山は、何のことかと思ったようだったが、急に顔を真っ赤にさせた。
「すみません、そんなにすごい音じゃなかったですよ。ちょっと聞こえたぐらいで」
そうなのだ。このアパートは、一階に大家さんが住む仕様になっているので、作りがよくできていて生活音はあまり気にならない。
敦子は玉山の反応にまずいことを言ったかなあと思いすぐ謝った。
玉山も敦子が謝ったので、誤解を解こうと思ったのだろう。
「△□○......」
なんだかしどろもどろで小声で何か言ったので敦子には聞こえなかった。
敦子が顔を傾けてよく聞こうと、玉山の顔をじっと見た。
「実は...あまりに部屋が汚かったから、部屋をかたずけていたんだ。今度あっちゃんを招待したくて。けど...もう少し待ってて...頑張るから...」
玉山があまりにしょんぼりというものだから敦子は、つい吹き出してしまった。
「ぷうぅ___」
「笑ってすみません。そういえば竜也さんのお部屋まだ見たことなかったですよね。またかたずけが一段落したら見せてくださいね」
玉山は名前で呼ばれたことと、かたずけが済んでいないこと両方がはずかしかったのか、顔をさらに赤くしながら黙々とシュークリームを食べていた。
おいしいシュークリームで気を取り直した玉山は、コーヒーを飲み終わった後言った。
「来週の土曜日ドライブ行かない?今度は少し遠出になるから、朝早くでてもいい?」
「はい、いいですよ。楽しみです」
「紅葉見れるといいね」
来週の予定が決まってうれしくなった敦子だった。
しばらくふたりで来週行く予定の場所の話をしていたが、ふと玉山が言った。
「部屋のかたずけって大変だよね。なかなかかたずかなくてさ」
もう愚痴になっている。
「今まで何にもしてなかったんですか」
敦子は思わず聞いてしまった。玉山が引っ越してきてから、結構たっている気がする。
案の定玉山は言った。
「すぐ着る洋服とかは出したんだけど、まだ段ボールがあちこちにあってね」
なんとなく想像できる気がした。
「今日ももしかしたら、夜すこし音が出るかもしれないけどごめんね」
「いいですよ。明日は仕事だし、焦らないでゆっくりやってくださいね」
敦子はそう玉山に行ったのだが、玉山はまたぶつぶつ言った。
「あれじゃあ、いつまでたってもあっちゃん呼べないよ」
敦子は、思わず手伝いましょうかといいたくなってしまったのだった。
雑談した後、玉山は部屋に帰っていった。
その夜はやはりというべきか、敦子がお風呂に入って寝ようとしたときにも、隣からかすかに物音がしていた。