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なぜか水に好かれてしまいました  作者: にいるず


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45 遭遇しました

 ふたりは店を出て、車を停めた駐車場に戻るべく、湖の湖畔の遊歩道を歩いた。

 もちろん手をつないでいる。


夕方になって湖畔はずいぶん冷えてきた。


敦子は途中立ち止まり、玉山の手を放して、バッグからカーディガンを出して羽織った。


手を放そうとするとき、何かと思ったのか玉山が敦子の顔を覗き込んできたのがわかった。


「ちょっと寒くなったので、カーディガンを着ようかと」


 その言葉を聞いて、玉山は手を放してくれたが、先ほどは手を放そうとした敦子の手を反対にぎゅっと握りしめてきたのには驚いた。


 カーディガンを羽織っている間玉山が、バッグを持っていてくれた。


敦子がお礼を言うと、さっそくまた玉山が手をつないでくる。


湖は、山で囲まれているので、暗くなるのが早かった。いつの間にか周りはずいぶん薄暗くなってきている。


 ただ車に乗り込むとまだ夕方の5時前だった。


「夕食は、何食べたい?」


玉山が聞いてきた。


「温かいものが食べたいかな」


「そうだな。うどんなんかよさそうだね」


 そういって玉山は、何か心当たりがあるのか、車を発進させた。


 アパートから車で30分ほどのところにあるうどん屋さんに行った。


「ここは手打ちうどんの店なんだよ」


老舗のいかにも手打ちをしてます感がただよっている店構えのお店だった。


店に入ると、いかにも和風の作りで店中いい香りが漂っている。


空いている席の一つに座り、メニューを見た。


鍋焼きうどんがおいしそうだった。


「これおいしそう」


敦子がメニューの一つを指さした。


「体があったまりそうだね」


 そうして敦子は鍋焼きうどんを、玉山は炊き込みご飯のついた鍋焼きうどんセットを注文した。


 お昼食べた時間が遅かったので、敦子にとってはちょうどよかった。


店を出た時には、体も温かくなってなぜか幸せな気分になった。


会計はまた玉山が出してくれたので、敦子は今度何かのお返しをしなくてはと考えた。


車に乗り込んで、アパートに帰る。


「明日は、また仕事なんだ」


「大変ですね」


玉山の話を聞いて、ちょっと寂しくなった敦子だった。


 アパートに戻った。


「また連絡するよ。今度は、無視しないで」


 玉山は、この前連絡を無視した敦子に笑顔で念押しをしてきた。


 やはり敦子が連絡を無視したことが堪えていたらしい。


「じゃあ、おやすみなさい」


敦子は気恥ずかしくなってさっと部屋に入った。


ドアを閉めるとき、くすっと笑い声が聞こえた気がした。




翌日は家事をしてから、いつものようにスーパーに買い物に出かけた。


今日もまた試食品コーナーにはあのおばちゃんがいて、目ざとく敦子を見つけた。


「今日は、ご主人一緒じゃないの?」


敦子もご主人の言葉の響きがうれしくて訂正しなかった。


「今日は仕事なので」


「そう~、残念だわね~」


 心からがっかりしているおばちゃんの態度に思わず苦笑いが出た。


 買い物をすべて終えてアパートに戻った。


 買ってきたもので、作り置きをしておく。


 今日は早めに買い物に行ってきたので、まだ夕方までには時間があった。


 そこでデパートに行くことにした。


 いつもごちそうになっている玉山へのお礼を買おうと思ったのだ。


 しかしデパートに入ると、つい自分の洋服を先に見てしまい、気が付けば秋物の上下を買ってしまっていた。


 今度は気合を入れて、玉山のお礼は何にしようかと紳士コーナーをいろいろ歩き回った。


 ところがなかなか決まらなくて、しまいには玉山と一緒に来て自分で選んでもらうことにした。


 ネクタイひとつとってもいろいろな柄があって、玉山の好みをよく知らない敦子は選べなかった。


 そこでハンカチにでもしようかとも思ったが、いつもごちそうされている身としては、少し安い気がしたのだ。


 あちこちさまよった挙句買ったのは、自分の洋服だけだということにちょっと罪悪感を感じた。


 のどは乾いたし、おまけに疲労感もものすごい。


 百貨店を出てつい近くのカフェに入った。


 窓際近くの席に着いた。


 コーヒーを頼んで待っていると声が聞こえた。


「玉山さんがね~...」


 聞き覚えのある声と名前に思わず声のしたほうを見ると、敦子のすぐ後ろの窓際の席に小池さんと知らない女の人がいた。


敦子がいるのに気づいていないらしく話は続いている。


「玉山さん、この前迷惑だ!なんて言ったのよ。私がちょっと腕をつかんだだけなのに」


「そうなの?里美には優しかったのに、なんかあったのかしらね」


「それがね~、玉山さんどうやら私が就職した同じ会社の人と付き合ってるっぽいのよね~。彼女のことずいぶん気にしてたし」


「どういう感じの人なの?その彼女って人。だってあの玉山さんが付き合ってるんでしょ」


「一言で言って地味よ。地味子!」


「そうなの~?ありえなくない?」


「そうよ。わたしがせっかくお付き合いしてあげてもいいと言ってあげてるのに。なんてやつ。あいつ顔だけのくせに。それに地味子よ、地味子と付き合ってるなんて」


「玉山さん、顔だけじゃなくて性格もいいらしいよ。周りの人もみんな言ってるし」


 どうやら相手の女の人も玉山と同じ会社の人らしい。


「そんなのどうでもいいのよ。私が声かければみんななびくのに...」


「里美いったい何人とお付き合いしてるのよ」


「沢柳君と石黒さんと玉本さんと田尻さんと・・・」


「えっー。いったい何人とお付き合いしてるのよ。じゃあ玉山さんは、いらないんじゃない?」


「なに言ってるのよ。玉山さんはあの中でも別格ょ。隣に置くだけでも私が一目置かれそうでしょ」


「里美それじゃあ、玉山さんてアクセサリー替わり?ひど~い」


 ふたりで笑っていた。


 敦子は聞いていてむかむかしてきた。


 地味子呼ばわりもひどいが、まあ事実だしそれは許すとして、玉山をなんと思っているのだろうか。

 それが敦子には許せなかった。


 つい立ってしまい小池の方を向いた。


 小池はといえばいきなり姿を現した敦子に驚いていた。


「滝村さん・・・」


 お友達らしい女の人の後ろに敦子は立っているが、連れの女の人はかかわりあいたくないのか敦子のほうを見ようともせずうつむいてしまった。


「こんにちは。びっくりしたわ、後ろから聞き覚えのある声がして」


 敦子が怒りを込めてそういったとたん、なぜか小池の体がぶるぶる震えてきた。


 しかも顔色もどんどん悪くなっていき、とうとう顔に血の気がなくなって真っ白になっている。


 体は音が聞こえそうなほど、がたがたふるえていた。


 急な小池の変化に驚いた敦子だったが、もっと驚いたことがあった。


 小池は、窓を背にして座っていた。


 そのため夕方になって外が暗くなってきたのか、カフェの窓ガラスに敦子自身が映っていた。


 その自分が映っている姿を見て、敦子は飛び上がりそうになった。




___なんとそこには桜色に光った目をした自分が映っていた___

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