32 お泊り会です
大学からの友人酒井恵美と敦子の二人は、デパートの地下へと向かった。
もう一人来る予定の横橋久仁子は、仕事で少し遅れるので、直接恵美のアパートに向かうとの事だった。
デパートの地下の食品売り場は、人でにぎわっている。
二人は、それぞれほしいものをピックアップしていたので、買い物はスムーズにすんだ。
やはりというべきか料理もデザートも多めに買ったので、当初の予算を大幅に超えてしまい、恵美のアパートに
つく時には、二人で荷物の多さにげんなりしてしまった。
部屋に入り、テーブルに買ってきたものを並べると、テーブルいっぱいになってしまった。
とはいえ、いいにおいが部屋に充満してくると、急におなかがすいてきて元気になってきた。
「 あっちゃん、ちょっと買いすぎたね。 」
「 確かに。これ全部食べたらやばい。肉になる~。 」
「 でも肉は、うまい! 正義だ。 」
二人まだお酒も飲んでないのに、ハイテンションになっている。
二人で食器の準備をしていると、久仁子がやってきた。
「 ごめんね。遅くなっちゃって。 」
久仁子は、金融機関で働いている。
仕事が忙しかったようだ。
三人で、お食事会が始まった。
「 買い出しありがとう。それにしてもたくさんあるね~。 」
久仁子は、テーブルの上のこぼれんばかりの料理を見て驚いていた。
「 じゃ~~ん、これを放出しよう。 」
恵美が、キッチンから一本のボトルを手に掲げて持ってきた。
有名なワインだった。
「 テンション上がるね~。 」
三人は、そのワインで乾杯した。
「 かんぱ~い! 」
それから思い思いに箸をすすめる。
ワインが食欲を増進したせいか、あっという間にテーブルの上の料理が、三人の胃袋の中へ消えていった。
三人が三人ともお腹が膨れたころ、恵美が言った。
「 くにちゃん、何かご報告があるんだって。 」
「 えっ、そうなの? なになに。 」
「 実は・・・、 今度結婚することになりました! 」
「 えっ~~~~! おめでとう。 」
恵美は、電話で少し聞いていたらしく、驚かなかったが、敦子にとってはびっくりだった。
久仁子は、大学時代から5年間ずっと付き合っていた彼と別れてしまった。
その時には、しばらくこうして三人で集まり、よくお泊り会をしたものだった。
そのあと一年前から同じ職場の人とお付き合いすることになったのだが、たまに以前の彼の事を忘れられないんじゃないかと敦子は思ったことがあった。
「 ねえくにちゃん、結婚しようと思った決定的なことって何? 」
「 そうそう、あっちゃんと同じで、なんですか? 」
恵美は、ずいぶんワインが効いてきたのか、テンション高く手を上にあげて久仁子に質問した。
「 月並みだけど、やっぱり彼といると落ち着くところかなあ。 」
「 へえ____。 」
なぜか聞いた二人のテンションが下がった。
まだそういう思いをしたことのない二人には、ちょっと理解するには、難易度が高すぎた。
幸せ全開の久仁子は、二人の気持ちなど気にするべくもなく反対に聞いてきた。
「 恵美ちゃんやあっちゃんは、最近どうなの? 」
「 なんにもにもない! あっ~、だけどあっちゃんはこれからあるかも? 」
「 えっ~、ないよなんにも。 」
敦子は、つい恵美の発言で玉山の事を思い出してしまい慌てて否定した。
「 なんかあっちゃん、焦ってない? 」
「 そうそう、今日会社の前でね、イケメンさんがあっちゃんに話しかけたんだけど、なんだかいい感じだったよ。 」
恵美は、先ほどの笹川のことを言ったのだった。
敦子は、恵美をほっておいて、久仁子に先ほど会った笹川の話をした。
「 仕事を頼まれただけ。それに狙ってる子多いしね。 」
久仁子が返事をする前に、恵美が先に反応した。
「 そうなの~? やっぱりイケメンは敵だ! 」
恵美は、大声でさけぶと、ワインをグラスになみなみに注いだ。
ひとりワインを飲みまくっている恵美をよそに久仁子が敦子にいった。
「 あっちゃん、また詳しいことが決まったら連絡するけど、お式には来てね。 」
「 あたりまえだよ~。 」
「 お式には、イケメンをいっぱい呼んで! 」
横から恵美が、叫んできた。
まだワインを飲んでいる恵美をほうって、コーヒーを淹れてあとの二人は買ってきたデザートを食べた。
デザートを食べながら、敦子は久仁子から近況をいろいろ聞いた。
恵美も酔い覚ましにコーヒーを飲んで、復活したのか会話に参戦してきた。
「 くにちゃんどこでお式上げるの? 私は、テーマパークのホテルがいいなあ。まるでおとぎ話のようじゃない? 」
恵美は、やはりまだお酒に酔っているのか、今度はひとり妄想の世界に入っていた。
「 恵美ちゃん、まず王子様を探さなくちゃ。ねえあっちゃん。 」
「 そうだよ、恵美ちゃん。あそこでお式を挙げるのは、すご~くお金かかるってネットに書いてあったよ。 」
「 いや~~~、あっちゃん。夢ぐらい見させてよ。 」
すごくいやそうな顔で恵美が言ったので、あとの二人も笑い出した。
そのあと、役に立たない恵美を置いて、敦子と久仁子は残りの料理を皿に入れたりしてかたづけをした。
キッチンで作業する二人に、恵美から声がかかった。
「 なんか鳴ってるよ~。 」
先に久仁子が、バッグに飛んでいった。
彼からだと思ったのだろう。久仁子は、急いでバッグの中のスマホを見たが違うようだった。
久仁子が、呼んだ。
「 あっちゃんだよ~。 」
敦子がバッグに入れてあるスマホを見ると、連絡があった。
『 明日どこか行きませんか。 』
玉山からだった。
敦子は、今日友達の家にお泊りしていること、明日アパートに帰ることを連絡した。
返事は早かった。
『 迎えに行っていいですか? 』
敦子は、ついびっくりしてスマホを落としそうになってしまった。
敦子の挙動不審な態度に気がついた二人が言った。
「 どうしたの? 」
なぜか二人ハモっていた。
敦子は、なんでもないと言いながらも、玉山への返事をどうしようしようかと頭を巡らせたのだった。